第一章 『遭遇』 第4話 『戦いの結末』
この話での登場人物
主人公 大園ひかり
謎の少女 アテナ=フォース=メルキオーネ
謎の少女 エリィ
前回のダイジェスト
スポーツ特待生の使命として二人と戦うことになった主人公、見たこともない近未来なパワードスーツのような装備を身につけさせられ、一人の少女であるアテナと戦うことになった。
巨大な音が発生した瞬間と同時に剣を構えたアテナが猛スピードでひかりの元に飛翔して来る。
距離は数十メートルはあったはずだが音が発生して接近まで恐らく1秒も掛かっていない。
ほんの一瞬で接近したかと思うと間髪入れずに右手の剣でひかりの体を突いてくる。
一瞬の判断だった。
剣道で対戦相手が突いてくるのをかわすように本能と反射神経を信じ死角である左側に回りこむ。 アテナの剣は僅か数センチの所で相手の胴部分を捉えることが出来なかった。
そのまま足を前にだして地面をブレーキのように使い着地してスピードを落とし体を反転する。
全く予想もしないような突然の攻撃を反射神経で避けたことを感心するかのように賞賛の言葉を与えて相手を褒める。
「初めてにしてはよくかわしたわ、普通はあれで一撃は食らうものだけどね」
ひかり自身も先ほどの攻撃をよく交わせたなと感心したがその過信が次に影響を与えるとは思ってもみなかった。
「じゃあ、もう一回行こうかしら」
対峙する少女は挑発するように先ほどと同じ構えを取って攻撃の準備をする。
それに備えて先ほどと同じように構えをとった瞬間、大砲の砲撃のような音が再度響き渡り相手が突進してきた。
だが先ほどとは明らかにスピードが遅い。
何故と思った次の瞬間にアテナの背中から数枚の羽を開き急激に速度を落として手前で着地した。 フェイントをかけられたと思ったが時既に遅し相手はしゃがんだ状態から右腕をボクシングのアッパーのように振り上げひかりが構えていた剣を空中に弾きあげる。
甲高い金属音が鳴り響き、唯一の武器を勢い良く吹き飛ばされその勢いで両手を上に上げて、バンザイしたような無防備な状態になる。
手に持った武器を失い何とか回避しようと横にジャンプして逃げようとしたが足が動かない。
まるでこちらが飛んで回避するのを予測してアテナが自分の足でこちらの右足を押さえつけていた 一瞬の戸惑いのスキを付いてアテナは続けざまにしてやったりと思えるような薄っすらと笑みを浮かべた状態で後ろに大きく振りかぶった剣をひかりの左脇腹に直撃させた。
強烈な攻撃を体で受け体がミシィッ…と鈍い音を感じた。
次の瞬間、会心の一撃を受けた衝撃でバットで打たれた軟式ボールのように全身が後方に吹き飛ばされひかりの体が舞い地面に転げ落ちる。
受け身も取れず背中から落下して一回転し金属が擦れるような低い重低音を響かせながら倒れる。
ロケット砲で打ち出されたかのような物凄い勢いで後ろに転げ正面から地面を擦った。
だが自身を守る鎧が自動的に防御してくれたのか幸いにも傷はなく意識もあるようだ。
横に突っ伏して倒れている状態で装着している鎧から現在の状況がアナウンスされて来る。
『-警告、アーマーシステム破損率 8%。搭乗者の肉体にダメージ発生』
アテナの表情が少し険しくなり何かを問いかける。
「ちょっとアイリス リミッター掛かってないわよ!」
『武器モードの切り替えは指示されましたが、リミッター要求は出ておりません。』
相手は事務的な口調で現状を報告してきた。
『武器へのリミッターを設定しますか?』
あちゃーしまった、というような表情をしながら
「ちょっと遅いけど設定して」
『了解しました。』
というやりとりが行われる。
少しやりすぎたかと言わんばかりの表情を見せながら直ぐに平静を取り戻し毅然とした顔を作る。 そして対戦相手を圧倒するべく威嚇の言葉で相手の敗北を宣言するように言い放つ。
「まずは、私の攻撃を全て交わすという勝利条件はなくなったわ」
勝ち誇った態度を見せる対戦相手が地面に顔を埋めたままの状態に更に挑発を続ける。
