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「ったく、お前はいつになったら落ち着くんだ?」
ブツブツと文句を言いながらバスローブを身に付けるハル。
その足元では、大きな体躯を小さくしている黒豹のダンがいる。
(俺を放っておくから…)
「だから一日や二日、大した事ないだろ?野生の黒豹は2年で独立するし、3年もあれば成熟だってする。お前も3歳だろ?」
黒豹相手に説教するのは何とも言い難いのだが、いつまでたっても甘えて飛び掛かって来られてはハルの身が持たないのだ。
ダンは明らかにハルより大きい体躯なのだから。
(俺、ハル以外にはしないし)
「当たり前だ、死ぬ。」
呆れ顔のハル。
だが、シュンと項垂れているダンが可愛くない筈がない。
「ったく…、甘えん坊め。」
甘いと分かっていてもハルは腰をおとしてダンを抱き締め、ワシャワシャと身体を撫でてやるのだった。
一通り撫で続けてやると、大人しく目を細めてその感触を満喫しているようなダン。
「さてと、飯にするか。」
(ハル。俺、肉が良い。魚は飽きた)
ハルがナイトガウンに身を包んだ後、ダンはタオルドライした身体をハルにまとわりつかせながら訴える。
「分かったよ、肉な?」
(うん。ハル、好きっ)
「ぅわっ!?」
了承の意で片手を振りながら背を向けたハルに、希望を聞いてもらえて興奮したダンが飛び掛かった。
咄嗟に壁へ手をついて前に倒れ込むのを回避したハルは、恨めしい視線を背中に覆い被さるダンへ向ける。
「お前なぁ~。」
(ごめん…)
先程言われたばかりなのだが、ダンは興奮するとすぐに前後不覚に陥るのだ。
「ったく…。キッチンには来るなよ?」
(分かった)
軽く溜め息をついたハルは、それだけ告げると再び背を向ける。
ダンは邸内は自由に過ごして良いのだが、キッチンだけには立ち入り禁止なのだ。勿論、それ自体もダンのこの性質によるものだったが。
「肉、肉~。」
ハルは保冷庫を覗き込みながら、本日の夕食を物色する。
保冷庫は魔法石で一定の温度が保たれるようになっている鉄の箱で、上流階級には必ず一台はあり、主に食材を保管する為に使用される。
そしてここで使われる魔法石は魔法屋で購入するのが一般的だ。ちなみに保冷庫がない庶民は、日々買い物に行かなくてはならなかった。
「よし、これとこれと…。あ~、もう買い物に行かないとな。」
ハルは食材を適当にテーブルへ出しながら、主夫のような事を呟く。
父親とハンター生活をしている間も、交代制で食事を作っていたハル。複雑な調理は出来ないが、焼く煮る等の単純料理でも腹は満たされる事を知っていた。




