アーリマンの力
ガロは城外に出ると、町中の人間が全て氷漬けになっているのを見て驚愕した。
(氷の魔法か?)
「ふふふ、ついに見つけましたよ」
ガロの眼前にはゲブがいた。彼は薄ら笑いを浮かべながら、背後にいるアーリマンを隣に立たせた。
「貴様が親玉か?」
「んふふ、その通り」
「良いのか?」
「何がです?」
「死に場所だよ。こんな町の中で死ぬなんて、プライドが許さないんじゃないのか?」
ガロの言葉に、アーリマンが眼を強張らせた。
「貴様、この虫けらが。王に向かって何を言っている」
「大丈夫だアーリマン、こんなちっぽけな奴の挑発に乗る私ではない」
ゲブはアーリマンを宥めると、近くにある民家の石段に腰掛けた。
「精神への攻撃ほど厄介なものはない。それを今から体現しよう」
「何を言っているんだ」
ガロは剣を抜くと、そのままアーリマンに向かって走った。その速さは正に俊足で、そのままアーリマンの顔を縦に斬りつけた。
「ぐあああああ」
アーリマンは眼を閉じると、血飛沫を立てながら、後ろに倒れ込んだ。同時にゲブも顔面から血を流している。
「ほざく割りには弱いな」
「ひ、人の話を最後まで聞かないとは。もう良い、アーリマンよ。奴を悪夢の世界に招待してやれ」
アーリマンの全身の目玉が開き、金色の光線を放った。そしてそれらはガロに向かって一直線に向かって行った。
「当たるか」
ガロはそれらを避けると、剣を構えて、再びアーリマンに斬りかかった。しかしそれよりも速く、避けたはずの光線がゴムのようにグニャリと曲がって、背後からガロの元へと戻って来た。そして彼の体を背中から貫通した。
「ぐっ・・・・」
ガロはそのまま地面に倒れると、瞳を開けたまま動かなくなった。
「何だ・・・・?」
ガロは浜辺に打ち上げられていた。見たところ無人島にも思えるが、視線の先には小さな小屋があるので、恐らくは人は住んでいるのだろう。
ガロは立ち上がると小屋に行き、扉を叩いた。
「すいません。誰かいませんか?」
しばらくすると、小屋の奥から男の声が聞こえて来た。しわがれた声色から察するに、小屋の住人はかなりの高齢なのだろう。声には力が無かった。
「誰ですかあ?」
老人は耳が遠いのか、必要以上に大きな声をしていた。
「ここは何処ですか?」
「ここかい?」
老人は一瞬、空の方を向いて考えたふりをしていたが、やがて笑いながら、誤魔化すように言った。
「あへへ、分からん。ここは何処じゃ?」
ガロは老人に軽く会釈をすると、そのまま小屋から離れようとした。それを見て、老人が何を思ったのか、ガロの腕に抱きつくように、強い力で掴んだ。
「御老体?」
「せっかく来たんじゃから、少しゆっくりして行きなさい」
ガロは内心面倒だと思ったが、年寄りを冷たくあしらうわけにもいかず、仕方なく、小さな小屋の中に入って行った。




