ナイトメアワールド2
アリッサは床に転がっている自らの、悲惨な姿を見て、思わず吐き気を催した。気付いた時には、再び部屋を出て、何処へ走っていた。
「何なのよ」
アリッサは両開きの扉を開け放つと、そのまま屋外へと出た。見覚えの無い庭園がそこには広がっていた。そこには真っ赤な彼岸花が無数に咲いていて、彼女自身はその花が嫌いではなかったが、その花が不吉なものを連想させるので、今はあまり見たいとは思わなかった。
ふと、空を見上げると、そこには雲一つ無く、代わりに真っ赤な夕焼けが広がっていた。しかしそれ以上に驚くべき光景があった。何と空には無数の大きな目玉が付いており、何も無いはずの空間から大きな瞳を見開いて、何度も瞬きをしているのだった。そのうちの一つがギョロッとアリッサを見下ろすと、そのまま瞳孔を震わせた。そして眼から大粒の滝のような涙を流した。
「きゃ・・・・」
アリッサの体は涙の滝でずぶ濡れになった。それでも涙は流れ続けており、それはいつの間にか透明から、真っ赤な色に変わっていた。そしてヌルヌルと、今まで彼女が触れたことも無いような、不気味な粘着質の液体に変わっているのを見て、彼女は叫んだ。
「嫌ああああああ」
アリッサはサラマンダーを召喚しようとするも、どういうわけかそれができない。彼女は喉が潰れるのも気にせずに叫び続けると、いつの間にか耳元で男の声が聞こえてきた。
「起きろ、アリッサ・・・・」
肩を強く叩かれている。慌てて眼を開けると、そこは転生の塔の小部屋だった。アリッサを起こしたのはイフリートである。
「大丈夫か?」
「ああ、ええ」
アリッサは起きると、自分が無事であることにホッとした。そして周囲を見回すと、椅子に座って読書をしているゲブがいるのを発見した。
「ちょっと、敵がいるわよ」
「ふ、彼は敵じゃないさ。我々の主だ」
「主?」
アリッサは首を傾げた。するとゲブが本を置いて、二人の元へとゆっくり近づいて来た。
「私はこの世界を手に入れたんですよ。あなたが眠っている間にね。だから主と言ったんですよ。この世界に住んでいる人間は私を慕っていますからね」
「そうなの?」
「ええ・・・・」
ゲブは優しく微笑んだ。それを見て、アリッサも何だか嬉しくなっていた。彼が手を差し出すと、彼女も同じように手を差し出して、彼の手の上にそっと乗せた。
「え?」
アリッサの手がゲブに触れた瞬間、指先から凍り始めた。そしてそれは徐々に、彼女を侵食して行くと、腕から肩にまで上って行き、ついに彼女は全身が氷漬けになってしまった。




