世界の終わり
世界が終ろうとしていた。マロとファムは、白いローブに身を包んだ女と向かい合っていた。
「ここで終わりにしよう」
女は言いながら空を見上げた。そして両手を広げて言った。
「新たなる世界へ、パーフェクトワールド」
女の言葉とともに世界が暗転した。マロとファムは女の元へと走った。
「止めろ」
「アブソリュート」
二人は女の放つ黒い渦の中へと消えて行った。世界の結末は誰も知らない・・・・。
1か月前、マロとファムは小さな小屋に二人で住んでいた。暗黒神獣との闘いが終わり、ようやく訪れた平和を享受していたのである。
「ねえ、マロお使いに行って来てくれないか?」
ピンク色のエプロンに身を包んだファムがお玉を片手に、マロに皮のバッグを渡した。普段鎧に身を包んでいる彼女が、エプロンを着るなんて非常に珍しい。これも平和の証なのかも知れないと、マロは思った。
「うん、良いよ」
マロはバッグを持って小屋を出ると、草むらを越えて買い出しに向かった。ファムはそのまま料理を作っていたが、1時間経ってもマロが帰らないのを見て、不審に感じていた。
「遅いな・・・・」
ファムの心の中に一抹の不安が過った。
(まさか浮気?)
考えたくも無い話だが、ファムは真剣だ。エプロンを投げ捨てると、いつもの鎧姿になって、まずはお使い先のバルド共和国に向かった。
「頼もう」
ファムはバルド城を闊歩すると、そのまま王室に向かった。本来はこんな無礼な行為はできないはずなのだが、ファムをぞんざいに扱うと、アリッサが怒るので、兵士達は何も口出しできないでいた。
ファムは王室にいるアリッサを見つけると、彼女の前で仁王立ちをした。
「どうしたの?」
突然現れた招かざる客に、アリッサは紅茶の入ったTカップを震えさせながら、上目遣いで彼女の様子を伺っていた。
「マロに捨てられた」
ファムは、気丈な彼女らしくなく、床に膝を突いて泣いた。
「あのさ、説明してよ」
「帰って来ないのだ。マロが」
「え、帰って来ない?」
アリッサの顔が急にシリアスなものに変わった。そして近くの兵士に耳打ちすると、ファムを自分の寝室に案内した。そして彼女をベッドに座らせると、自らも隣に座った。
「実はさ・・・・」
アリッサは小声で話し始めた。
「最近ね、神獣使いの失踪事件が多発しているのよ」
「えっ?」
ファムの声が城中に響き渡った。アリッサは思わず耳を塞いでいた。
「うるさいな。とにかく聞いて。最近ね神獣使いが神獣もろとも消えているのよ。でもこれは、まだ国民の多くは知らなくて、ここで教えちゃうとパニックになっちゃうから、敢えて伏せることにしているのよ」
「何処に消えたんだ?」
「分からない。ただ、その神獣事件の容疑で逮捕された、女なら知っているわ」
アリッサの言葉にファムは立ち上がった。どうやら女という単語に反応したようだった。
「落ち着いて座ってて。あなた変よ。何か浮かれすぎて弛んだ感じね。まあ、とにかく、その女はある場所に閉じ込められているわ」
「それは何?」
「話したらあなた行くでしょ?」
「当たり前だろ」
「じゃあ、話せないよ」
ファムはアリッサの胸倉を掴んだ。そして自分の方に引き寄せた。
「教えて?」
「教えても良いけど、どうせ行けないわよ。だって関わりの無い国ですもの」
「何処なんだ・・・・?」
「デッドエンド」
アリッサの発した場所に、ファムは聞き覚えがあった。
「それって、確か監獄だな」
「ええ、ここから数万キロ先に、ホーリィー教の治める宗教国家、聖地エターナルがあるでしょ。そこでは異教徒や犯罪者を閉じ込める、大きな監獄施設がある。その名もデッドエンド。そこに女が掴まっているわ。私達としては彼女は無実だと思うのだけれど、問題はそれじゃない」
アリッサはTカップを取って紅茶を一口飲んだ。
「マロのお父さんガロが、デッドエンドに収容されたという情報を最近聞いたわ」
ファムは耳を疑った。どうしてガロがそんな場所にいるのだろうと疑問に思ったからである。そしてアリッサの言葉の真意が理解できた。マロはガロを追って、デッドエンドに向かったと言いたいのだろう。しかしそれは不自然で、彼女には到底信じられない話だった。




