第一章 『遭遇』 第5話 『集う者達』
この話での登場人物
主人公 大園ひかり
天界の使者 アテナ=フォース=メルキオーネ
魔界の使者 エリィ
学園長代理 ルーシィ=フォン=シルフィス
副学長 エルシィ=フォン=シルフィス
前回のダイジェスト
自身の体にダメージを受ける激闘の末、アテナからかろうじて一本を取り勝利を認められた主人公はもうひとりの少女エリィに体の傷を治療された後に本来の目的である学園長室に連れられていく。
重厚な扉を開き中に入るとそこには入学式で見た事がある二人が待ち構えていた。
大きな机に設置された豪華な椅子に座っているのは、この学園の学園長代理。
修道服に眼鏡を掛けて白と黄色の中間で透き通るような綺麗な長髪を靡かせた容姿端麗な女性。
学園内では彼女は年齢不詳とも噂されている。
そしてもう一人、修道服の頭の部分は被っておらず少し緑がかったボブカットに近い短髪で男勝りな顔立ちをした女性はこの学園の副学長である。
三人の娘が部屋に入ってきたのを見て状況を把握した副学長が最初に口火を切った。
「ここまで連れてきたということは試験に合格したという訳だな」
「その通りよ」
間違いないというような感じでアテナが返答を返す。
答えを聞いて何かを納得したかの様子で軽くうなずき、やや満足気な表情をした。
様子を見守っていた学園長代理が続けて入ってきたひかりに話しかけ始めた。
「まずは初めましてと言っておいた方がいいかしら」
「ご存知かとは思いますが私は聖ウラヌス女学園の学園長代理を務めております、ルーシィ=フォン=シルフィスと申します」
「そして隣にいるのが」
指名された女性が凛々しくも自分の名前を告げてきた。
「私は、エルシィ=フォン=シルフィスだ」
二人の名前が一緒なのを聞いて姉妹かなと考えた。
その雰囲気を察したのか
「名前が一緒だから気づいたと思うけど二人は双子姉妹よ、私が姉でこの子は妹」
少しおっとりした感じの姉と対照的に凛々しく男勝りの女性、双子と言っても対照的であったが
姉妹の顔を並べて見るとなんだか少し似ているかなと感じた。
「私達の自己紹介は終わったから後ろに二人の紹介もしないとね」
そう言った姉を伸ばした手で軽く制止して副学長が自分の出番だと言わんばかりに
「後ろにいる二人の素性は私が話そう」
と言いひかりの後ろにいる少女達についての紹介を始めた。
「既に名前はご存知だと思うが略歴を紹介しておこう。」
腕組みをして少し偉そうな態度で立っている少女を指さし説明を始める。
「まず、金髪の娘で彼女はこの世界とは異なる天界から来た」
「アテナ=フォース=メルキオーネよ」自身のフルネームを伝える。
言葉を聞いた副学長は、せっかちだなとかやれやれとも言う表情をしながら彼女の素性を語りだす
「彼女は天界でも有数の名門メルキオーネ家の長女で戦闘と学業に関してはとても優秀な少女だ」
そしてもう一人
「彼女はエリィ、彼女も同じくこの世界とは異なる魔界から選抜されてきた。」
「…」
同じく紹介されたが既に聞いたから言わなくても大丈夫とでも思ったのかエリィは何も言わない。
「彼女は、魔界から選抜されたスペシャリストで攻撃に加え治癒魔法も使える魔法使いだ」
少女二人の素性に疑問を持ったひかりが元気な声で問いかけるべく話しかけた。
「すいません!質問よろしいでしょうか!」
「なんだ?」
副学長が言葉を止め質問をした少女のはなしに耳を傾ける。
「てんかい?まかい?そんな世界が本当に存在するんですか?」
驚きと疑問だらけと言う顔を見せた少女に学園長代理が優しく語りかける。
「ふふっ驚いたかしら?天界と魔界、そして更に魔法と聞いて現実離れした話でしょうからね」
一息、間を置いて更に語りだす。
「でもね、これは現実の話なの」
「ただ、貴方が想像するような地上の空高くにあり天使が飛んでギリシャ神殿のような建物が並ぶような場所と地下世界にあって悪魔の様な人たちが謀略と戦いに明け暮れてる世界とは異なりますよ」
誰もが容易に想像できる天界と魔界の世界観を学園長代理がイタズラっぽく例えてきた。
続けて両方の世界について簡単ではあるが概略を話しだす。
「天界も魔界も地球と比べると遥かに進んだ技術と科学力を持った世界」
「現在の地球では、まだ到底及ばないくらい両方の世界は進歩しているわ」
話の間に割りこむようにアテナが補足する。
「この世界と比較したら恐らく数千年以上は技術、科学力が違うわね」
後ろにいた少女が誇らしげに語った。
