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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
ロストアイランド編
8/121

石像の恐怖

 マロ一行は森林の中を歩いていた。金貨はマロが2枚、ファムが2枚、そしてアリッサの1枚で、合計5枚。まだまだコンプリートには程遠い。

「やはり、1枚の奴よりも、金貨をたくさん持っている奴の方が得だな」

「ええ、これからはたくさん持ってそうな人と闘うようにしましょう」

 時刻は昼の2時頃、太陽が燦々と照りつけている。三人はしばらく無言で歩き続けたが、ついに我慢の限界に達したのか、アリッサが足を止めた。

「もう無理、歩けない」


 まるで駄々っ子のようにアリッサは、地面に寝転がると、手足をブンブンと乱暴に振り、叫んでいた。

「もう歩けない歩けない歩けない・・・・」

 ファムとマロは耳を手で塞ぎ、駄々っ子のごとく泣き叫ぶアリッサを宥めようとした。この暑さと、疲労で、このキンキン声は、流石に神経に応えた。

「もう少しだ。頑張れ」

 ファムとマロは、必死にアリッサを励ましながら、午後の3時過ぎ、ようやく涼しそうな洞窟を発見した。

「やっと休める」

 三人の顔に安堵の表情が浮かんだ。洞窟内部はひんやりしていて快適だった。ファムは暑苦しく、最早ただの鉄板と化した鎧を脱いだ。

「ああ、熱い。服も脱ぎたい」

 ファムの発言にマロがチラッと、横目で彼女を見た。照れているのか顔が赤い。

「こ、これは・・・・」

(私を女として意識している)


「ねえファム?」

「はい・・・・」

 ファムは思わずビシッと背筋を伸ばした。吊り橋効果というものが本当にあるのだと、彼女は初めて信じた。

「僕も脱ぎたい」

「え?」

 マロはファムの脱ぐという言葉に照れたのではなく、自分も暑くて脱ぎたかっただけだった。

「ぬ、脱いでいいぞ」

 ファムの鼻息が荒くなる。無垢な少年の裸に興奮するなど、どうかしているが、彼のキメ細やかな肌を想像してだけで、彼女の口からは滝のような涎が滴るのだ。


「ああ、つまんない」

 アリッサは岩にもたれ掛かって欠伸をした。それを見かねたファムは立ち上がり、洞窟を出た。

「食べ物を探してくる」

 ファムはそれだけ言い残して、森林の奥へと入って行った。彼女はライディーンを話し相手に召喚し、森の中を探索していた。

「何か食べ物はないかなあ」

「ふん、神獣の私は食事などせぬがな」

「あ、何アレ?」

 ファムは正面に佇んでいる石像を見た。それは背中に翼を付け、額には赤色のルビーを装着、両手両足を地面に付けた、ガーゴイルのような形をしていた。

「何だ・・・・」

「奇妙な置物だ。悪趣味だな」


 ファムとライディーンは石像の横を通り、走って石像から離れた。

「ああ、気持ち悪かった」

「見ろファム、もっと不気味な物があるぞ」

 ライディーンが指した先には、石造りの、草が乱雑に生え、所々苔の付いた遺跡があった。

「何これ?」

「さあな、しかしここは私の得意な地形のようだ。力がみなぎってくる」

 二人は遺跡の内部に入ってみたが、所々崩れており、意味深な見た目とは裏腹に何もなかった。仕方なく外に出ると、出口付近にさっきはなかった不気味な物が置いてあった。

「おい、ファム見ろ」

 ライディーンの指した先には、先程のガーゴイルのような石像が置いてあった。そして赤いルビーを輝かせ、二人をじっと見つめている。


「まさか神獣か?」

「だが、こんな無機質な神獣は知らんな。念のため、破壊しておくか」

 ライディーンは槍を石像に突き刺すと、粉々に砕いた。

「少し悪い気もするが、これで良い」

 二人は遺跡を出ると、マロとアリッサのいる洞窟を目指して歩いた。

「結局食べ物なしか。仕方ないから今日は薬草で食いつなぐとしよう」

 ファムは周りを見回しながら歩いた。その隣をライディーンが歩く。同じような景色が続くので、きちんと自分の場所が分からなければ、道に迷ってしまう。ファムは来た道を真っ直ぐと戻っていたが、途中である違和感に気が付いた。


