悪夢の世界へ
ワイズマンを倒したアリッサとイフリートの二人は、元の姿に戻った転生の塔の螺旋階段を上っていた。しばらく無言のまま進んでいると、階段にもたれ掛かるように倒れているジャックを発見した。
「あんた、大丈夫?」
アリッサはジャックに駆け寄ると、彼に肩を貸した。彼は苦しそうに全身から汗を流していた。 「ああ、ありがとよ。さっき闘ってたんだが、相手が強かったど・・・・」
「怪我人がいては邪魔だ。アリッサとやら、そいつは見捨てろ」
イフリートは冷たく言い放つと、流石のアリッサも我慢ならなかったのか、イフリートの顔を強く睨み付けた。
「そんな言い方酷いわ」
アリッサの言葉に、今度はジャックが宥めるように口火を切った。
「大丈夫だ。本当のことだど。オラは置いて行ってくれて構わねえ」
「そうですね」
階段の上の方から、聞き覚えのある声がした。ソルガが下って来たのだ。そして傷だらけの身体を引き摺りながら言った。
「私もこの通り、負傷してしまいました。ジャックさんと私は下の方で休んでいます。だから、お二人は上の階へ行ってください。傷が治ったら、すぐに合流しますから」
「人間のくせに良い判断力だ」
イフリートはそのまま階段を上って行った。その痕をアリッサが急いで付いて行った。後ろを見ると、ソルガがジャックに肩を貸しながら、下の階に降りて行くのが見えて、少しだけ安心した。
「気を付けろ。あの小部屋に何かいるぞ」
イフリートは階段を駆け上がると、円形の小部屋から感じられる怪しげな気配を察知していた。そこにいたのは、金髪の長い髪をした、中年の男、ゲブが椅子に座り、読書に勤しんでいた。あまりに隙だらけだったので、却ってこちらの方が戸惑ってしまった。
「ようやく来ましたか」
ゲブは立ち上がると本をテーブルに置いて、イフリートとアリッサの元へ歩いて来た。
「あんた、てっきり最上階にいるものだと・・・・」
「最初はいましたが、あまりに退屈でね。それにせっかくのプリズンタワーも元に戻ってしまいましたし、はっきり言って興を削がれました。もう終わらせましょうかね」
ゲブは一通り喋り終えると、全身から黒い霧のような魔力を放出した。そして彼の背後から、白い体をした人型の神獣、アーリマンが姿を現した。
アーリマンは一つ目に、背中には白い翼が生えており、その他にも、腕や足、胸元にも目玉が付いていた。それらを何度かパチクリ開閉させると、突然、全ての眼が大きく見開かれた。
「な、何・・・・?」
気付いた時には既に遅かった。アーリマンの攻撃は始まっていたのだ。全身の目玉から光線が放たれると、アリッサとイフリートの胸を貫いた。そして二人は、魂を抜かれたように、瞳を開けたまま背後に倒れ、そのまま天井を見つめたまま動かなくなった。
「ふふふ、悪夢の世界へ行ってらっしゃい」
ゲブは静かに笑うと、再び椅子に座り、読書に戻った。




