表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
隠れ里
102/322

102

 ハルは自然と左腰に()れた手を()ろす。


 そこには、いつも装備している武器がなかった。


 よくよく考えてみれば当たり前。先程までベッドに寝ていた身なのだから。


「…敵意は見えないけど?」


 内心の焦りを微塵と見せず、ハルは取り(まと)め役だと思われる老人に問い掛けた。


(わし)等も、生きていかなければならないのでな。」


 (ようや)く口を開いてくれたのだが、周囲の空気はあまり(かんば)しくない。


 自分達が生きる為にする事。そんな事は誰しもが(おこな)っている。


「…俺も、自分が生きる為に色々とやってるけど?」


 当たり前だと言わんばかりに、ハルはニッと笑みを見せた。


 だがその挑発には乗らず、老人は淡々と言葉を紡ぐ。


「分かっているのだろう?」


「…キャットピープル、とはな。驚いたよ。」


 決して視線を外さない老人に向け、ハルはボソリと呟いた。


 瞬間、周囲を取り巻く気配が一変(いっぺん)する。


 敵意、恐怖、殺意…。あまりに負の感情が強すぎて、ザワリと首筋の毛が逆立った。


「まさか、本当にいるとは思わなかった。ダンが…そうだとは思わなかった。」


 ハルは後半を溜め息混じりに、誰に言うとでもなく吐き出す。


「…そうだよな、初めからおかしかったんだよな。」


 視線を落とし、自分の裸足を包む力強い緑の草を見た。


「猫の声が聞こえる訳ないのに…。」


 自由に動く左手で片目を隠すように、髪をグシャリと(つか)む。


 だが、その一言でまたしても周囲の気配が変わった。


 驚愕、不安、…戸惑い。


「え?」


 思わずそのままの体勢で、ハルが顔を上げてしまったくらいだ。


「…声が聞こえたのか。」


 静かに問い掛けてくる先程の老人。


 何の話か分からず、ハルは(まばた)きを繰り返す。自然と左手が落ち、ダラリと所在(しょざい)なくぶら下がる。


「獣の声が聞こえるのか、と問うた。」


 再度の問いに、ハルは先程の独り言のような告白の事を言われているのだと気付いた。


「あ…、いや…。全部じゃねぇよ…ってか、基本的に聞こえないし…。ただ…、ダンの声が聞こえるだけで…。」


 ハルは戸惑いつつ、視線をさ迷わす。


 この事は、父親(ジェイラス)しか知らないのだ。言ってはならないと言われたから、誰にも告げた事はない。


 成長すると共に、それが異常な事だと気付いた。そして、他の動物とは会話など出来ないという当たり前の事にも。だから、誰にも言わなかったのである。


 さ迷った視線は、自然とダンの…ダンと名乗った男の姿を映した。自分と同じ、黒い髪の青年。初めて見たこの姿を、何故か知っていると感じた自分が不思議で。


 でも、この金色の瞳を…ハルは知らないと言えなかった。真っ直ぐ見つめるこの金。もはや、理屈ではなかったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