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第ニ章 『出撃』 第8話 『逃亡』

主人公 大園(おおぞの) ひかり

友人 北陽水美(ほくようみなみ)

天界の使者 アテナ=フォース=メルキオーネ

魔界の使者 エリィ


前回のダイジェスト

4日間の訓練を受けている途中に敵の襲来を告げられた仲間と共に出撃した主人公、いよいよ実戦に突入するが初めての戦闘で相手からの攻撃をくらい倒れこんでしまう。

「ひかりっ!?」


 敵の直撃を全身でモロに食らったひかりは遥か遠くへと飛ばされ倒れこむ。

 倒れたままで動かなくなった仲間に安否を確認するために必死に相手のシステムへと体に異常をきたして呼びかけて確認をする


「ウェンディ、ひかりの状況は!?」


 AIが肉体の状態を調べリーダーである少女に返答を返す。


『-肉体的なダメージは受けておりません、ですが精神パターンに大きな乱れがあります』


 リーダーである娘は肉体的なダメージは無いと聞き少しだけ安心した。

 やがて、ひかりは倒れこんだ体を起き上がらせ両足で立ち上がろうとしたが崩れ落ちる。

 体の痛みは殆どないが何か雰囲気がおかしい、膝がガクガクと震えていて体を起こし立ち上がることが出来ない。


 そこへ先ほどの娘に強烈な一撃を食らわせた敵が倒れていた相手のところへ再度急速接近しながら少女の前に立ち塞がる。

 見上げた敵の巨大な体が得も言われぬ威圧感を出して迫るが蛇に睨まれた蛙のごとく体を自由に動かすことが出来ない。

 先程と同様に右手を振り下ろし標的を倒すために攻撃を行う。


「ひっ!」


 聞こえてきたのは嗚咽に近い自身の悲鳴の声。

 相手の攻撃をギリギリで交わすことが出来たが全力で後ずさりをして目の前の相手から必死に逃げようとしている。

 少女の目には最初に対峙した時違いとても巨大な敵が自身に襲い掛かるような感じがしてその恐怖から逃げる事しか考えていなかった。


「ひかり!剣を奪い返して攻撃しなさい!!」


 アテナが何度も呼びかけるがこちらの呼びかけに全く反応しない。

 呼びかけている娘は逃げ惑うのが精一杯で通信の呼びかけに反応する余裕もない、ヘルメットの間から覗き見える表情は明らかに相手に怯えて完全に戦意を喪失している状態だ。

 少女は目の前の相手から必死逃げようと手を使い後ずさりしている姿だった。


「ちいっ!!」


 拉致があかないと感じたリーダーである娘は自身の機体を急速反転させ仲間のそばにいた敵へ超絶な加速で詰め寄る。

 敵がこちらへ振り向いて攻撃をする暇もなく自身の武器を通過する一閃で胴体を真っ二つに切り刻み相手を戦闘不能状態に仕上げる。

 動かなくなった機体から剣を急いで抜きひかりに渡そうとする。


「受け取りなさい!」


 左手の盾で他に迫り来る敵の攻撃を防御しながらへたり込んでいる少女に武器を差し出すが相手は身を小さくしてまるで生まれたての子犬のように体が小刻みに震えて動こうとしない。

 ひかりは初めて感じた得も言われぬ恐怖に自身の感情を抑えることが出来ずただ呆然として動けなかった。


「ひかりっ!!受け取りなさい!」


 相手の目を覚まさせるようにもう一度大声で少女に呼びかけるがこちらが幾ら叫んでも反応がない。

 茫然自失な相手に呼びかけても無駄だと感じたか自分が攻撃に専念するための対策を瞬時に考えて自身の機体に命令をする。

 

「アイリス!シールドシステムをラージモードに変更」

「リムーブして内部予備エネルギーでしばらく防御させて!」


『-シールドを内部予備エネルギーに切り替えました、ラージモード使用のためエネルギー持続時間は3分です。』


 装着していた盾が左手からはずれシールド下部から剣に似た姿をした倒立棒が地面に突き刺ささる。

 と同時に防御範囲が大きく広がりひかりの周辺に飛んでくる遠距離攻撃を防御する楯となる。


「残る残機32機…」


 ドールへがいる方向へと飛び立ち、地上の状況を確認しながら上空で戦っている仲間の様子を伺う。


「エリィ!そっちの状況は!?」


 空にいる少女が現状を伝えて心配そうに聞いてくる。


「…残るは後15機、ひかりの様子は…?」

 

