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ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
ダン
13/322

13

■□■


「ふぅ…。」


 チャプ…と、水面が揺れる。


 ここはロイド王国、王都トラヴィス。


 切り立った崖の上に立つ王城を三角の頂点に貴族街、ギルド上位者街、ギルド街、住民街の5ブロックに街路(がいろ)で分かたれている。


 そしてギルド上位者街に(きょ)を構えるクロフォード邸に、ハルは一人で住んでいた。


「昨日寝不足だったから、今日は早く寝るぞ~。」


 独り言を呟くハルの声が、タイル張りの室内で反響する。


 このクロフォード邸には浴室があり、20人は入れる広い空間を現在ハル一人で独占しているのだ。


 ちなみにお湯も魔法石で沸かすのが貴族の一般常識。


「ぅわっ!?」


 だが、突然の悲鳴と共にハルは湯の中に沈む。


 足でも滑らせたのかと言うと、そうでもない。


「ダン、何すんだ!」


 ザバリと湯面に顔を出したハルは、髪を掻き上げながらも湯気で煙る浴室内に向けて叫んだ。


 すると、(わず)かに離れた浴槽の(へり)に真っ黒な棒が一本…また一本と現れる。そしてヌッと湯面に出て来たのは、またしても真っ黒な塊であった。


(俺を放っておくからだ)


 頭の中に響く声は、まさしくこの黒豹が発している。


 だがそれに驚く事なく接するハルは、既にこの黒豹との共同生活が3年になるからだ。


「き、昨日の夜だけだろっ?」


 (わず)かに気後れしているハル。


 昨夜王都トラヴィスから離れたマンスフィールド邸より帰ったのが明け方だった事もあり、帰宅後倒れるようにして即就寝。短時間の睡眠後、すぐにギルドへ向かったからである。


 つまりは昨夜から今朝にかけて、一度もこの黒豹と顔を合わせていない。


(俺を放っておくからだ)


 再び同じ言葉で訴えて来る黒豹は、浴槽の縁を通ってハルのところへ歩み寄ると、強引に肩口を噛んで浴槽から引き出した。


「ぅわっ…、ちょっ…?!」


 勿論ハルの肉体はそれしきで傷一つ負わす事は出来ないが、その濡れた身体のまま自らの上にのし掛かられては(たま)らない。


 この黒豹は体長190センチ、体重80kgもあるのだ。いくら防御魔法を発動させているとは言え、無防備な裸体に直接の圧力は効果がある。


「まっ、待て!ダン…っ、ダン・ウッドマン、おすわり!!」


 (うめ)きながらも、ハルは言葉に力を乗せて黒豹へ命ずる。


 シャキッ。そんな音が聞こえてきそうな程、疾風の(ごと)くハルの身体の上から床に尻を着けて姿勢良く座る黒豹ダン。


 ちなみに、ダン・ウッドマンが黒豹のフルネームである。勿論、名付け親はハルだ。


(む~っ)


 (めい)には従ったものの、不満げなダン。


 この一芸だけはハルから仕込まれており、如何(いか)なる時も(あらが)えないのだ。そうでなければいくら慣れているとは言え、この様な大型動物を放し飼いになど出来る筈もない。


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