第ニ章 『出撃』 第6話 『特訓』
この話での登場人物
主人公 大園 ひかり
友人 北陽水美、横道 さくら
天界の使者 アテナ=フォース=メルキオーネ
魔界の使者 エリィ
前回のダイジェスト
学船長室に連れられて学園長代理と副学長に謁見した主人公は衝撃的な内容を告げられる。謎の兵器であるドールからこの地球を守るために戦士として戦って欲しいという願いであった。自分にできるかどうか解らなかったが承諾して彼女らの一員となった。
「ねえねえ、昨日何があったのっ!?」
自身のトレードマークであるツインテールの髪型を揺らし口火を切ってきたのはさくらであった。 みなみと三人で学食で昼食を取りながら昨日起きた夕方の出来事が気になっていたのか問いただすようにひかりを追求してきた。
「私も少しだけ気になります。」
みなみも聞くのを我慢していたのかさくらの発言に相乗りするような形で同様に訴えかけてくる。 ひかりは昨日の出来事を思い出すがどうしようかとちょっと考えてしまう。
アテナとの戦闘、学園長代理と副学長との会話、この学校のヒミツなど話せないことが満載だ。
どうしようかと思い頭を捻っりながら周りを見渡してみると自分たちの席から少し離れた場所にアテナとエリィが座って昼食を取っていた。
アテナがこちらを見て一瞬目が合うが表情と態度はまるで、
『余計なことは喋るんじゃないわよ。』とでも言わんばかりであった。
友人二人の好奇心の眼差しに追求されとりあえず差し障りの無い言い方で昨日の出来事を語りだす。
「えーとね、昨日来た二人と一緒にスポーツ特待生としての試験があってそれを受けてたんだ」
「ふんふん、それで?どんな事やったの?」
友人達が更に聞き耳を立てて来る。
「えーと、試験の内容は学園長代理に秘密にしておいてと言われてるので詳しくは話せないよ」
「だけど、一応試験には合格みたいな感じになったかな」
「えー、教えられないの?」
さくらが不満そうにほっぺの片側を膨らましながら残念といったような表情をする。
「ごめんねー、約束だから言えないんだ」
両手の手のひらを合わせごめんなさいと言う形を作り二人にお願いをした。
「それで試験に合格したの…?」
結果が気になったのか更に差し障りの無いように聞いてきた。
「うん、多分近いうちにまた集まるから一緒に帰れなくなるかも」
いつも一緒に帰る友人に対して申し訳無さそうに謝罪すると
「まー、しょうがないよねー。部活みたいなものなんでしょ?」
さくらが解りやすい例えを持ちだしてで答える。
「そう…なのね、残念です。」
しかし、みなみの表情は一緒に帰れなくなる事が寂しいように見えた。
そのまま雑談をしながら食事が終わり廊下に出るとそこにはアテナとエリィが待ち構えていた。
「ひかり、授業が終わったら1Fにある第二視聴覚室まで来て」
アテナが今日の予定について告げてきた。
返事をしようと思い口を開こうとした瞬間、突然自分の前に割り込んで来た人物がいた。
それは、後ろにいたはずのみなみである。
「私の友人を突然呼び捨てにして更に命令までして貴方は一体何者なんですか?」
いきなりアテナの呼び出しに対して食いついてきた。
アテナの表情は少し険しい顔になり、いきなり何だこの娘とでも言わんばかりの表情だ。
突然の変貌ぶりに呆気にとられていたが少し焦って急いでその行為を制止しようとする。
「ちょ、ちょっと待って」
ひかりが間に入り友人を説得しようとする。
「みーちゃん、アテナは試験を一緒に受けてそこで仲良くなってお互い呼び捨てにしても良いって事になったんだよ」
アテナが相槌とも言えるフォローを冷静に入れる。
「ええ、そのとおりよ。なにか不服でもあるのかしら?」
友人からの補足を聞いてしっかりとした口調で話を続けた。
「私は北陽みなみと申します」
「ひかりちゃんとは長い間友人としてお付き合いさせて頂いております。」
「貴方の言葉遣いがとても失礼に感じてしまったのでつい語気を荒めてしまい大変失礼しました。」
毅然とした態度でアテナに自己紹介をした後に礼儀正しく深々とお辞儀して謝罪する。
自分の行動に対して謝罪を見せる少女に対し礼儀だからと感じたのか自分のことを語る
