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あれから三日経つ。
男は毎日、朝昼夕の一日三回、食事と共に薬を持ってきた。
朝と昼は、薬草を煎じた苦くて青臭い汁。夕方は身体の治療もかねて、擂り潰した薬草そのものを持ってくる。
優しく起こされ、丁寧に濡れタオルで身体を拭われ、薬草を塗り広げてから新しい布を巻いていくのだ。
それはもう献身的な、介護としか言いようがない程に親身になって行ってくれている。
「…ありがとう。」
いつしか、ハルの中から男…ダンに対する警戒が解けていた。
自然と礼が口をついて出てくる。
「良い。…俺、好きでやってる。」
一瞬目を見開いたようだったが、すぐにその表情を消した。
基本、この男には表情がない。ハルを警戒しているのかも知れないが、こうして三日間接していてそう感じられた。
そしてもう一つ、この部屋は常に薄暗い。と言うよりは、物が分かる程度の明かりしか入らないのだ。
窓は天井や壁と同じく木製で出来ているらしく、いつも閉まっている。建て付けが悪い為か、すきま風が入る程度だった。そして唯一の出入口の先は廊下で、開閉時に光は漏れてこない。
つまり…ハルはまだ一度たりとも、このダンと名乗った男の姿をまともに見ていないのだった。
暗闇でも視界の利くハルは、この薄暗い部屋でも不自由はしない。自由に動き回れる身体でもないのだが、それが故に困らなかった。
排泄の時ですら、ダンの肩を借りて廊下の奥のトイレに連れていってもらうくらいなのである。勿論、個室内は一人で済ませられるのだが。
「傷、大分良くなってきた。」
「ん…、そうだな。」
新しく巻かれた包帯を気にしつつ、ハルは両の手を握り締める。
確かに回復が早い、と実感していた。
初めて自分の身体の状態を知った時、かなりの衝撃を受けたハル。
右腕は完全な複雑骨折、左腕も大きな裂傷を負っていたのである。頭部と脚部には軽い裂傷、全身に複数の打撲だ。
ダンに助けられていなければ、既に野犬か魔物の腹に収まっていただろう。
「…明日、外に出てみるか?」
その言葉に、ハルは思い切り驚いた表情を向けてしまった。
「良い…のか?」
軟禁状態である自分に、こうも簡単に外出を促して来るとは思わなかったハル。
「もう…大丈夫だと、言われた。」
また、聞き伝の言葉を告げられる。
その言葉を聞く度に、ダンは誰かに言われ、自分の面倒を看ているのだと思い知らされる。
「…そ、か。」
ハルは何故だか心臓の奥が痛むのを感じた。
名前しか知らないこの男に、それ程までも心を許したというのか。有り得ないだろ、と内心自嘲するのだった。




