第一章 『遭遇』 第3話 『戦いの序章』
この話での登場人物
主人公 大園ひかり
謎の少女 アテナ=フォース=メルキオーネ
謎の少女 エリィ
前回のダイジェスト
謎の少女二人に呼び出され知らない地下施設へと連れだされた主人公、その場所で告げられた内容は自分たちと戦えと言うことだった。
相手からの突然の通告に対し戸惑い、自分が置かれた理不尽な状況に対して必死に考える。
しかしその答えが出るはずがない、何故ならこのような場面に出食わしたことがないからだ。
その中で自分が巻き込まれる理由に対し言葉を振り絞り必死に問いかける。
「たたかう、戦うって言ったの…?その理由は?」
少女は喉から捻り出した疑問を目の前の相手にぶつけてその謎を解こうとする。
だが目の前の娘は疑心暗鬼に陥ってる少女に数時間前に決められていた事柄を告げる。
「まず、あなたはスポーツ特待生として運動能力テストで優秀な成績を収めた]
「それを見込まれてある人に試験をするように命じられたのよ」
一瞬の間を置き自分が考えている特待生としての責務とはかけ離れた試験の内容について理不尽さを感じ必死に聞き返す。
「スポーツ特待生の試験というのが戦うことなんですか?」
だが、問われた内容とは裏腹に守秘義務ががあるような会社員の説明とも取れる言いまわしで質問は受け付けないと暗に拒否する言葉で
「理由は長いけど詳細は現時点では説明できないわ」
目の前の少女は相手が罠にかかった檻から逃げ道を完全に封じるように理詰めで相手を畳み掛ける
「もちろん拒否権はあるけど、この戦いを避けるようならばスポーツ特待生としての責務を放棄したことになるわ」
「それは貴方に与えられた特待生としての資格は剥奪され学業の優遇措置はなくなり貴方の扱いは一般生徒と同じ扱いになる」
「ご存知だと思うけどこの学校は学業優秀者が集まる特別な学校です」
「成績が一定の目標に達しない場合、別の学校への転籍もあるということは知っているわよね?」
まるで既にひかりが学業を得意としない事を知ってるかのような物言いで、檻に閉じ込められた獲物が最後に足掻く前に睡眠薬で眠らせ逃げる力さえも失わさせるように用意周到な言い方だ。
完全に選択肢を塞がれた状況で最終確認の返事として相手に同意を求める。
「納得言ったかしら?」
逃げ場もなくどうしようもない虚無感が漂う中、観念した様子で戦う手段について小声で聞く。
「何をすればいいんですか…?」
獲物を仕留めたハンターが勝ち誇ったような微笑を浮かべる。
少女は自身のポケットに手を入れて青白い宝石が埋め込まれた小さいネックレスを取り出す。
光り輝く存在感をひかりの目に付くように前に差し出して、
「受け取りなさい」
光り輝く物体が軽く放物線を描きながらゆっくりと投げられる。
さすがに運動神経に関しては抜群の娘で突如ほうり投げられたペンダントを難なく受け止める。
「チェーンの後ろは少し強力な磁石で繋がってるの」
「左右に引っ張れば簡単に外れるわ、ロックを外して首に掛けなさい。」
ひかりが鎖を確認すると縦に線が入った卵型の接合部が見て取れる。
力を入れて左右に引っ張ると簡単にはずれて、首の後に回して装着する。
首筋に垂れ下がったネックレスは金属のような肌触りだが彼女のポケットに入っていたせいか僅かに人肌の温もりを微妙に感じながら付け終わった事を相手に伝えた。
「首にかけました」
「気をつけっ!」
突然の号令にビクッと驚き手を真っすぐ伸ばし体育で指示をされた生徒のように直立状態に固まる
「しばらくその姿勢を維持して」
目の前の少女が指示を出す。
そのままアテナは静かに短めの言葉を発する
「機体コードF-021、制御カーネル及びシステム起動」
言葉と共にひかりの胸に垂れ下がったネックレスに取り付けられた宝石の中心から青白く光を放ち機械的な音声によるアナウンスが始まる。