腕を組んで胸を貼り自信満々に語る娘とは対照的にエリィは何も言わない。
「魔界も似たような物ね、ただ天界よりは少し下かしら」
エリィを見ながらどうだと言わんばかりだが
「…知らない」
正直答えるのが面倒臭いからどうでもいいと会話を遮った感じだ。
それを見て相変わらずだなあという表情をした。
「アテナが言った通りだ」
副学長が相槌を打ち話の流れを変えるために違う話を差し込んで切り替えるタイミングを図る
「あと、補足だが天界と魔界はあまり仲が良くない。過去に戦争を一度起こしているからな」
その事についてアテナが容赦なく指摘する。
「そんなの数千年前の出来事でしょ、若い人たちはもう全然気にしてないわよ」
学園長代理が説明を続けようとする。
「両方の世界の話はこれ位にしておいて話を続けるわ…二つの世界が何故こちらと関わっているか教えましょう。」
「天界と魔界はこの学園の近くにある秘密の場所に設置された入口と繋がっているの」
「無論、誰もが入れる訳ではなく我々が許可した人物しかゲートは開かないから選ばれたもの以外は入ることが出来ない。」
「そして、ある理由があって二人はこの世界にやってきたの、ううん派遣されてきたと言ったほうがいいかしら」
ちょっとだけ目を閉じて重要な事を話すかのように先ほどと変わって表情が引き締まり話しだす。
「さて、ここからが本題です。」
「大園ひかりさん、あなたはスポーツ特待生として優秀な成績を収めた」
「そして戦士としての適性も一応合格ということになりました」
「その力を見込んで、あなたにお願いしたいことがあります」
これから話す理由について少しだけ息を溜め語気を強めた。
「実はつい先日からこの近くの山脈に攻撃を仕掛けてくる物がいる」
「どこからか制御され攻撃を仕掛けてくる無人兵器、我々はそれをDOLLと名付けました。」
副学長が話に割り込んで戦いに関しての担当は私だと言わんばかりに続きを話す。
「君の使命はここにいる二人と共に組んで3人でドールの侵入を未然に阻止、そして破壊する事」
続けざまに押し寄せてくる怒涛の展開に目まぐるしい感じを出す。
だがふと疑問がわいたので手を上げて質問があるように尋ねる。
「何故、普通の山なのに攻撃してくるのですか?いったいそこには何があるんでしょうか?」
しばらくの沈黙の後、学園長代理が意を決したように語りだす。
「これから言う事は誰にも話しては行けない」
「もしも漏らすよう事があった場合、口封じとしてこの学園に来た時からの記憶を消去します」
「それを了承してもらえるかしら?」
機密事項を漏らしたら記憶を消されるという物騒な脅し文句とも取れる言葉。
少しだけ恐怖を感じたが口は固いと自信があったので素直に答えを返す。
「はい、わかりました」
返事を聞いた学園長が狙われている場所に対して話だす。
「この山奥には聖域と呼ばれる不可侵の領域があるのです。」
「そこは、天界、魔界、地球に存在する全ての生命の源であり、終着点でもある。」
「私達は長い間、この山奥を秘密裏に守護してまいりました。」
殆ど一息で説明したのを見て、ここで一旦間を置くようにと思ったのか続きを副学長が引き継ぐ
「そして聖域の奥は何人たりとも立ち入ることが許されない禁断の領域、もしも…」
「この奥に誰かが入り込んだ場合は…聖域の守護者が現れこの世界の生物が全て滅ぶだろう」
ひかりが息を呑むような仕草で喉を鳴らす。
とてつもない重要事項を聞いてしまったと思った。
副学長が話をさらに続けていく、
「守護者の力は圧倒的でこの世界の誰も太刀打ち出来ない程強大な破壊力を持っている」
「その影響は天界と魔界にも及び一緒に両方の世界も滅ぶ事になる、未然に防ぐために天界、魔界の指導者に極秘裏にお願いして各世界より聖域防衛の使者を出して貰う、地上に関しては私達が選抜した人物を加え守護するのが使命だ」
そんなとんでもない場所を中学生になりたての少女に守護させようとしている事について聞き返す。
「そんな重要な役目なんでボク達なんですか? もっと強そうなすっごい軍隊とかで守っちゃえばいいんじゃないでしょうか?」
率直な意見を漏らすひかりの言葉について、後ろにいた少女が容赦無いツッコミを入れる
「バカねぇ、聖域は生物の命を司る要なのよ。もしそんな所が色んな人に知れわたってみなさいな」「そしたら一部の危ない人達に狙われて、みんな死んじゃう事になるわよ」
アテナの指摘はもっともでとても的確だった。