「おかしい・・・」

「どうした?」

「足跡が一つ多い」

 ファムの顔に緊張の色が見える。ライディーンも何かに気が付いたのか、槍を強く握った。

 ファムは恐る恐る後ろを向いた。しかし何もない。彼女がホッとしたその時だった。地面の人影が、どんどん大きくなっていく。

「ん、ヤバイ上だ」

 ファムの頭上に先程の石像が降ってきた。彼女はその場で前転、草むらの中に飛び込んだ。ライディーンも同じようにして避けた。そして槍を構えて、石像に向かって突きを繰り出した。

「砕け散れ」

 石像に槍先が当たると、何と槍の方が根元から折れてしまった。

「何・・・・?」

 ライディーンは折れた槍を捨て、片方の槍を回転させた。

「鎌鼬」

 槍の先端から放たれる真空の刃で、石像は粉々に砕け散った。そして赤いルビーだけが残ると、中にフワフワと浮いていた。


「アレが本体だ」

 ファムは剣でルビーを切りつけるが、傷一つつかない。寧ろ、彼女の剣先が僅かに欠けたほどだった。

「こいつは本当に岩か?」

「ファムよ。俺は今、とても恐ろしいことを考えている」

 ライディーンが折れた槍を見ながら言った。

「こいつは砕かれるたびに、頑丈になっているのではないか?」

「どういうこと?」

「さっきは軽く突いただけで壊すことができたというのに、今度は槍が折れてしまった。そして鎌鼬を使い、ようやく粉々にすることができた。本体は赤いルビーだが、始めに気付くべきだった。既に石像は再生を始めている」

 ライディーンの言うとおり、石像は既に元に戻っていた。そして再び、二人に向かって来た。

「くそ、鎌鼬」


 真空の刃が石像のルビー目掛けて放たれた。彼の全パワーを凝縮した一撃だったが、石像のルビーはビクともせずに、鎌鼬の軌道をそらした。鎌鼬は全く関係のない枝などを巻き込んで、何処かに消えてしまった。

「ダメだ。鎌鼬すら効かなくなっている」

「どうするのよ?」

「鎌鼬は、私の最強の技だ。もう奴に対抗できる攻撃手段はない」

 石像に突然ヒビが生えた。ガタガタと震えると、勝手に割れた。そして砕けた岩同士が削られ、形を変えて、スリムなマネキン人形の形へと変身した。

「あいつ、何だか姿が変わったぞ」


 呆然と立ち尽くす二人をよそに、石像は口を開いた。

「バロックス・・・・」

「え、今なんて?」

「恐らく、あの神獣の名前だ。見たことも聞いたこともないが、あれは私の知らない神獣だ」

 ライディーンが落胆したように言った。

「バロックス・・・・」

 バロックスは体を捻ると、空中で回転しながらライディーンの脇腹に回し蹴りを繰り出した。

「がは・・・・」

 ライディーンは体をくの時に曲げて、大木に激突した。ファムも同時に脇腹を押さえ蹲った。

「がは、くそ、何て化け物なの・・・・」

 マネキンのようなバロックスはニヤリと口を曲げると、今度はファムの元へ向かってきた。

「は・・・はあ・・・・もう使いたくなかったけど、やるしかない。鎌鼬を上回る攻撃力を持ったものは、これしかない」


 ファムの瞳孔が開いた。瞳が充血し、彼女の周りを紫色の禍々しい光が包み込む。ライディーンも一度だけ体験した。恐るべき禁断の力、使えば50%の確率で命を落とすという、妖剣バルムンクの剣先が、彼女の心臓から顔を出した。彼女はそれを引き抜く。そして柄を握りしめた。

「うおおおおおむ」

 ファムは獣のような雄たけびを上げると、瞬間移動した。いや正式には高速移動と言うべきだろう。あまりの速さに、眼で追うことは絶対に不可能だった。彼女はバロックスの蹴りを首に受けた。

 ゴキッという首の折れる音がした。しかしファムは笑っていた。口をへの字に曲げて、唇から血を垂らしながら、赤い目で笑っていた。

 ファムは素手でバロックスの両手を潰すと、バランスを崩し、倒れたバロックスに馬乗りになり、ルビーに真っ直ぐ、バルムンクの剣を突き刺した。

「バロオオオクス」

 バロックスは粉々になり、今度こそ風に巻かれて、完全に消滅した。


 

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