決死の空中戦
「何者だ」
ファムは遠くから近付いて来る人影に向かって叫んだ。そして声が山彦となって返って来た。
「某の名はヤシャと申す。そなたは?」
「私はファムだ。早く姿を見せたらどうだ」
「そうしたいのだが、霧が濃くてな。それよりも戦場はここで良かったのか?」
「私の意思とは無関係にここにいたんだ」
「なるほど。主様がここを選んだというわけだな。良いだろう。さっさと足場に乗るが良い。始めるぞ」
ファムは足場に近付いた。彼女は今、崖にいる。ここから少し跳べば、円柱状の足場に乗ることができる。
「く、良いだろう」
ファムは勇気を振り絞ってジャンプした。そして足場に乗り移ると、思わず下に視線が移ってしまった。白い霧がかかっていて様子は分からないが、やはりかなりの高さであることは確実らしい。見ているだけで眩暈がしてきた。
「ここでは、限られた足場に跳び移りながら戦闘を行う。せいぜい、落ちないように気を付けるのだな。中々に白熱した空中戦が楽しめるやも知れぬぞ」
「そんなものどうでも良い」
ヤシャはようやくファムの視界に映る位置にまで姿を現した。白い髪を腰まで垂らした、艶っぽい雰囲気の男で、年齢的にファムと同じか、それ以上に見える。紫の着物に身を包み、腰にはカタナを帯刀していた。
「お前、武人だったのか」
「そなたも同じか」
二人は向かい合った。互いの距離は2メートルほど離れており、間に足場がいくつか並んでいた。
「出せ、そなたの神獣を」
「もう出ている」
ファムは来ている銀白色の鎧を見せた。それはライディーンの魂でもあるのだ。
「ほう、ならば某も獲物を出すとしよう」
ヤシャの背後に、6本の腕と3つの顔を持った奇妙な神獣が姿を現した。それは複数の表情を持つ、恐るべき暗黒神獣アスラであった。それぞれの手にはカタナが握られている。
「光の神獣とは違う禍々しさを感じるであろう」
「これが暗黒神獣・・・・」
ファムは足場に乗り移った。同時にヤシャも前方にある足場へと乗り移っていた。そして二人同時に再び跳ぶと、空中でぶつかり合った。
「そらっ」
最初に仕掛けたのはファムだった。彼女はヤシャの首を狙って、剣を右から左へと薙ぎ払った。
「アスラ」
ヤシャの前にアスラが壁となり、攻撃をカタナで受け止めた。金属同士のぶつかり合う音が周囲に響く。アスラの別の腕から放たれた突きが、ファムの脇腹を掠めた。
「うあ・・・・」
ファムは空中でバランスを崩すと、そのまま真っ逆さまに落下して行った。そして足場の間を抜けて行くと、途中で側面を蹴って、三角跳びの要領で、2種類の足場の側面を交互に蹴りながら上り、足場の上に復帰した。
「はあ、危なかった」
「命拾いしたが、これで理解しただろう。そなたの勝てぬ理由が。そう、圧倒的な手数の差がな・・・・」
ヤシャは再び跳び上がると、アスラを錐揉み状にカタナを握ったまま回転し、ファムの元へと突っ込ませた。彼女は咄嗟に別の足場に跳び移ることで、その攻撃を何とか避けた。
「この足場ではまともに闘えない」
絶望感に、ファムの視界が真っ暗になった。