「概ねその通りだ」
副学長が解りやすい解説に相槌を打ち話は続く
「聖域は生命の源と言いましたが、もし存在が多くの人に知れ渡った場合には危険を伴うわ」
「だから、ごく一部の人達にしか知られていないの」
護る理由は解ったが次々と疑問が湧いてくる。
「じゃあ、もう一つ聞いてもいいでしょうか」
「なんだ?」
ひかりの問に答えようと副学長が返事を返した。
ひと息置いて質問を続ける。
「こんな中学生じゃなくてもっと体格がしっかりした高等部の人達とか大人の人が守ったほうがいいんじゃないでしょうか?」
なかなか鋭いと思える質問に納得したかのように、学園長代理が
「ご指摘はもっともね」と軽く相槌を打つように語る
少し考えながら理由があるように率直に話しだす。
「ここからは二人にも話していないけど重要な要素だから今のうちに明かしておくわ」
「実は聖域の入り口には侵入を防ぐある特殊な結界が張られていて、特定の条件を満たした人しか中に立ち入る事が出来ないの」
アテナが表情を変えて今の話について食いついてきた。
「ちょっと、そんな話今はじめて聞いたわよ」
副学長がまあ待てと言わんばかりに話に割り込む
「機密事項はなるべく多くの人に聞かれないことがひとつの防衛手段だ」
なんとなく話は解るが腑に落ちない少女に対して
「だが、聞かれたからにはある程度の詳細は開示しておく必要があるから今から説明する」
副学長が目配せをして話を続けるように姉のほうを見て促す。
「その条件は神に使える穢れ無き体を持った女性、まあ解りやすく言うと処女の女性しか結界内に入ることは許されていないの」
ふーん、という感じの表情を見せるアテナと全く無表情のエリィ
その言葉を聞いてアテナが意地悪っぽく聞き返す。
「もし私達が違ってたらどうするの?」
しかし、それには動じず君たちは大丈夫だと言わんばかりに言葉を続けてくる。
「最初に血液検査をしただろう、あの時に既に君たちは適正者であることを確認してある」
「あれに、そんな意味があったのね、ぬかりないわねえ」
やれやれと言わんばかりに手を上げて首を横に振る
学園長代理は相手が納得したのを確認して話を続ける。
「この学校は女学園で不純異性交遊は勿論禁止してあるけどが外界とは遮断されていないわ。」
「普通に通学して帰宅時には外界と接触するから、そこで男性との接触を秘密裏に持つ生徒もいる」
姉が席を立ち窓際に立ち外を眺める姿をみて副学長が会話を継ぐ
「それをいちいち調査して更にその中から戦士としての適性を見つけるのは非常に困難だ、だから男性との接触が少ない若年層の女生徒が対象になる訳だ」
「そしてもう一つの理由がある」
「若い時から戦いに慣れて成長させる事により強力な戦力を作り上げるというのが目的だ」
話が一区切りつき何かを確認するために近寄ってきた。
「ちょっと失礼する」
そういって副学長がひかりの手を取って細い針を小指の先に指す。
液体が入った小瓶を袂から取り出しそのなかに針の先に流れてきた血液を一滴流しこむ。
すると小瓶の中の液体がほんのり光りだす。
その様子を見て一言
「穢れ無き肉体の持ち主で問題ないな」
今の儀式はひかりが処女であるかどうかを確認したのであろう事が解った。
ひかりの本心が問題無いという言葉について心のなかで小さく突っ込んでいた。
(そ、そりゃあ男の人と付き合ったことなんて無いし…逆にボクが男の子みたいに振る舞ってたし…)
アテナがふと疑問に思ったのか問いかける。
「でも、侵入防止の結界があるなら私達が守る必要は無いんじゃなくって?」
その質問受けるのは想定済みだという微笑を浮かべ副学長が説明する
「結界と言っても万能ではない、何らかの強力な力や物理的な攻撃で防御が消えてしまう可能性もある、だから未然に侵入させないように手を打つ必要があるわけだ。」
学園長代理が席に戻り真剣な顔をしてひかりの目を見て伝えてくる。
「ある程度の事は、説明が終わったから最終確認よ。」
続けて副学長が問いただす。
「戦うにあたって武器防具に関しては天界の技術を使った装備だが、かなり良い物を用意する。」
「無論、無人兵器と戦う以上多少の危険は伴うが現状ではそれ程命の危険性はない」
「だが、今後はどうなるかわからない。それを承知でこの世界と君の大事な人達を守るために彼女らと共に戦ってくれるか?」
ひかりは、しばらく考えこむ
自分にそんな重大な責任が負えるのだろうか?他の人がやったほうがいいんじゃないだろうか?