「そっちが終わったら地上の援護を頼むわ!まずはそちらの攻撃に専念して!」


「…了解」


 さすがにエリィだ。

 もう半分以上の敵を倒している、こちらも負けてられない。


 アテナは迫り来る敵の集団から次々と放たれる遠距離攻撃を巧みに交わし鬼神のごとく攻撃をする

 1機…2機…3機と続けざまに破壊し、次々と攻撃対象を切り替えて攻撃していく。

 一人で全部倒すなら問題ない。

 しかし動けない人間がいる状況で時間制限もあるでもやらなければならない。

 自分を奮い立たせ次々と目の前に現れる敵を全速力で破壊していく。


 『-シールドエネルギー残時間1分です。』


 アイリスから容赦無く残り時間が告げられる。

 目の前の敵はあと15体はいる、時間内に倒しきれるだろうか?悩んでる暇はない。

 そこへ空からの攻撃が割り込み、地上に居た後方の敵が次々と破壊される


「…援護する」

 

 空の敵を殲滅した娘が援護に来た、リーダーである少女は時間一杯で倒せるか必死だったが二人がかりで倒せるなら問題ない、次々と目の前にいる敵を倒し続けやがて戦闘が終わる。


 少女達は、動かなくなった娘の元へ駆け寄る。

 心配を他所に体育座りのような形で座り込んでいるだけで動こうとしない。


「帰るわよ」


 目の前で何もせず茫然自失に陥ってる少女に対して帰投するように指示を出す。

 だが言葉が耳に響いていないのか全く動かない。

 手を持ち立たせようとするが全く力が出ておらずぐらりと横に体が倒れこむ、その姿を見て業を煮やしたアテナが相手のAIに対して命令をだす。


「ウェンディ、オートパイロット。私の機体を追尾させて」


『-了解しました』


 三人は学園まで低空飛行で飛び帰投する。

 校舎近くにある小さいスペースに近づいたところで全員その場所に着地をする。


 全員の装備を解除して少女たちは校舎へと続く階段を降りていく。

 先ほど動けなかった娘もやっと立てるようになったのかゆっくりと二人の後を付いて行く。

 しばらく無言が続いたがアテナがこれからの事を考え全員に告げてくる。


「第二視聴覚室で反省会をやるわよ、いい?」


 静寂の間が続いた後に、先ほど醜態を見せた少女から出た言葉は意外な発言であった。


「ごめん、ちょっとトイレ行っていいかな…」


「解ったわ、後で視聴覚室に来なさいよ。」


 そう言って二人が先に校舎に入り姿が見えなくなったところで、少女は逆方向へと駆け出した。

 自身の脳裏で先ほどの出来事を思い出し逃げ出す。

 全くの役立たずで足手まといだった。

 今まで味わったことがない迫り来る恐怖が全身に駆け巡り何とも言えない感情が沸き起こる。


 猛烈に走った、苦しさなど感じない、なにもかも放り投げたい挫折感。

 そんな感情に押しつぶされそうになりながら自宅へと必死に帰ってきた。


 逃げ出すことを何となく肌で感じていたリーダーである少女は秘密通信で現在の居場所を聞き出す。


『-現在自宅です。』

 

 彼女が逃げ出す事を予想して窓から見ていた娘は現在位置を確認しながら目的である第二視聴覚室には行かずに寮に備えられた自分たちの部屋へと戻っていた。


 部屋に戻り自分の机に備え付けられた椅子に座ると両手を自身の頭の前で組み今日起きた出来事を振り返る。 

 初めての実践で起きた事故にアテナも猛省していた。


 今回の出撃は早かったのではないか?

 機体の整備は万全だったのか?

 もっと訓練が必要だったのじゃないか?


 そう思ったら即行動を開始したタブレットに似た端末を空中から取り出し指で操作してひかりの機体から送られてくるデータをモニターに繋ぎ各部を細かくチェックしていた。

 

 相室のエリィは自身のベッドに腰掛けて本を読んでいる振りをしながらその様子を静かに見ていた

 何故ならアテナがこんなに動揺しているのを初めて見るからだ。


 日は変わり翌日。

 早朝に自宅のベッドで寝ていた娘は母が何時ものように起こしにきたが、少女は布団から出ようとはしなかった。

 心配になった母親が娘の様子を見に行き話を聞くと。


 「…具合が悪いの」


 母は手で軽く体調を崩したと言った娘を案じ手で熱を計ったが特に発熱はなさそうだった。

 今までいつも元気で病気など殆ど掛かったことがない子供が弱気な表情を見せる姿を見せ安静にさせるために今日は欠席させる事に決め学校に連絡しにいった

 ひかりは静かにベッド横になり考えた、初めて仮病を使い学校をズル休みした。

 自分自身から吹き出てくる心理的な不安と倦怠感が体全体を襲い長年使い慣れたベッドの中に潜り込む。

 何もしていないのに、何も考えてないつもりなのに嗚咽が漏れてくる、どうしようもない自分に泣いた。


 

