緑が来る
アインとファムは部屋の中に入ると、中央でウネウネとツタを揺り動かしている緑色の巨大植物を発見した。それは例えるなら、巨大なウツボだった。口の部分をパクパクと閉口させ、酸素を排出していた。
「何だってんだよ」
アインは植物を気味悪そうに見ていた。しかし、ファムが注目したのはそれではない。植物の近くに横たわっている人の死骸をじっと見ていたのである。
死骸の正体は看守だった。既に死体は腐り始めていて、周りにはハエが集っていたが、それ以上に驚かされたのが、その表情だった。顔の筋肉が硬直しており、恐怖の表情のまま固定されている。よほど、恐ろしい目に遭ったのだろうと、容易に想像がついた。
「早く枯らしちまおうぜ」
アインが植物に近付いたその時だった。植物の長いツタが突然、彼の首筋を鞭のように叩いた。その衝撃で床に顔をぶつけた彼を、今度は床を下から突き破って出てきたツタが、体を雁字搦めにして、そのまま、下の階まで引き摺り降ろそうとしていた。
「アイン」
「ぐ、来るなファム。お前は植物を何とかしろ」
アインはそのまま床を突き破ると、下の階の階段に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
「くそ・・・・」
ファムは小さく舌打ちをすると、自分の隣を横切るアンジェリカの姿を見て驚いた。
「ちょっと、アンジェリカ?」
「あそこに、何かあるわ」
アンジェリカは華奢な体を震わせ、看守の死骸を指した。
看守の死骸の手が不自然に伸びており、まるで何かを取ろうとして失敗したようにも見えた。そしてその手の先には、茶色の皮袋が床の上に転がっていたのだ。
アンジェリカはそれを取りに行こうと走ると、途中で植物に足を取られて転んでしまった。
「大丈夫?」
「あ、痛・・・・」
ファムは襲い掛かるツタを剣で切断しながら、アンジェリカの元へと駆け寄ると、そのまま死骸を越えて、皮袋を手にした。
「これは恐らく、除草剤ね」
袋の中には粉末のような物が入っていた。看守はこれを使って、植物をどうにかしようと考えていたのだろう。全てを察したファムは、それを植物に投げつけると、剣でその袋の尾を斬った。
袋の中身である緑色の粉がぶちまけられ、植物に振りかけられた。すると面白いように、植物が苦しみ始め、やがて水分を失ったように萎れてしまった。
「止めだ」
今やすっかり小さくなってしまった植物の芽を足で踏みつぶすと、ファムは下の階のアインの元へと向かった。不幸中の幸いか、アインは生きていた。最も気絶していたが、彼が目覚めた頃には、三人は狭い牢屋から、少しだけ豪華な部屋に移動していたのだった。
一方、カーテンがびっしりと引かれ、昼間なのに影で薄暗くなった部屋で、二人の女性がソファに座り、互いに見つめ合っていた。それも鼻がぶつかるほどの近距離である。
「ねえ、オリジン・・・・」
「どうした?」
「植物は失敗だったね」
青い髪をした女性の一人が、悔しそうに言った。まだ若く20にも満たないその表情からは、年不相応の憂いが感じられた。それに対して、緑の髪を腰まで垂らしたオリジンは、溜息交じりに答えた。
「お前も、随分な賭けに出たものだな」
「余計なお世話よ」
「これからどうする?」
「以外に、ファムとかいう女は手強いわね。そんなにも煉獄に行きたいというのなら行けば良い。いずれにせよ、新世界の誕生に、あの女を立ち入らせるつもりはない」
オリジンは手の平で小さな結晶を弄びながら、話に耳を傾けていた。結晶の中には、10CMほどの大きさをした、子供の人形が入っていた。人形はまるで生きているかのように、瞳を動かすと、オリジンの顔をじっと見つめていた。
「まだ結晶化していない神獣が残っているな」
「必要無いわ。既に必要な神獣は揃った。後は竜の首飾りと混沌の宝石が揃えば、古き世界を消し去り、新たなる世界が生まれるでしょう」
二人の女性はゆっくりと立ち上がると、何事も無かったかのように部屋を後にした。