考え込んだ時間は1分弱であろうか、自分なりの結論を出しそれを言葉にした。
「ボクに出来るかどうか解りません…けど…」
「選ばれたからには頑張ってみます」
学園長代理が承諾の返事を聞きとてもにこやかな表情で
「ふふ、良い返事ね」
「では、新たなる一員として貴方を歓迎いたします。」
ひとまず全てが決まり安堵したのが少しリラックスした状態で会話を締めくくる。
「今日の話はこれで一旦終わりです。」
「細かいことについては、今後副学長とアテナからあるだろうか指示に従って下さい」
「では、終わったからもう帰っていいですよ」
その言葉を聞いて、アテナが先に重い扉を外に出ていこうとする
補足として副学長が先に退室しようとした少女に確認をするため声を掛けた。
「今後のことは、しばらくアテナに一任するが問題ないな」
そんなの解りきってるわよと言わんばかりにぶっきらぼうな言い方で返事をする。
「了解よ」
退室の礼ををするため振り返り大声で挨拶をする。
「失礼しました!!」
「しつれいしましたー」
元気いっぱいに挨拶するひかりとは対照的にアテナの言い方は長い説明で時間を取られてうんざりしたのか明らかに棒読みっぽかった、無論ここでもエリィは無言だった。
扉を締める途中で学園長代理が気遣って声を掛けてくる。
「自宅には、もう連絡してあるかと思うけど、遅いから急いで帰宅してくださいね」
「はい、わかりました!」
学園長代理がバイバイといわんばかりに無邪気に手のひらを左右に揺らし別れのアピールをする。 しびれを切らしたのか、アテナが先に廊下を歩き出した。
ある程度歩いて校舎を出ると外は既に真っ暗だ、時間は午後6時を回っている。
不意にアテナが今後のことについてあまり重要ではないが提案をしてきた。
「さて、あなたも私達の一員になったから呼び方は変えないとね。」
「今後は、貴方の事をひかりで呼ぶわよ。無論、私の事もアテナと呼び捨てでいいわ。」
「う、うん…解ったアテナ」
そこでひかりはあることに気づく。
「あ!鞄を地下に忘れてきた!」
突如エリィが修道服をゴソゴソ探り服の下から見慣れた鞄を取り出す。
「…はい」
エリィは地下で忘れた鞄をずっと持っていてくれたようで、その事に感謝して名前を叫ぶ
「ありがとうエリィちゃん!」
少しだけ間を置いて、呼びなれない名前に変な気持ちなのか同じような提案をしてくる。
「…私もエリィでいい、ちゃんと呼ばれるの慣れてない」
それを聞いて再度呼びなおす
「解ったエリィ!」
話が終わったのを見てアテナが自分たちの帰り道を告げる
「じゃあ、私達は女子寮だからここで失礼するわ」
「解った、また明日!」
怒涛の様な一日に疲れを見せずに元気いっぱいに挨拶しながら校門に向かってひかりはダッシュで自分の家に帰っていった。
残された二人は徒歩で女子寮に帰りながら不意にエリィが独特な間を開けながら問いかけてきた。
「…アテナ」
「何?」
「…結構手加減してた」
「素人相手に全力出してもしょうがないでしょ」
「…でも怪我はダメ」
「はいはい、反省してますよー」
手の甲をひらひらさせながら悪びれた様子もないように返す少女を窘めるように
「…はい、は一回だけと先生が言ってた」
少し沈黙が流れ戦闘後に言っていたことを再度確認するため問いかけた。
「治るの3日だっけ?」
「…そう」
「なら、そこからあの子の特訓ね」
「…やり過ぎないように」
「わーってますって」
天界と魔界は本来犬猿の仲と言っていたがこの二人はまるで長年の友人のように親しげで接し方もとてもフランクであった。
ひかりは急いで帰宅したが学校から連絡が行っていたのか遅くなることを両親は知っていた。
皆で食事をして、その後に今日の一日を振り返り湯船に浸かる。
左わき腹の部分は少しだけ赤くなっているが傷は全くと言って無い、これはエリィの治療のおかげだろう。
「あ!氷で固めたとか言ってたけどお風呂入って溶けないかな…?」
それぞれの激動の一日が過ぎてゆく。
なんか説明ばかりですいません(;・∀・)
次話 第二章 『出撃』第6話『特訓』をお楽しみに!