「まあ、名乗られたのならこちらも言わないと失礼だから紹介しておくわ」
「私は、アテナ=フォース=メルキオーネよ、フルネームは長いのでアテナでいいわ。」
「そしてこの子がエリィ」
その言葉を聞いて頭を少しだけコクリと下げる少女、相も変わらず無口だ。
後ろにいたさくらがついでに自分もと間に割り込んできて話す。
「なんだか空気がピリピリしてる感じがするけど、私もついでだから言っておくねー」
「私は横道さくらだよー、よろしくねー。アテナさん、エリィさん」
緊迫した空気がさくらの軽いノリで少し和らいだ感じがする。
彼女の軽いノリに振り回されたこともあったがこんなにも助かったと感じたことは初めてだ。
「それでは、授業がありますのでこれで失礼いたします。」
話を打ち切るように教室へ向かう少女を追いながらひかりが先ほどの返事をするように伝える。
「アテナ、授業終わったらボクも指定された場所に向かうよ」
「了解」
直ぐに返事が来たのを確認して駆け足で先に行った二人の元へ追いつく
教室へと向かう三人を見ながらアテナは何か納得したような口元が少しだけニヤリと笑う。
廊下を歩き教室に戻りながら先ほどのみなみの変貌っぷりが気になりつい問いかけてみた。
「どうしたのみーちゃん、あんまり見たこと無い感じだったけど」
「知らないっ」
そう言って顔を反らし膨れたような顔をしながら戻るまでの間、終始不機嫌だった。
「どうしたんだろ…?」
予鈴が鳴り教室に戻り午後の授業を受け、そして一日が経過していく。
時間は代わり放課後
ひかりは既に用事がある事を知っているが念のため友人に伝えていく。
「じゃあ、ちょっと集合の予定があるから先に行くね」
「うん…、さようならひかりちゃん」
昼の様子とは打って変わって少しだけ寂しそうな表情をしながら手を降って送り出す。
友人に別れを告げた後、1Fの第二視聴覚室へと向かう。
聖ウラヌス女学園中等部の建物は教室以外のフロアーが1階に集中していて職員室や保健室等色々な施設が集まっている。
歩いて行くと見慣れた二人が入り口で待機していた。
「来たわね」
そう言いつつ部屋の扉を開けてアテナ、ひかり、エリィと続けて中に入る。
「エリィ、部屋をロックして」
そう言われたエリィが、扉の鍵をロックして照明横のスイッチを押すと部屋のカーテンが全て閉まる。
そのままアテナは奥の方に進み
「こっちに来て」
部屋の奥にある準備室を開けて来るように呼びかけ皆で中に入る。
その中に並んだ少し大きめのロッカーの一つを鍵で開けると隠された螺旋階段があり下に降りれるようになっていた。
「こんな秘密の入口が…」
「一応、会話を聞かれたら困るからね」
階段を降りると真っ暗な部屋に辿り着く。
入口にあるスイッチを押すと部屋が明るくなり20人位は収容できそうな会議室位の部屋があった。 中心に机が並べられ周りに木製の椅子とは異なり座り心地が良さそうな椅子が並んでいる。
正面にはホワイトボードも用意され会議なども出来るようになっている。
周囲には窓と呼べるものはなく外に通じてそうなのは空気循環用のエアコンくらいであった。
部屋に入ってアテナが会議室で偉い人が座るような上座の椅子に深く座る。
足を組んでリラックスした仕草をすると近くの席にエリィも座って懐から本を取り読み始める。
「好きな所に座っていいわ」
アテナがひかりに座るのを促す。
ひかりは少し遠慮がちに二人とは少し離れた椅子に座る。
突如アテナが今日の昼に起こった出来事を振り返り語りだした。
「ひかりの友だちがいきなり絡んできた時はビックリしたわ。」
少女は仲がいい友人が突然変貌した事に素直に謝ろうとした。
「う…うん、ごめん。三人いる時はいつも穏やかであんな姿見せた事無くてこっちも驚いた」
額に人差し指を当てながら目を閉じて少しだけ考えて言葉を続ける。
「何だろうね、まるで嫉妬されてるみたいな感じがしたわ」
「えー!?」
驚きの声を上げる
「ボクは男っぽい雰囲気はあるかもしれないけど一応女の子だよ?」
片腕を上げて手首を曲げながら
「そういう意味じゃないんだけどまあいいわ、余談は此れ位にして本題に入りましょうか」
エリィは本を読みながら聞いてはいるがあまり興味が無いようだ。
