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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
ロストアイランド編
9/121

騎士ゾンビ襲来

黒いローブに身を包んだ者が4人、湿地の真ん中で立っていた。周りには何人もの死体が転がっている。皆、恐怖に怯えた顔で死んでいる。 そして全員が同時にローブを脱ぎ捨てた。それぞれ甲冑を装備した男に、金髪で年齢は12歳ほどの短髪の少女、そして黒く長い髪をした妙齢の女性がいた。そして中央にはリーダーらしき男もいた。髪は黒く、目元まで掛かっている。


「クロウ様、合計で30枚にございます」

灰色の甲冑に身を包んだ男が、金貨の束を

「ご苦労ギルガ。さて、これで34枚になるな。幸先が良い」

クロウの足元に転がる死体の一つが動いた。何と彼は生きていた。

「おい、何勝手に金貨取ってんだ。俺はまだ死んでねえ」


傷だらけで立ち上がる男を見て、クロウは小さく笑った。

「良いだろう。私が止めを刺すとしよう」

クロウは地面に右手を付けた。ギルガ達の顔に緊張が走る。

「クロウ様、あれをやる気だ」

ギルガ達は近くの木に登った。そして枝に掴かまり、地面の様子を見ていた。

「なんだ?」

男は怪訝そうに、木の上にいるボイドの連中を見た。

「奴らは私のこれからしようとしていることを知っているのだ。」


「特別に見せてやる。我が神獣ディアボロスをな」

クロウの背後に、黒い体に黒い翼をした人型の、おぞましい獣が立っていた。瞳は赤く、口元からは牙がはみ出ている。見る者全てに恐怖を与える外見をしている。

「何だ…」

強がっていた男も、思わず逃げ腰になる。だが、もう手遅れだった。ディアボロスの黒い手が、地面に振れた瞬間、まるでそこが、世界の中心であるかのように、地面が陥没し吸い込まれて行く。


「ホール」

クロウが唱えると、周りの死体や落ち葉、虫などが、ディアボロスの足元に吸い込まれ、次々と土の下へと埋まっていった。無論、抵抗していた男も、同じく地面の下敷きになった。

