共通の大敵
ワイズマンは知っていた。アリッサの背後の壁が少しずつ溶けていることを、だからこそ彼はこう言うのだ。
「壁の君、出てきなよ。もうバレてるからさ」
ワイズマンの言葉を聞いて諦めたのか、壁の中に隠れていると思われる人物は、溶けて弱くなった壁を破壊すると、アリッサの背後から、彼女を押し退けるように姿を現した。
「イフリート・・・・」
アリッサが見たのは、古代神獣にして、彼女と同じように炎を操るイフリートだった。彼も同じくプリズンタワーに呑まれていた。そして右手には、見知らぬ男を抱えていた。そしてそれを、ワイズマンの足元に向かって放り投げた。
「お前の仲間だろ?」
「だけど、もう死んでるよ」
ワイズマンは死体に触れようとした。その時だった。死体が弾け飛んで、全身からマグマを放出した。そしてそれは当然、目の前にいるワイズマンに降り注いだ。
「ぐあああ・・・・ああ・・・・」
顔にマグマを受けて、ワイズマンは顔を両手で押さえた。そして近くの壁にもたれながら、何を思ったのか、自らの顔を壁に思い切り、何度も叩きつけた。
壁はビクともしないが、彼の顔は崩れて行く。壁の表面に血が付着し、それでも彼は行為を止めようとはしなかった。
「彼は何をしているの・・・・」
「あまりの熱さに正気を失ったな」
アリッサはイフリートからサッと離れると、サラマンダーも表情を強張らせた。
「そう構えるな。今は味方だ。共通の大敵が現れた以上、協力する他あるまい・・・・」
「でも裏切ったりしないかな・・・・」
「裏切るだと」
イフリートの表情が、彼の操るマグマのように怒りに歪んだのを見て、アリッサは慌てて彼からさらに離れた。
「嘘、ごめんね」
「私が裏切るなどと、二度と妄言を吐くな」
「ああ、よくも、僕の顔を・・・・」
ワイズマンはようやく痛みが引いたのか、二人を睨み付けながら、血と皮膚の爛れで、原形を失った顔を空気に晒した。周囲の壁が、一瞬だけ白くなった。そしてそれは転生の塔にも見えた。
「ね、ねえイフリートさん、壁が白くなったよね?」
「恐らく、このプリズンタワー。ただの建造物ではなく、奴の神獣かも知れん」
「この塔が?」
「うむ、奴を倒せば、ここは元の転生の塔に戻るだろう」
ワイズマンは壁に触れた。すると彼の指が壁の中に吸い込まれるようにめり込んだ。
「逃げる気か・・・・」
イフリートは急いでワイズマンを追いかけた。
「逃げないさ」
ワイズマンはボロボロになった顔で笑うと、壁の中から突然、3本の釘が飛び出し、イフリートの額に突き刺さった。
「あが・・・・」
イフリートは反動で背後に倒れた。
「馬鹿だね。この塔が僕の神獣ならば、この塔で起きる現象は全て僕の魔法なのさ。君達は僕の手の上で踊っているに過ぎないのさ」
勝ち誇ったように笑うワイズマンは、今度はアリッサの方に視線を向けた。彼女はギュッと自分の服の胸元を強く握った。
「警戒しないでよ。僕は君が好きなんだ。君が僕の物になってくれるなら、人柱は勘弁してあげるよ。ああ、後、君の髪の毛ちょうだい」
アリッサは後ずさった。サラマンダーが彼女の前に立った。
「く、アリッサには触れさせないぞ」
「うるさいトカゲだ。君を殺しても良いのだが、それをすると、彼女まで一緒に死んでしまう。勘弁してあげるよ」
ワイズマンがアリッサに近付くと、彼女の髪に触れようとした。だがそれよりも速く、彼の背中に炎の槍が突き刺さった。
「あが・・・・」
ワイズマンは突然の痛みと熱さに、一瞬、自分の身に何が起こったのか理解できなかった。しかし彼の本能は無意識に、首を背後に向けさせていた。そこにはイフリートが立っていた。額にあるはずの釘は跡形も無く消えている。
「な・・・・ぜ・・・・?」
「鉄は熱でよく溶ける」
イフリートの炎の槍が、さらにワイズマンの背中に突き刺さった。