「とりあえず、今日はあなたの嫌いな勉強ね」
アテナはひかりを銃の形にして指さしプレッシャーを掛けてくる。
「ま・ず・は…♪」
アテナが席を立ち音楽にでも乗ってるようなテンポの声でひかりに近づいてくる。
「ちょっと後ろを向いて髪を上げて首を出しなさい」
娘に背中をこちらに向けるように指示してきた。
何だろうかと思い椅子で体を反転してポニーテールを持ち上げ首筋を見せる。
「大丈夫、痛いようにはしないわ…」
そういいポケットから何かを取り出して歩いてくる音が聞こえてきた。
少し気になり、ちらりと後ろを見ると不敵な笑みを浮かべながらアテナが注射器のような物体を持ちじわじわと近づいてくる。
その姿を見てひかりが椅子を弾き飛ばす位の勢いで飛びあがり部屋の壁際に逃げる
「なにそれ!?ボク注射苦手なんだよ!!」
「中学生にもなって注射怖がってるんじゃないの、痛いのは一瞬よ」
ひかりは両手を前に差し出し頑なに拒否するように嫌だと言わんばかりのアピールを示す。
予想外の抵抗にあったアテナが
「エリィ」
早々に椅子に座って本を読んでいた少女に対して呼びかけてて目配せをする。
それを見たエリィが呪文のような言葉を小さく呟く
「…氷の力よ僅かに強まれ」
何かの呪文を詠唱したようでそれと同時に
「ひゃぃっ!!」
ひかりは裏返った変な声が出た。
左脇腹の所に氷を直接肌に付けられたかのような突然の感触に吃驚して手を降ろしてしまう。
その隙を付かれアテナに体をひっくり返され背中から抑えこまれてしまう。
「もう観念しなさい、動いたら危ないわよ」
缶ジュースを開けるような音を鳴らし首筋の裏にある頚椎部分に注射が打ち込まれる。
一瞬だけチクっとしたが殆ど痛みは感じない。
「あ、痛くないや…」
「だから言ったでしょ無駄に時間取らせないの」
自分に薬っぽいのを注射されて一体何なのか問いかけようとした。
「一体何を注射したの?」
「重力加速軽減緩衝薬」
さらりとアテナが難しい単語で返答してきた。
「ぐ、ぐらびてぃーきゃんせらー?」
聞いたこと無い単語についひらがなっぽい発音で聞き直す。
「まあ、簡単に言うと肉体が急激な重力加速で潰されないようにGが掛かった時に細胞や血液をゴムやゼリーのように柔軟にして肉体の負荷を軽減する自己増殖細胞型ナノデバイスのひとつね。」
「AWシステムは、瞬間的に音速まで加速をする事が出来るけど常人は重力加速に肉体が潰されてまず耐えられないから、耐G負荷を軽減するための薬みたいなものね。」
「もちろん肉体に害はないし成長にも影響ない、地上人でも実証済みだから問題ないわ」
「…???」
ひかりは内容がさっぱりわからず頭に疑問符が浮かんでる様子を見せ悩んでいる。
「言ってる意味が解らない?」
「…はい」
素直に返答を返す少女に対して頭を捻りこの地球上で解りやすく例えられるものは無いか考えて閃いた。
「自動車にエアバックってあるの解るよね、衝突時に膨らんで人間を守る装置」
「あんな感じで加速が掛かった時に搭乗者を守るのよ」
解りやすい回答を聞かせたつもりだが自分なりの解釈が異なるのか
「ええっ!?じゃあ速度が早くなると体が風船みたいにふくらんじゃうの!?」
突拍子もない発想についひかりが風船みたいに膨らんだ姿を想像してその滑稽さについ笑みがこぼれてしまう。
「ふふっ…あはははは!」
アテナが声を上げて笑うなんてとても珍しい姿を見たような気がした。
「ユニークな言い方するのね、ちょっと面白かったわ、まあ簡単に言うと体を守る薬って事よ」
「う、うん…解った」
「それじゃあ次にいくわ、昨日のペンダント持ってきた?」
「あ、うん。返すの忘れてたなあと思って忘れずに持ってきた。」
ひかりは鞄の中を漁り入っていたペンダントを取り出してアテナに差しだが受け取らずに首筋を指さし自分の首に掛けるように促す。
「学園長代理には許可をもらっておくから常に首にかけておいて、そして常に身につけておくこと」
ひかりはアクセサリを首にかけて胸元に出す。
「まずは正式に機体登録しないとね」
「機体ナンバーF-021 起動」
昨日と同じようにAIが起動して音声を発する
『起動完了しました』
