プリズンアドベンチャー
ファムは冷たい鉄格子の上で横になっていた。そして時折、鉄格子の間から外の様子を伺っていた。彼女はここから出なければならない。そして何処かにいるはずのマロと、ガロを探し出さなければならないのだ。
「ファム、どうしたの?」
アンジェリカが外を気にしているファムの隣に寝転がって来た。
「ねえ、アンジェリカ、ここでは重犯罪を犯した人も、軽犯罪を犯した人も、同じような牢獄で過ごすの?」
「ううん、違うよ。重い犯罪を犯した人はね、デッドエンドのずっと上にある、煉獄っていう場所に収容されているはずだよ」
「煉獄・・・・?」
煉獄、それはデッドエンドに収容されている人間達の中でも、特に重い罪を犯した人間が収容される、広く巨大な空間のことである。その場所がどういう仕組みで成り立っているのか、どのような人物がいるのかについては、トップシークレットであり、囚人も看守も、知る人間は限られているらしい。ファムはこれらの話を聞いて、悪寒を覚えた。それは、ガロとマロが煉獄にいるのではないかという、不安である。
「どうしてそんなことを聞くの?」
「ああ、いや、実はね、私は煉獄に用があるのよ」
ファムの言葉に、アンジェリカは驚いた。そしてその後ろで興味無さそうにしているアインにも、その言葉は響いたようで、思わず寝返りを打ったふりをして、二人の方に視線を向けていた。
「だめだよ、死んじゃうよ」
「確かに。だけどね、私は煉獄に行かねばならない。そのために無実でこんな場所にも入ったというのに、こんなところでは挫けられないの。あなた達はどんな罪業を背負ってここに来たの?」
ファムはアンジェリカの顔をじっと見つめた。彼女は頬を僅かに染めると、咳払いをしながら語り始めた。
「私はね。改宗したの。ホーリィー教に仕える身でありながら、他の宗教に魅力を感じてしまった。だから異教徒として、裁判に掛けられてここに来たの」
「そうだったの・・・・」
ファムとアンジェリカが二人で見つめ合っていると、そこに割って入るように、アインが口を開いた。
「喧嘩・・・・」
それは消え入りそうな程に小さな声だったが、ファムの耳には届いていた。隣のアンジェリカは、アインが口を開いたことに驚いている様子だった。
「誰としたの?」
ファムはアインの元に歩み寄った。彼は起き上がると、そのまま胡坐をかいて、話を続けた。
「口ばっかりで、ありがたい教えをベラベラ吐くだけの、能無し神父を殴ってやったんだ。今までも喧嘩した経験はあるが、デッドエンドに収容されたのは初めてだ。同じ人間だというのに、神父を殴るのはダメらしい」
「そんな経験をしたのか」
「ところで、姉ちゃん。お前、本当に煉獄に行く気か?」
アインは鋭い目でファムを見つめた。彼の顔を見るのは初めてである。
「当たり前だ」
「じゃあよ、自由時間を利用するこったな。デッドエンドには昼休みが1時間ある。この間は自由に行動できる。脱獄さえしなければ、結構、自由な方だぜ」
アインは歯を見せてニカッと笑った。すると彼の右肩に小さな小人のような物が現れて、彼の肩から飛び降りるのが見えた。
「今のは何だ?」
「ほほう、よく見えたな」
アインは足元にいる小人を右手で掬って、ファムの目の前に持って来た。
小人は白く発光した両目をしており、体は銀色で、継ぎ接ぎだらけだったが、体は鉛のように固くて重かった。敢えて名前を付けるなら、機械人形とでも呼ぶべきなのだろう。無機質な形状をしていた。
「これは俺の神獣、タリスマンだ。能力は、ある体の部位を、別の体の部位に作り替えることだ」
「実は、私も神獣使いでな」
ファムは全身に力を入れた。すると彼女の体が銀白色の鎧に包まれた。
「私の神獣、ライディーンだ。能力は強力な剣技」
「ご立派な能力だが、そんな派手な力じゃ、煉獄に辿り着くなんて無理だぜ。俺のタリスマンならできるがな」
アインは得意げに笑みを浮かべると、牢屋の扉のロックが解除され、囚人達の昼休みに突入したので、そのまま牢屋から出て行ってしまった。