 場所は変わりウラヌス女学園の教室

 教室で親友であるみなみが授業を受けながら、珍しく休んだひかりの席を心配そうに眺めていた。

 午前中の授業を終え昼休みに入りいつも一緒に昼食を摂る仲間が一人少ない中、さくらと食事を終えて元の教室に戻る。

 授業が始まるまでの時間を友人の席を再度眺めゆっくりと過ごしていたところに予想外の来訪者が教室へと現れる。


「北陽みなみさんは居るかしら?」


 呼び出してきた少女、それは彼女があまり良く思っていないアテナだった。

 教室にいる少女の姿を確認した娘は側により突然あるお願いをした。


「ひかりの事についてちょっとだけ話があるの、少し時間を貰えないかしら」


 自身が気にしていた親友の事を口に出され、とても内容が気になり素直に席を立ちしっかりとした口調で返事を返した。


「解りました、どのようなご用件かは解りませんが付いて行きます。」


 場所は変わり昼間の学園での回想


 場所は学園に戻り廊下から離れた人通りが少ない階段の近く

 そこへ、突如として呼び出されたみなみ。

 相手の方へ振り返り真剣な面持ちで


「貴方をひかりの長年の友人、いや親友と見込んでひとつお願いがあるの」

「あの子は、今まで味わったことのない敗北に対して自分を見失ってる」

「だから、親友の貴方が支えてあげて、お願いします。」

 アテナは深々と頭を下げてみなみに懇願する。


「それに何のメリットが有るのでしょうか?」

「むしろ、貴方達との付き合いがなくなればひかりちゃんは戻ってくる」

 自身にはデメリットしかないように聞こえる言い方に強めに答えた。

 相手は少しだけ弱気に納得するような言葉を告げる。


「そうかもしれないわね」

「でも一つ言わせてこのまま放っておいたら…」

 言葉を一瞬つまらせて、


「男勝りで元気いっぱいの大園ひかりは消えてしまい、彼女はか弱いだけの普通の女性になる」

「貴方はそれに耐えられる?」

 予想もしていない事象を告げられ一瞬戸惑うが毅然とした態度で自分の考えを伝える。


「ひかりちゃんが変わっても友人であることには違いありません」

 少し間を置いて補足で心境を吐露する。

「でも、少し考えさせて下さい。」

「解ったわ、約束ではなくお願いだから守る必要はないけど…」

「でも、貴方の事を信じてる」

 そう言ってアテナは、みなみの元から去っていった。



 場所は代わりひかりの自宅

 何度か寝ては起きてを繰り返して時計を見ると既に時間は16時。

 学校の授業も終わって皆帰宅している頃だろう。

 家中が静まり返り静寂が続いた頃に突如玄関のチャイムの音が聞こえた。

 突然の来訪者に驚いた母が上の部屋にいる娘に大声で告げる。


「ひかりー、みーちゃんがお見舞いに来たわよー」


 母の声が階段から部屋にまで聞こえてきた、だが返事は返さなかった。

 それを知ってか知らずか一歩ずつ静かに登ってくる足音が聞こえる。

 部屋の前まで到着した人物は部屋のドアを軽くノックして中の住人に断りを入れ扉を開ける。


「ひかりちゃん、入るね」


 部屋に入ってきた親友を背中で感じたがどうしても見れなかった。

 娘は今日一日何度も寝ては思い出し泣きを繰り返し、きっと見られないほどの酷い顔をしているはずだからだ。

 

 来訪した少女はベッドの近くにある座布団にでも座るかと思ったが予想とは異なり大胆にも寝ている娘のベッドに腰掛けてきた。

 狸寝入りをして静かに動かずにしていると、少女は頭に手を伸ばしてゆっくりと頭から髪を撫でる。


 突然の行為に横になっていた娘はピクッと反応してしまい、狸寝入りがバレていると思い観念したのかゆっくりと上半身を起こし相手の顔を見る。

 目の前位にいる少女はとても心配そうな表情をしていた、長年の付き合いだから相手の顔を見ればどんな気持ちか痛いように解ってしまう。

 十数秒だろうかしばらく見つめた後に寝ていた娘の状態を聞いてきた。


「…体の調子は大丈夫?」


 相手の話し方から少女の事を心底心配しているような感じを受ける

 仮病を使い学校を休んだとは言えず、答えを出すのを少し戸惑いながらいたわってくる相手に返事を返す。

 

