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プリズンタワー

 黒い球体はシャボン玉のように空中をフワフワと移動していた。球体は複数あって、それぞれに一人ずつ閉じ込められていた。そしてファムやソルガにとってはまだ記憶に新しい、転生の塔で有名な砂漠地帯が見えてきた。そしてそのまま、転生の塔に向かって進んで行った。

 驚くべきことに、二人の知っている転生の塔はかつての形を失っていた。具体的には、外壁から全てが黒一色に染まっており、窓も扉も無くなっていたのだ。そして黒い球体は磁石のように、その塔の中へと吸い込まれ、壁の中を透過していった、


 それぞれの黒い球体が、別の場所から塔の中へと入って行き、彼らは完全に分断されてしまったのだ。球体自体は、塔の中に入ると、そのまま正しくシャボン玉のように消えてしまったのだが、問題は、周りに声も届かないような、分厚い黒い壁に囲まれた部屋に閉じ込められるというのは、相当の苦痛を伴うという一点に尽きる。

「くそ、ここは一体・・・・」

 球体の支配から解放されたファムは、四方を黒い壁に囲まれた部屋の中心にいた。近くの壁を叩いても、ゴムを触っているようなブヨブヨとした気色悪い感触が伝わってくるのみで、脱出に使えそうな物も一切無かった。


 戸惑いを隠せないのはファムだけではない。アリッサもソルガも、他の人間達も奇妙な部屋に閉じ込められ、一様に恐怖していた。そしてそんな人々を嘲笑うかのように、部屋の天井の方から、先程の金髪の男の声が聞こえてきたのだった。

「ようこそ皆さん。私はゲブと申します。ここはかつて転生の塔と呼ばれていた場所ですが、実は表の世界と裏の世界を繋ぐ役目を果たしている建物なのです。今やここはプリズンタワーという場所に変わりました。ここでは、あなた方に命を懸けた闘いをしていただきます」


 ゲブの声に、皆が耳を傾けていた。この中にはとてもじゃないが戦闘向きではない人だってたくさんいるのだ。

「今から、この部屋に、闇の住人達が来ます。その者達に勝てば、私の元へと来る権利を与えましょう。だけど負けた場合は、もちろん死ぬこととなります。まあ、ちょっとした遊びですね。んふふふふ」

 ファムは壁を手で殴り付けた。特に深い意味はない。しかしゲブの、人の命を遊びの材料にしか考えていないような態度には、腸煮えくり返るほどの怒りを覚える。

「我々は元は罪人だった。重い罪を犯した人間は闇の世界へと送られ、永遠に死ぬまで、そこで過ごすこととなる。しかし、今回でそれも終わりです。何故ならば、全てが闇になるのですからね」

 ゲブの声はそこで途切れた。部屋の中に異様な雰囲気を感じたファムは辺りを見回した。すると部屋の中が突然、広大な山地へと切り替わった。目の前には、円柱状の足場が無数に置いてあり、下には白い霧がかかっており、どうなっているのか分からない。恐らくかなりの高さなのだろう。足元の石を落としてみても、地面に到達した音は聞こえてこなかった。


「貴殿の相手は私だ・・・・」

 ファムの正面、正式には円柱状の狭い足場の先から、白い霧ではっきりと見えない人影が、こちらに向かって近づいて来るのが分かった。

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