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「ふぅ…。」
チャプ…と、水面が揺れる。
ここはロイド王国、王都トラヴィス。
切り立った崖の上に立つ王城を三角の頂点に貴族街、ギルド上位者街、ギルド街、住民街の5ブロックに街路で分かたれている。
そしてギルド上位者街に居を構えるクロフォード邸に、ハルは一人で住んでいた。
「昨日寝不足だったから、今日は早く寝るぞ~。」
独り言を呟くハルの声が、タイル張りの室内で反響する。
このクロフォード邸には浴室があり、20人は入れる広い空間を現在ハル一人で独占しているのだ。
ちなみにお湯も魔法石で沸かすのが貴族の一般常識。
「ぅわっ!?」
だが、突然の悲鳴と共にハルは湯の中に沈む。
足でも滑らせたのかと言うと、そうでもない。
「ダン、何すんだ!」
ザバリと湯面に顔を出したハルは、髪を掻き上げながらも湯気で煙る浴室内に向けて叫んだ。
すると、僅かに離れた浴槽の縁に真っ黒な棒が一本…また一本と現れる。そしてヌッと湯面に出て来たのは、またしても真っ黒な塊であった。
(俺を放っておくからだ)
頭の中に響く声は、まさしくこの黒豹が発している。
だがそれに驚く事なく接するハルは、既にこの黒豹との共同生活が3年になるからだ。
「き、昨日の夜だけだろっ?」
僅かに気後れしているハル。
昨夜王都トラヴィスから離れたマンスフィールド邸より帰ったのが明け方だった事もあり、帰宅後倒れるようにして即就寝。短時間の睡眠後、すぐにギルドへ向かったからである。
つまりは昨夜から今朝にかけて、一度もこの黒豹と顔を合わせていない。
(俺を放っておくからだ)
再び同じ言葉で訴えて来る黒豹は、浴槽の縁を通ってハルのところへ歩み寄ると、強引に肩口を噛んで浴槽から引き出した。
「ぅわっ…、ちょっ…?!」
勿論ハルの肉体はそれしきで傷一つ負わす事は出来ないが、その濡れた身体のまま自らの上にのし掛かられては堪らない。
この黒豹は体長190センチ、体重80kgもあるのだ。いくら防御魔法を発動させているとは言え、無防備な裸体に直接の圧力は効果がある。
「まっ、待て!ダン…っ、ダン・ウッドマン、おすわり!!」
呻きながらも、ハルは言葉に力を乗せて黒豹へ命ずる。
シャキッ。そんな音が聞こえてきそうな程、疾風の如くハルの身体の上から床に尻を着けて姿勢良く座る黒豹ダン。
ちなみに、ダン・ウッドマンが黒豹のフルネームである。勿論、名付け親はハルだ。
(む~っ)
命には従ったものの、不満げなダン。
この一芸だけはハルから仕込まれており、如何なる時も抗えないのだ。そうでなければいくら慣れているとは言え、この様な大型動物を放し飼いになど出来る筈もない。