「う、うん…一日寝たから多分大丈夫だよ…」


 嘘だ、体の調子なんて最初から悪くない自分を心配してくれる親友を言葉で誤魔化すような真似をして言葉を発した娘は心が傷んだ。


「ひかりちゃんが学校を休むなんて久しぶりだから驚いたわ」


「ご…ゴメン、何か体調が優れなくて」


 相手から目を逸らし終始その場繋ぎの言い訳で濁すしかなかった。

 

 目の前の少女は終始言い訳をする友人の心境を悟ったのかグッとそばへと近づく。

 そして両腕で相手を強く引き寄せて自身の柔らかい胸に相手の顔を埋める。

 突如の出来事に驚く少女、抵抗しようと考えたが相手の体から感じる余りの心地よさにしばらくその状態のままでいたいと感じゆっくりと時間が過ぎていく。

 娘は自分の胸元にいる親友に優しく言葉を掛ける。


「アテナさんから少し聞いたわ、ひかりちゃんが何かに負けて落ち込んでいるって」


 その言葉を聞いて胸元で顔を埋めている少女は正直驚いた、まさか彼女からそんな事が友人に語られているとは全く思っても見なかった。

 全てこの娘は悟っていたのだ、それなのに優しく接してきて慰めてくれる。

 自身の感情が昂ぶり思わずまた涙が出そうになったがグッと我慢した。


 昔を思い出すように静かに今までに起きた過去の出来事を振り返るように語り始める。


「ひかりちゃんは昔から何時も私のことを守ってくれた」

「私には自分の得意な勉強でお返しすること以外何も出来なかった」


「でもね、傷つき悲しんでいるなら慰めてあげるくらい出来ると思うの」

「だからしばらくこのまま…ね?」


 抱かれていた少女は相手の腰に手を回して友人を強く抱きしめる。

 親友の体の温もりを感じながら自分自身を思いやってくれる相手の優しさを感じまた涙が溢れそうになる。


 今までのことを思い出したが別に見返りなど全く考えてもいない。

 何時も大事な友人はちょっかいを掛けて悲しませる男子が許せなかっただけ。

 ただそれだけの気持ちだった。

 