「登録者 大園ひかりにスーパーユーザー権限の承認を実行、期限は管理者が解除するまで。」
『-ユーザー権限の変更実施…完了しました。』
「コントロール用音声登録を開始、ちょっと自分の名前を大きく言ってみて」
その言葉を聞き自分の声を大きく名乗る。
「大園ひかりです!」
『-操縦者の声紋を登録しました、以後音声によるコントロールが可能です。』
「機体モデル変更 剣士型Bタイプ」
『アーマーシステムを調整実行…剣士型Bタイプへとユニットを調整完了しました。』
「休止モードに移行」
『-ユニットの休止モードに移行します。』
「さて、下準備は済んだしその機体はもうひかりの物と同等だから機体に名前を付けておきなさい」「機体ナンバーで呼ぶのは面倒だし、名称を付けておけば呼びやすいからね」
「ただし混乱するから知っている人の名前は付けないこと。」
「名前…、どうしよう」
「体が治る三日間あるからその間に決めなさいね」
アテナはホワイトボードの方に移動して色々と何かを書き出す。
「今から長い説明になるけど忘れないようにね、とりあえず、私達が使っている機体の説明からね」
「名前は、AWシステムが正式名称」
「中央管理デバイスであるコアユニット ジェネシスにより内部は制御され各ユニット部には、エネルギー兵器、物理防御に対するシールドが薄く張られていて、この世界で言う小型ミサイルの爆発くらいは軽く防げるわ」
「ひかりのユニットは陸戦型で空戦は苦手だけど飛行ユニットは付いているから高度4000メートルくらいまでは上昇出来る、だけど慣れないうちはあまり高く飛ばないように」
ふと昨日の攻撃を思い出した、そんな頑丈な鎧を壊しながら肉体にダメージを与えてきたアテナは凄いんじゃないかと思った。
「次に武器の説明ね」
続けてホワイトボードに色々と書き出す。
「貴方の武器は使い慣れてる剣道のタイプを想定して両手剣にしてあるわ」
「武器のモードには3種類あって、切断モード、破壊モード、衝撃モードがある」
「基本はブレードモードで大丈夫だと思うけど、切断が難しいような大きい敵にはブレイクモードを使うといいわ、ショックモードは基本対人戦用、状況に応じて使い分けてね」
「機体には自己学習型AIが搭載されている、各部機能説明もできるから解らない事があればその子に聞いて、ただ私のアイリスみたいに状況判断対応システムは積んでないから臨機応変な対応は難しいけどね」
『-お呼びになりまりましたか?』
突如としてアイリスの音声合成が聞こえてくる。
「呼んでないわよ」
『そうですか失礼しました。』
一昔前のコントのようなやりとりを見せながら
「ここまでで何か質問は?」
隣で本を読んでる少女が目に入り素直に疑問をぶつけてみる。
「エリィが使ってる機体もこんな感じなの?」
予想外の質問が出たがエリィは全く動じずこちらをじっと見つめるが何も答えない。
変わりにアテナが説明をしてきた。
「この子のユニットは魔界製だから、設計から使い方まで根本的に異なるわ。」
「魔界の人間は魔法が使えるけど、魔力増幅器無しでは強力な力は具現化出来ないからそれを強化するウェポンとジェネレーターユニットを使用してる」
「ついでに言うと天界の人間は魔法なんて使えないから地上人とあまり変わらない、だからこちらの機体が地上人に提供される訳」
更にホワイトボードに書き続けて説明を続けた。
「じゃあ、最後に私達の役割ね。ひかりは私と同じく地上戦をメインに戦ってもらうわ」
「私は地上戦と空戦両方できるけどエリィの方が空戦は得意だから基本は地上戦メインで空の状況が厳しい時に応援するような形を取るわ」
「まあ、ざっとだけど説明終わりね、あとは実践を交えて教えていくわ。」
怒涛の説明ラッシュを受けながらひかりは機体の名前をどうしようか悩んでいた。
すべての説明が終わった後に解散して皆帰宅する。
それから2日後、ひかりの体の傷が言えたので、放課後に地下施設へと呼び出された。
「さあて、今日はビシビシ行くわよ。」
アテナが手を鳴らしながらそう言った。
また説明だらけで申し訳ない。
あと特訓と言いながら全く特訓してません。(;・∀・)
第二章『出撃』 第7話『実践』をお楽しみに