『-機体コード確認、システム起動します。』
少女は何かのアクセサリと思い込んでいた胸のペンダントが突如話し出した事で娘は軽くパニック状態になり思わず動揺して声に出す。
「しゃ…しゃしゃしゃしゃべった!」
目の前で慌てている少女にも動じず再度動かないように命令する。
「姿勢変えないっ!あと黙って!」
動かないように指示されたのを思い出し先生に命令されたかのように姿勢をまた直立不動に戻す。
「は、はいっ」
真っ直ぐになった姿を確認し静かに呪文の詠唱のような感じで言葉を続けていく。
「我が名は、アテナ・フォース・メルキオーネ、管理者権限承認プロセスを実行」
『アテナ・フォース・メルキオーネの管理者権限確認……声帯照合完了』
「新規搭乗者登録、種族は地上人、ユーザー名は大園ひかり」
『装着者の種族及び名称を登録、対象の脳波、DNA要素を確認…確認完了。セキュリティーコードを発行して新規搭乗者として登録…完了。』
「現在の搭乗者に制限モードで戦闘ユニットの使用を承認、命令言語は日本語で設定、有効時間は1時間」
『─命令承認、搭乗者への戦闘ユニットの試用を許可、命令言語設定を日本語に設定完了、有効時間は1時間となります。』
「アーマーシステム及びウェポンシステム起動、装着者へのフィッティングを実行。」
その言葉とともに突如緑色の光の輪がひかりのすぐ頭上に現れる。
リングが全身をCTスキャンでもするように足元まで下がっていく。
『立体スキャン完了、アーマーシステムの装着位置の微調整実行……調整完了。ウェポンシステム、アーマーシステム起動完了』
「バトルレベルは、地上二級騎士団Dクラスで設定、レベル設定後プロテクションアーマーを自動展開」
『バトルシステムを地上二級騎士団 Dクラスに設定…完了、プロテクションアーマーを展開します」
機械的な音声の復唱が終わると同時にペンダントが更に強く光輝きはじめレーザー光線のような光で5メートル程の頭上に沢山の文字が書かれた円形の図形が描画される。
円陣の中心が大きく広がりその中から体育祭で転がすような大玉を一回り小さくしたような白い塊の物体が頭上に飛び出す。
『-空間断層よりAWシステムの転送完了、展開装着します。』
その言葉と同時にひかりを光の粒子で作られた球体が体全体を包みこむ。
「えっ、何、なんなの!」
眼を襲う輝きの眩しさに瞼を開けるのも困難な状態になり強く瞑ってしまう。
光の玉が地面から僅かに浮き上がり、中にいる人物の両手両足が外側に引っ張られ大の字から手を少し下に下げたような形で固定される。
頭上に現れた物体が空中分解して各パーツがひかりの体へどんどんと装着されていく。かなり早い速度と勢いで頭、胴、臀部、胸部、肩、腕、脚、足と次々に体に装着されていく。衝突の間隔を肉体で感じるが痛みは全くない。
全ての部品が装着されると大きく膨らんだ風船が萎むように発光していた光の粒子がどんどん収縮し最後には消え去り中に閉じ込められていた人物をゆっくりと地上へと下ろす。
『-AWシステム装着完了、メインジェネレーター始動します。』
「もう目を開けてもいいわよ」
全ての準備が完了しても瞼を強く閉じたま固まっている少女に対し、しびれを切らしたアテナが眼を開けるように促す。
ひかりが静かに瞼を開くと全身が純白の鎧に包まれ、頭には冑、背中には大きな剣が装着されて、まるでロボットアニメや近未来的なロールプレイングゲームから飛び出してきたような姿に変貌していた。
頭にはフルフェイスヘルメットの口部分がカットされたような形状の冑、おでこ部分に緑色に発光するゴーグルのような丸いガード、耳の部分に直立するアンテナ、胸部からお腹に掛けては丸みを帯びた多重装甲板に肩幅より少し大きい五角形のガード、手甲と足は曲線系のフォルムで自身の肉体より一回り大きい甲冑で覆われている。