 だが、その思い出を親友は大切に思ってくれている。


 しばらくの時間が経ったかが相手からゆっくりと離れ泣きそうだった顔をグッと我慢して強がった表情を見せ告げる。


「明日は、ちゃんと学校に来るよ」


 その言葉を聞いた彼女はとても嬉しそうで誰もが引き寄せられそうな飛びきりの笑顔を見せて指切りをしようと指を差し出す。

 相手の指に自身の小指を絡め明日必ず来るという約束を交す。


「いつもの場所で待ってるからね」


 少女は元気そうに立ち上がり机に立てかけてた鞄を両手で持ち上げ


「じゃあ、私は帰りますね」


 ベッドに居た娘は布団から出て立ち上がり、相手のことを案じて言葉を掛ける


「送って行こうか?」


 だが娘は相手のことを想ってか柔らかく断りを入れてきた。


「せっかくの申し出ですけど、パジャマ姿だし家もそんなに遠くないから平気ですよ」


「じゃあ、玄関まで送るから」


 その言葉にコクリと頷き二人でゆっくりと階段を降りてき玄関まで向かう。

 上品に靴を履いて帰る支度が出きた友人は帰りの挨拶を交す。


「おじゃましました、じゃあまた明日ね。」

「また明日、気をつけて帰ってね」


 礼儀正しく挨拶を交わし手を降りながら帰る姿を見て相手の娘も元気一杯に両手で手を降ってアピールする。

 扉を開けて外に出た少女の顔はとても晴ればれとして自然と笑みがこぼれてくるような嬉しそうな感じを醸し出していた。

 友人の大事な支えになれたような気がして上機嫌のまま自分の家がある方向に帰っていき帰宅の途に付いた。


 日は変わり翌日。

 昨日の約束の通り、朝の待ち合わせの場所に向かった。

 彼女は早くからそこに現れる友人を待っていた。

 友人の元気な姿を見た少女は嬉しそうな表情を見せ二人で学校に登校をした。

 学校に登校してとりあえずアテナに謝ろうと思い彼女の姿を探したが見えなかった。


 どうやら今日は自分が来た代わりに学校に出席してないようだ。

 来ていない彼女のことを気に掛けながら、午前中の授業を終え、昼食を取り、そして午後の授業と一日が更けていく。

 すべての授業が終わり廊下に出たら予想もしない人物が待ち構えてた。

 それはエリィだった。


「…付いてきて」

 彼女はそれだけしか言わなかった、言われてそのまま付いていくとミーティングを行う第二視聴覚室でも地下施設でもない体育館であった。


 部活の人たちもまだ来ておらず、この場所にいるのはひかりとエリィのふたりだけである。

 突如としてエリィはどこに仕舞っていたか解らないが懐から竹刀をニ本取り出してその内の一本をひかりに差し出しある提案を申し出てきた。


「…私と勝負して」

「…もし、私に負けたら土日は特訓に参加すること、いい?」

 自分が全く予想もしていない展開だ。

 エリィが自分自身から行動を起こし、しかも自身と戦うなど誰が考えようか、だが彼女の目は真剣そのもので断れる雰囲気ではなかった。


 ひかりは片方の竹刀を受け取り構えをとって対峙する。

 対戦相手の少女が同様に竹刀を両手で持ち似たようなポーズで静かに身構える。

 しばらく無言のまま隙を伺っていたが相手が突如接近して竹刀を振り下ろし攻撃してくる。

 だが、彼女の動きは予想していたよりとても遅い。

 剣道に関しては全くの素人にしか見えず、こちらがカウンターで放った竹刀が彼女の頭に振り下ろされた。


 竹刀の音が体育館に響くほど見事に頭へとクリーンヒットした。

 防具も付けずに頭に竹刀が当たった少女を案じて近くに近寄り声をかける。


「エ、エリィ! 大丈夫!?」


 目の前の少女は両手で頭抑えて座り込み必死に痛みに耐えているようだ。

 しかし、すぐに立ち上がり少し涙目でこちらをみて冷静に今の勝負について告げる。


「…解った? 剣の戦いをしても私では貴方には勝てない」

「…それでも相手に攻撃が通用しなかったのは自分自身に何か原因があったとしか思えない」

「…私は戦闘を見てなかったから何とも言えないけど」


 自身の右手でひかりの左脇腹に指差し問いかける。


「…貴方がアテナからここに食らった苦痛とドールに攻撃された時に感じた痛みどっちが上だったか自分でよく考えてみて」


 少女の指摘は的確で言われた通りだ、初日にアテナから攻撃された時の痛みは先日ドールに攻撃された時の比じゃない。

 自分が立ち上がれない程の激痛の中で自分奮い立たせ自身の意志で立ち上がった。

 対して初出撃で食らったダメージなんて殴られたが殆ど痛みもなく遠くに吹き飛ばされただけであった。

 ただ、それが意志が通じぬ敵の攻撃と得も言われぬ圧迫と威圧感により単に恐怖を感じて怯え何も出来なかっただけである。


 物静かな少女が語る心に響く指摘を受けて悩んでいた自分が馬鹿だと思った。

  娘は突然、両手で思いっきり自分の頬を何回も叩いた少し赤く腫れる位に。

 これは自身に気合を入れるためだ、こんな痛みなんてあの時の激痛に比べたらなんてことない。

 そして自分自身が足りないものを補うためにある事を思いついた。


「エリィ!土日に特訓とか行ってたけどパス!」

「ちょっとやりたい事が見つかった、でも逃げるんじゃないから信じてほしい!」


 その言葉を聞いて彼女が正面に立ち何時も眠そうな半開きな眼だが真剣に自分の眼を見つめてくる。

 しばらくその状態が続き何かを悟ったのか口を開き答えを出す。


「…解った、アテナには伝えておく」


「ありがとう!」

 

 ひかりはエリィの両手を握り喜びを表す。

 彼女は少し戸惑ったような感じを出したがすぐ平常心へ戻った。


 そのままエリィと別れひかりは全力で走った。

 まず自分を支えてくれた友人に急用が出来たので先に帰ることを告げる。

 彼女は元気そうな自分の姿を見て喜んで送り出してくれた。


 そこから急いで自宅に戻り書き置きを残し庭においてあった自転車に乗り急いで駆け出す。

 目的は剣道場を開いている祖父の家だった。

鍛えられ戦えると思った主人公が完全に敗北

全てから逃げ出したい挫折感、心の弱さを見せる。

でも、一人じゃない。頑張れば誰かが自分を支えてくれる。

そんな気持ちが伝わればと思い書いてみました。


次は、第ニ章『出撃』 第9話『自分を取り戻すために』をお楽しみに!

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