「どうするの?これでおわりかしら、あっけないわね」
小さい頃から何度負けても勝つまで戦いを挑んだ負けず嫌いの性分がひかりの体を奮い立たせようと右手を使い体を起こそうとした。
だが先ほど体に受けた衝撃が痛みに変わり声にならない呻き声とも断末魔とも取れる吐息が漏れる
「…かっ」
痛みに耐えながら上半身を起こしふらふらの状態で何とか立ち上がろうとして10カウントから起き上がったボクサーのように立ち上がり声を振り絞った。
「まっ…まだ…まだやれますっ!!」
言葉は強気だが体を少しでも動かすと左脇腹に激痛が走って立っているのがやっとの状態だ
不意にそこで何も出来ないことを告げるように声がアナウンスされる。
『-神経素子への電離接続が許可されていないため痛覚の軽減は行われません。』
対戦相手がゆっくりと立ち上がる姿を見ながら待っていると
『残り時間1分です。』
アイリスがあと僅かに残された対戦時間を報告してきた。
「立ち上がった、その心意気に免じてもう一度こちらから攻撃してあげるわ」
アテナが弾き飛ばされた剣を拾い上げ対戦相手に手渡す。
「受け取りなさい」
立つのがやっとの状態で剣を受け取り構えようとする。
しかし攻撃を受けた場所から痛みが全身に伝わり腕を上げることが出来ない。
杖の代わりに剣を右手に持ちそれを床にさして体重を掛けて立ち上がりながら構えを取ろうとした だが両手を使うのが無理だと判断したひかりはある構えを閃く。
剣を左の腰に構え左手は添える形で右手で柄を収めたその姿は侍が居合い抜きをする構えだった。
先程と同じように距離を空けたアテナが最後の攻撃と言わんばかりに合図を出す。
「いくわよ!」
掛け声と同時にアテナの最後の攻撃が始まる。
一番最初の攻撃と同じように真っ直ぐに突進して対戦相手の胴目掛けて剣が進んでいく。
近づいてきた相手の空気を感じながらひかりは意表を付くようにがくりと左足膝を地面に付き座った状態で居合い抜きする構えを取り不意をついた攻撃でアテナの胴体に剣を振り上げた。
「何っ!」
驚きの声だった。
意表をつく避け方をしながら攻撃に転じ相手から振り出された剣の軌道を交わすように体を捻り反転させて相手を通りすぎて着地をした。
若干の静寂が流れた後にアイリスが無情にもその結果を伝える。
『対象者の武器がアーマーシステムへ接触』
ため息混じりに会心の一撃を当てたことによりひかりはその場にへたりこむ
「あ…あたった…」
やられたと言う表情を見せながら、しょうがないかと諦めた感じでひかりの下へ近寄る
「あなたの勝ちよ」
「機体ナンバーF-021、神経接続にて痛覚軽減を行って。あとフロントアーマー脱着」
『神経接続を実施…痛覚の軽減を実行、フロントアーマーを脱着します』
その声とともにひかりの鎧の正面部分が外れ床に落ちる。
と同時に体に感じていた痛みが少しだけ収まってきた。
アテナが後ろのほうで待機していた少女に対して指示を出す。
「エリィちょっと来て、この子の怪我を治療してあげて」
指示を受けたエリィは修道服から布連れの音もさせずに右手を静かに正面に構える。
「…我が手のもとに」
殆ど聞こえないような小さな声で呪文のような言葉を呟くと突如として自分の背丈程あるような巨大な杖が現れ片手で握りしめる。
そのまま地面を滑るように進んでひかりの元に近づき
杖を取り出しアテナから攻撃を食らった左脇腹に赤い水晶の先端を近づける。
杖の先から青色の光が広がり傷の部分に浸透していく様子を見てとても心地よい感じがした。
先ほど感じていた激痛が和らいでいくのが解る。
治療の様子を見ながらアテナがぼそっと言葉を漏らす。
「この子は簡単な治癒魔法が近えるから少しくらいの怪我なら平気よ」
気になる単語が出てそのことについて尋ねようとした。
「魔法…?魔法が使えるんですか…?」
「あっ」
という言葉とともにアテナは口を滑らせたとも取れる表情をしながら言い訳っぽい説明を返す。
