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悪夢の戦い

 老人によって、小屋に案内されたガロは、彼から石で造られた簡素なお椀を受け取ると、そこに乳白色のスープを入れられて、それを一口飲んだ。

 ガロは何とも形容のし難い顔をしていた。スープの味はお粥のように、薄くて分からない味だった。美味いとも不味いとも言えず、彼は苦笑いを浮かべていた。それに比べて老人は、美味しそうにスープをグビグビ飲んでいる。


 ガロは手元のスープをじっと観察した。何の変哲も無いただのスープであるが、どうも様子がおかしい。スープの真ん中がブクブクと湯立っているのである。そこまで熱くはないはずなのに、奇妙だとガロは思った。そんな彼の予想が的中していたのか、スープの真ん中から何か丸い物が浮いているのを発見した。

「何だ?」

 ガロは呆然と見ていたが、それが人の目玉だと気が付くのに、そう時間は掛からなかった。

「うあ・・・・」

 無意識お椀を壁に投げつけると、元々ひびが入り、脆かったお椀は粉々に砕け散った。そして隣の老人を一瞥すると、彼の様子も尋常では無くなっていた。


「ああひい、スープは飲んでも、スープに呑まれるな」

 老人は意味不明な戯言をブツブツと呟いていた。そしてフラフラと立ち上がると、全身から乳白色のスープを出しながら、風船のように膨れ上がり破裂した。中からは人の形をした一つ目の生物が飛び出して来ると、足元にある鍋を思い切り蹴り飛ばした。

「ひひひひ、スープは飲んでも呑まれるなああああああああ」

「き、貴様は」

 ガロはようやく全てを思い出した。目の前にいるのは暗黒神獣のアーリマンであることを、自分が攻撃を受けていることを思い出したのだ。


「くそ、何のつもりだ」

 ガロは背中の剣を抜くと、それでアーリマンを斬りつけた。しかしアーリマンの体には血が一滴も垂れていない。それどころか掠り傷一つも負っていなかった。よく見ると、ガロが握っていたのは剣などではなく、長ネギだった。それも店で見かけるような物で、思い切り力を入れたせいか、先の方がグニャリと曲がっていた。

「ここは貴様の深層心理が見せる悪夢の世界だ。ここでは精神がものを言う。精神力の無い奴は、この夢から覚めることは決して無い。永遠に彷徨い続けるのだ」

「ほう、良いことを聞いた」


 ガロは笑うと、再び長ネギでアーリマンの腹を斬った。今度はネギは曲がることなく、何と、アーリマンの斬られた部位からは、多量の血が流れていた。

「ごふ・・・・」

 アーリマンは斬られた腹を押さえながら後ずさった。

「何故、ネギなんかに」

「精神力が強ければ良いのだろう。悪いが、俺も歴戦の勇者でな。恐怖などとっくに克服しているのだ。特に夢だと分かっている以上、怯える必要なんて無いのだ」

「ゆ、夢だと教えたのは失敗だったか・・・・」

 アーリマンは血を吐きながら、目の前の敵を見縊っていた自分を強く恥じた。

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