一撃の賭け
アスラは眼からボロボロと血の涙を流していた。そしてしばらくすると、今度は顔が回転して、赤い鬼のような怒り狂った表情になった。口に収まり切らず剝き出しになった牙、そして一点を見つめた鋭い眼、先程までとはまるで様子が違っていた。
「ふふふ、そなたにもようやく分かりかけてきたようだな。アスラがこの表情になった時、攻撃力は普段の2倍以上となる。圧倒的な破壊力を見せてやろう」
アスラとヤシャが攻撃の体勢をとったその時だった。遥か彼方より、耳を劈くような悲鳴が聞こえてきた。それも1つだけではない。時間差で、いくつもの断末魔とも呼べるような声が、四方から聞こえてきたのだった。
「何だ・・・・?」
「そなたと同じようにプリズンタワーに閉じ込められた者達の嘆きの声だ。どうやら勝負が決したらしいな。某は味方の声は分かるので、そなたに教えてやると、今までの声は全て、某の聞き覚えの無い声だ。つまり、そなたの仲間の声ということとなるな」
「そんな・・・・」
ファムは耳を澄ませた。アリッサとソルガの声はまだ聞こえてきていない。少なくとも二人は無事なのだろう。いや、もしかすると、自分が勝負に夢中になっている間に既に倒されているという可能性は考えられないだろうか。彼女の中に不安が過る。
「安心しろ。そなたもそろそろ同じような声を上げねばならぬ時間だ」
アスラとヤシャは地面を蹴って、ファムの元へと跳んだ。
「これを使うわねば勝てない」
ファムは心の中で何かを強く念じると、眼を強く見開いた。
「バルムンク」
ファムの開いている左手に、紫色の刀身をした剣が出現した。右手にはライディーンの青い剣が握られており、二刀流となっている。バルムンクは、実力を遥かに凌ぐ力を得られるが、それは一時的で、使用後に死ぬ可能性が半分もあるのだ。しかしあの悲鳴を聞いた今、これを使わないという選択肢は、彼女の中から消えた。
「それは何だ・・・・」
「行くぞ」
ファムは空中で、両手の剣をクロスさせながら、ヤシャとアスラの元へと向かった。
「甘いぞ。大旋風だ」
アスラの剣先から強大な竜巻が発生した。ファムはそのまま逃げようとせずに、自らも2本の剣を回転させ、強い竜巻を発生させた。
「滅・鎌鼬」
紫色の今までに見たことのないような、強大な力の渦が、ヤシャとアスラの体を捕えた。彼らの放った大旋風は、その力の前に、一瞬で消失し、最早、虚空の彼方にあった。
「久しぶりの強敵、悔い無し」
ヤシャは全身を切り裂かれて、そのまま谷底へと落下した。アスラも顔を破壊され、そのまま足場に激突、顔面が砕け散っていた。
「無理が祟ったか」
ファムはフラフラと千鳥足になり、しばらくすると、そのままうつ伏せに倒れてしまった。二人の決闘は相打ちに終わったのである。