「クロウ様」

 木の上から三人が降りてきた。そのうち金髪の少女がスカートの土を払って、頬を膨らませていた。

「もう・・・・、いきなり使うんだもん。びっくりしたわ」

「ああ、悪かったな」

 クロウはニヤニヤと反省しているのかよく分からない態度で笑っていた。三人が避難した木は、下の部分が地面に陥没しており、全体的に低くなっていた。

「さて、ここから金貨を探し出すのは骨だな。何せ、対戦相手を地面から掘り出すのも大変だからな」

 彼らボイドは、欲しい物は全て奪う。それが唯一のルールであり、目的だった。



 マロとファム、そしてアリッサは墓場にいた。ここはロングアイランドの北東にある。最も不気味なエリアだ。辺りには墓石や骸骨が並んでいる。

「にしても、お手柄よねファムは、食べ物を取りに行くついでに金貨を持ってくるなんて」

 ファムは遺跡でのブロックスとの闘いの後、その神獣使いを見つけ出し、金貨5枚を手に入れていた。

「おい、そこのお三方もしもーし」

 三人の正面に、墓石に腰かけた男がいた。髪は茶髪で肩まで伸ばしている。そして顎には無精髭を蓄え、何ともイメージのしにくい姿で、そこに座っていた。

「誰だお前は?」

 ファムは柄の剣に手をかけながら尋ねた。実はこういう男性はファムが最も嫌いとするタイプなのである。


「ちょ、いきなり戦闘モードかよ。名前ぐらい名乗らせろよ。俺の名はハワード。ジェームズ・ハワードさ」

「そうか、じゃあ始めるか」

 ファムは柄から剣を抜いた。

「待て待て、俺のこと知らないのか?」

「知るか貴様など」

 しばらくファムとハワードの不毛なやり取りが続いた。その姿を唖然と見ていたアリッサは、突然、何か閃いたように、瞳を輝かせた。

「知ってるわ。思い出した。あの有名コメディアンのジェームズ・ハワードね」

 ハワードは飛び上がって喜んだ。そして胸ポケットから髪を一枚出した。

「俺は世界的なコメディアンさ。かつて笑わないことで有名な王様を笑わせて、国から多大な金をもらったことだってあるんだぜ」


 ハワードは胸を張って言うと、先月行った自分のショーのパンフレットをファムに渡した。

「ほう、大道芸人か。興味ないな」

 ファムはパンフレットを破くと、再び戦闘モードになった。

「あんた、ずいぶん好戦的みたいだな。良いぜ、俺も客から飽きられて、宣伝のためにここへ来たんだ。あんたらには協力してもらう」

 ハワードの姿を見て、マロとアリッサは互いに顔を見合わせた。

「何か、あの人弱そうだね」

「ええ、絶対雑魚よ」


 ハワードはポケットから金貨を取り出して、ファムに見せた。その枚数は8枚だった。

「何・・・・?」

「驚いたかい。俺は雑魚じゃない」

 ハワードの周囲を紫色の煙が包んだ。煙の奥から馬に乗った何者かの影が近付いてきた。

「何か来るぞ」

 ファムは思わず後ろに下がった。前方からは馬に乗り、青銅の鎧に身を包んだ騎士が、ファムに向かってゆっくりと近付いてきた。


「こいつの名は、アンダーグラウンド。俺の神獣さ」

 ファムは剣を構えた。その横をアリッサが通った。そしてファムの前に立つ。

「私に任せて、いつも裏切り者扱いしてくれてるから、今回こそ仲間らしいところを見せるわ」

 アリッサの頭上に炎の柱が立ち上った。

「サラマンダー」

「うおおおお、このパーティーにお帰り俺」

 全身を炎に包まれた蜥蜴、サラマンダーが現れた。

「ほう、中々ホットな神獣だな」

「あんたに褒められても嬉しくないけどね」


 ハワードのアンダーグラウンドがサラマンダーに向かって突進した。

「ファイヤータン」

 サラマンダーはファイヤーパターンの舌を伸ばして、アンダーグラウンドに巻きつけた。そして鎧ごと高熱で燃やした。そしてアンダーグラウンドは落馬すると、炎に身を焼かれながら、地面に叩きつけられた。

「やったわ。イエイ」

 アリッサがファムとマロに向かってピースサインをした。

「アリッサ、よそ見したら危ないよ」

 マロがアリッサの背後を指した。突然、炎に包まれていたアンダーグラウンドが仰向けの状態で跳躍、両足で地面に足を付けた。

「コオオオオオ」

 兜から聞こえてくる呼吸音は不気味だった。


「こいつ。あの炎は3000度するのよ。まともに喰らえば、死体すら残らないはず」

「甘いぜお嬢ちゃん。あんたの炎は、アンダーグラウンドの鎧を溶かしたに過ぎない。そして今こそ、我が神獣の素顔と、真の実力を見せよう」

 アンダーグラウンドが兜を脱ぎ始めた。そして所々、傷だらけの、血塗れの醜い顔が姿を見せた。

「化け物よ・・・・」

「こいつはな、戦いで味方に裏切られ、無念の内に死んだ騎士のゾンビだ。自分の受けたダメージが大きければ大きいほど、攻撃力が上がっていく」


 アンダーグラウンドは再び馬に乗った。そして手に持った長いランスを、サラマンダーに向けて、再び突進してきた。

「サラマンダー気を付けて」

「任しておけアリッサ。とは言ったものの、この神獣は厄介だぜ」

「溶けちまえ」

 サラマンダーは口から高熱のガスを発射した。アンダーグラウンドはそれをジャンプして避けると、ランスをサラマンダーの口に突き刺した。

「ごふ・・・・」

 アリッサの唇から血が一滴垂れた。

「アリッサ逃げて」

 マロが叫ぶ。アリッサは歯をガチガチと揺らしながら、口から血を流してた。


「さて、このままランスを、この蜥蜴の口に押し込むと、お嬢ちゃんはどうなるかな?」

「や、やめ・・・・」

 アリッサは必死に声を絞り出そうとするが、上手に言葉にならない。アンダーグラウンドはランスを、サラマンダーの舌に突き刺すと、そのまま貫通させた。

「うぐ・・・・」

 アリッサが口を抑えて、地面に膝をついた。舌の先に穴が開いている。そしてそこから赤黒い血が、ポタポタと顎にまで伝わった。

「ほっほほっほ。もう万事休すかい?」

「あ、あんたねえ・・・・。今すぐ、この槍を抜いた方が良いわよ。たぶんこのまま続けると死ぬわ」

「君がだろ?」

 アリッサは口を曲げて笑った。

「サラマンダー、だそうよ。その男は死ぬ覚悟があるみたい。アレを使って・・・・」


「ああ、分かった」

 サラマンダーの眼が光った。アンダーグラウンドはそのまま喉を貫こうと、ランスを奥に刺そうとするが、その動きは直前で止まった。気付くと、サラマンダーの体が炎に包まれている。まるで太陽のように球状の炎塊となった、サラマンダーとアンダーグラウンドは上空に飛ぶと、そのまま空中で爆発した。

「ライジングサン」」

 空から炎の塊が雨のように降り注ぎ、地面にある骸骨や墓石にぶつかり、ドロドロに溶かしていく。

「綺麗だな」

 夜空に浮かぶ流れ星に見えなくもない降り注ぐ炎弾に、不謹慎にもファムは感動してしまった。マロは願い事をしていた。


 数分後、ようやく炎弾の雨が止んだ。サラマンダーが空から降ってきた。そこにアンダーグラウンドの姿はない。

「あれ、ハワードの神獣は?」 

 マロが問いかけると、アリッサとサラマンダーは静かに首を横に振った。そして最早、顔の分からないぐらいに焼け焦げた。ハワードであった物から金貨を取った。

「ハワードは死んだわ。だから使いたくなかったのだけれど。彼も私を殺そうとしたし、これでチャラということで」

 三人は金貨をしまうと、墓場の出口へと向かった。

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