「詳しいことは後で説明するから」
杖を構え治療をしている途中でエリィが何かに気づいたようにピクリと反応して横目で見る。
我慢できなくなったのか不意にアテナを呼ぶ。
「…アテナ」
普段は無口で殆ど喋らない少女が突如として自身の名前呼び掛けてきたこと不思議に思い、
「何よエリィ?」
ちょっとした疑問形で問いかけてみるが反応が帰ってこない。
しばらくの沈黙が流れた後に僅かに聞こえる位の小さな声でその少女が感じたことを口に出した。
「……やりすぎ」
全く予想もしていない言葉で相手を責めて来た娘に対し、常に平静で仏頂面な表情が
普通の少女のように頬を膨らまして顔を真赤にして反論した。
「しょ、しょうがないじゃない!! リミッター掛けてない奴がクリティカルに入っちゃったのよ」
「ぷっ…くくくっ…」
無口だった子が冷静沈着で饒舌な娘を責める姿にギャップを感じついひかりは笑ってしまう。
そんな状況でも冷静に治療の妨げになると感じたのか表情一つ変えず、
「…動かないで」
と釘を差され治療を続けた。
エリィは無口で殆ど喋らない。
だけどこの娘は自分の感情に素直で悪い子ではないと率直に感じていた。
そこから約5分程経過しただろうか、青い光を当てていた部分を離し杖を持ち上げて
「もう、大丈夫なはず…」
といい治療が済んだのか持っていた杖を一瞬で消し去った。
少し心配になったのかアテナがひかりの様子を伺ってくる。
「立って歩けるかしら?」
「うん、エリィちゃんが治してくれたから痛みもないし平気っぽい」
先ほどとは打って変わって痛みも引いて平気な状況を伝える。
まるで何もなかったようにぶんぶんと腕を振り回すがその様子を見て警告するように呟く
「…あまり動かさないで」
その言葉に大丈夫だと言わんばかりにアピールするが
「もう痛みもないし、ちょっとヒンヤリする位でヘーキだけどまだ何かあるの?」
現在の状況を静かに解説してくる少女の言葉に耳を傾ける。
「…細胞を癒着して氷で固定して動かないようにしてあるけど…まだ完全には固まってないから」
「え、固まってないって何が?」
「…骨」
「ほね?」
「…肋骨にヒビが入ってた」
アテナとひかりが顔を合わせて驚きの表情でお互いを見つめ大声で叫ぶ
「ええっーー!?」
「…3日間は運動禁止」
バツが悪いのかアテナがちょっと言い訳めいたことを語ってきた。
「ま、まあちょっとやり過ぎたわね」
「ごめんなさいひかりさん、誰にでもミスはあるわよ気にしない」
バンバンと肩を叩き、ごまかそうとする少女
その姿を見てこの子もこういう一面も見せるんだなと感じていた。
そして焦ったように何かを思い出したの如く次の目的で話の流れを変えようする。
「さーて、と一応勝負はついたから学園長室に報告しに行かないとね」
「一緒について来て」
ここに来た時のように二人の後に付いて、目的である学園長室へ目掛けて歩いて行く。
通ってきた道を逆戻りして学校の校舎まで上がってきた。
外にでると当たりは夕刻で日がだいぶ傾き校舎に取り付けられた時計を見ると5時を周っていた。
二人に連れられて中等部の校舎を抜け高等部の建物に入るとすぐ近くにある階段を4階まで登り更に廊下を歩き中心部に近い位置で重厚な扉の前で足を止める。
扉は年代を感じさせるようなクラシックな木造作りで威厳を表すような作りで
上を見るとこの部屋を表すように綺羅びやかなようで質素な作りな看板にこう書かれていた
-学園長室-
アテナは扉をノックして中に聞こえるように少し大きな声で言った。
「失礼します。」
「しっ、失礼します。」
ひかりは思わず緊張で声が上ずってしまう。
入室の挨拶を済ませ厚くて重厚な扉を開き中に入った。
扉を開き中に入るとそこには入学式で見た事がある二人が待ち構えていた。
第4話があまりにも長くなりすぎたので今回は少し短目にして次に渡しました。
第5話からいよいよ物語の核心へと進んでいきます。
次回『集う者達』