突如、現実離れした出来事が迫り来る荒波のようにひかりの感情を揺さぶり軽いパニック状態に陥りながら自身に発生した出来事を自問自答するように言葉に出して問いかけ
「ええっ!?なに!なんなのこれ!」
戸惑う相手とは対象にまるで極当たり前の日常の出来事のように表情一つ変えず煩いなと言わんばかり表情を見せながら目の前の少女は状況を説明した。
「何って武器と鎧よ、戦うんだから装備が必要でしょ」
「こんな装備見たことも聞いたこともないですよ!」
「当たり前よ、この世界で作られた技術でないのは一目瞭然でしょう?」
「詳しい事は現時点では機密事項なのでまだ教えられないけども」
混乱し叫びだす声の主に目の前の人物はさもありなんと如何にも当たり前の出来事のように平然と言いのけてくる
「そうだ、これは夢なんだ…きっとしばらくしたら眼を覚まして全部夢でしたーってオチだったりするんだ…」
普段元気いっぱいで明るい少女が滅多に見せない暗い表情になり現実逃避しようとぶつぶつと呟き始めるがそれを阻止するように
「夢みたいな出来事と感じるかもしれないがこれは現実よ」
混乱した出来事から逃げようと試みる少女に冷静な言葉で容赦なく現実を突き詰める。
鎧を着た状態の動作を確認するため、相手に動くように指示を出す。
「ちょっと体を動かしてみて」
ひかりが鎧を装着した体を動かそうとすると動きが重く鈍い。
「うくっ…、お、重いっ」
状況を即座に分析し搭乗者の稼働状態を把握した先ほどの機械音声が反応する
『-操作対象者のパワー及び操縦経験不足のため、各部動作にウェイト発生』
『MGアシスト最大、補助システム自動制御にて動作します』
音声の後に鎧の各関節部が青白く輝き出す。
今までとは打って変わって動きが軽くなり素直な感想が口から零れ出てしまう。
「あ、凄く軽くなった…」
続けて体を動かすと先ほどとは打って変わってまるで鎧など付けてない位に動きが軽くなる。
「問題ないかしら?」
体をラジオ体操のように捻ったり腕や足を縦横無尽に動かして動きに問題ないかを確認する。
「はい、大丈夫です、普通に動けます。」
その様子を見て素直な感想を漏らす。
「普通の人間でしかも初めてだからまあ、しょうがないわね」
アテナはそう言って踵を返し歩き出す。
今までの状況を全く動じず見ていたエリィの元に近寄りポケットから円盤状の物体を10個程取り出し差し出す。
「これ設置しておいて」
使途不明の物体を手に受け取りエリィは手に持った物体を殆ど体の方向を変えず腕の力だけで全方向に投げ飛ばし壁に吸着させる。
均等に投げ飛ばされたその物体は設置された箇所からピンクの風船のような物が膨らみ壁全体を包み込む。
周囲が変貌する様子を全く気にせずにアテナは更に離れた奥へと歩き出す。
とそこで何か思い出したように後へ少し振り向きながらもう一人の少女に伝える。
「エリィが戦う必要はないけど、この子に何かあった時の為のバックアップをお願いするわ」
言葉を聞いたエリィはコクリと頷く。
そして動く歩道にでも乗っているかのように地面を滑るようにアテナとは逆方向で待機する。
約25メートル程距離を取ると再び体をくるりと反転して大声で叫ぶ。
「AWシステム起動!」
今度はアテナが全身を光らせる。
ひかりの時と同じようにペンダントからレーザー光で円陣を描画される
そして青い物体が空中から飛び出し同時にヨロイが空中分解し数秒でアテナの装備を形作る。
光とともに現れた姿は全身が蒼い鎧に上半身を全てカバーできるような大型の盾。
頭は全体をカバーする冑に左右両方に空へと真っ直ぐ伸びた羽の形状をしたアンテナ。
背中には大型の飛行ユニットとまるで北欧神話に出てくるような戦乙女とでも言える凛々しい姿。 しかしその姿はどこか近未来的だ。
ひかりは一つだけ違和感を感じていた、それは武器と呼べるような物を持たず体にも装備してない事で疑問の表情を浮かべ相手の全身を眺め回す様子にこれだと言わんばかりに右腕を肩より上まで振り被る、腕を肘を曲げて肩まで上げると勢い良く振り下ろす。
