精神への攻撃
「くくく・・・・」
ゲブは足元で氷漬けになっているアリッサと、イフリートの姿を見ていた。
「私の作り出した悪夢に屈した人間は、この通り、氷漬けになる。精神で屈したということは、他の全てをも凌駕して、私に敗北するということなのだ」
「その通りですゲブ」
傍らにいるアーリマンが静かに頷いた。
「もうすぐで、私は光を手にすることができる」
「ええ、しかし、あなたにとってもう一つの障壁が残っています。それを今から、あなたが直々に出向いて始末せねばなりません」
ゲブは階段を降ると、塔の入り口にまで降りた。入り口付近には氷漬けになったジャックとソルガが倒れていた。
「仕事が速いなアーリマン・・・・」
「これから、奴を追いに行くのですか?」
「ああ、あの時、私の球体から逃れた男が一人いたからな。あいつは見たところ、かなりの強さを誇っている。精神的にも肉体的にもね。これだけは部下にも任せられん。直々に出向かなければなるまい」
ゲブは塔を出ると、砂漠の中へと消えて行った。
ガロはアリッサの言葉を頼りに、バルド共和国に辿り付いていた。途中で何体もの暗黒神獣とその使い手に襲われたが、それらを全て片づけると、流石の彼も深手を負っていた。
「中に入れてくれ・・・・」
ガロの言葉に門番の二人は難しい顔をしていた。いくらアリッサの名前を出されても、国の王女の名前を知っている人間など、他にもたくさんいる。それだけでアリッサの仲間であるとは、信じてもらえないのである。
「申し訳ありませんが、部外者を城内に入れるわけには・・・・」
「そうか・・・・」
罪人として世界中で追われているガロにとって、このように日中に晒されているだけでもリスクが高い。彼は覚悟を決めると、自分の拳を握りしめた。
(済まない・・・・)
ガロが門番を殴り倒そうとしたその時、城門が開かれた。そして中からアリッサと思わしき女性が姿を現した。
「ガロよ。来ましたか」
アリッサの姿を見て、兵士の二人は驚いていた。当然だ。留守にしているはずの彼女が、突然現れたのだ。驚くなと言う方が無理がある。
「あ、王女」
兵士の二人は思わず、持っていた槍を落として、もうガロに入るなとは言えなかった。彼はそのままアリッサに案内されて城内にはいると、そのままマロの眠る地下室へ案内された。その途中、地下へ続く廊下を進みながら、ガロは悪戯っぽく笑った。
「あははは・・・・」
「何です?」
「お前、フェンリルだろ。城の中にいたのか?」
「ふっ・・・・」
アリッサの姿をしたソレは静かに笑うと、煙とともに、緑色の美しい毛並みを持った神獣、フェンリルになった。
「バレていたか」
「当たり前だ。狐みたいなやつだと思ってはいたが、本当に人に化けるとはな」
「人を騙すのは、お前だけの専売特許ではない。それともう一つ・・・・」
笑っていたフェンリルの顔が急に真剣になった。ガロも同じように鋭い目に変わっていた。
「この扉の先にマロがいる。覚悟しろ。ここから先は肉親には少々堪えるぞ」
「ああ・・・・」
ガロは扉を開けた。白い光が二人を照らしていた。