「私の武器はこれよ」
すると右の前腕にラグビーボールを半分に切ったような楕円形の形をした大きめの甲冑が伸びる
固定された部位の上下がペンチの先をを開くような形で左右に展開して肘部分にあった丸い棒状の物体が自動挿入されると同時に光を当てられた宝石のような十字の光を放ち初め、先端から1メートル程度の長さの黄金の色をした光が伸びて剣の形状を作り上げまるでロボットアニメとかで出てくるビームソードみたいである。
目の前に見えた武器がロボットを簡単に切断できるような物騒な武器を想像して身の危険を察知して思わず尋ねてしまう。
「そんなビームの剣みたいなのが体に触れても大丈夫なんですか!?」
「ショックモードに切り替えるから大丈夫よ」
「しょ…しょっくもーど?」
よく理解できずことばがひらがな口調のような言い回しで頭の上に疑問符が浮かんでいるような娘に解りやすく説明しようと例えて話す。
「そうね解りやすく言うと貴方がよく知っている剣道の竹刀と同じで物理的な衝撃のみで物質切断能力は無くなるわ」
「ただし…当たるとそれなりの衝撃を受けるわ、それは覚悟しなさい」
「アイリス、ウェポンモードチェンジ、ショックモードに変更」
すると間髪入れずに機械的な音声が返事を返す。
『ウェポンシステムの切り替えを実行、ショックモードに移行します。』
アイリスと呼ばれる機械音声が報告を行うと剣の色が青色へと変化した。
「さて、あなたの武器も用意しないとね」
左手で相手の背後に存在する剣を指さす。
「まずは背中にある剣を抜きなさい、右手でグリップを握れば簡単に外れるわ」
ひかりは言われたとおりに剣を握ると鎧から音声が聞こえ、
『-ロック解除します』
剣を固定していた金具が外れ自身の背丈の半分以上ある長い剣が姿を現す。
その姿は中世代の騎士剣とでも言うべきだろうか
「言っておくけど、その剣は制限モード状態だから物理攻撃能力用のエネルギーはカットしてある、殆ど飾りの模造刀状態だから好きに攻撃していいわ。」
ひかりが剣を両手で持ち剣道のように振り回してみたが重厚な見た目とは裏腹にとても軽く振り回すのも苦ではない。
「さてと…」
これから起こる戦いの序章を告げてきた。
「この戦いの勝利条件を伝えるわ、私の攻撃を全てかわすかあなたが私の体に一撃でも攻撃を当てれば勝利よ、戦闘時間は3分」
勝利の条件がとても簡単に感じもう一度アテナに聞き直す。
「一回でも当てれば勝ちなんですか?」
呆気にとられている相手にそんな事は無理だと言わんばかりの自信満々な表情で、
「そうよ、当てられるものならね」
不意に気づいたように盾が装着されている左手を下ろす。
「シールドロック解除」
『シールドロック解除しました。』
少し遅れた事後報告のような形で音声が聞こえて、盾が地面に落ち軽い金属が地面に落ちたよう音が共鳴して響く
「盾はハンデよ、これがあったらまず100%攻撃が当たらないわ」
「アイリス、時間の計測よろしく」
『-了解しました』
アテナは右腕の剣を構え全身をやや前傾姿勢にして構え、ひかりを睨みながら言葉をかけてくる
「…準備はいいかしら?」
その言葉と同時にひかりが剣を剣道で試合前する前の構えになり固まる。
突如アテナの背中に搭載されているユニットから掃除機が空気を最大で吸い込むような轟音が鳴り始め周囲に響き渡る
ひかりは剣を構えて対峙しているだけだ。
なのにアテナから得も言われぬプレッシャーを物凄く感じ辺り一帯に静けさと緊張感が漂う。
とそこで轟音を放っていたアテナの背中に装着されていたユニットが突如として静寂が訪れた。
一瞬間をおいたその瞬間。
大砲のような物凄い低音が発生したと思った一瞬、剣を構えたアテナが猛スピードでひかりの元に飛翔して来た