二つの王
悪魔の巣をオレンジ色の光が包み込んだ。同時に紅蓮の炎柱がグーラとシヴァを分断するように巻き上がり、シヴァは防御する暇すらなく、ただされるがまま、炎の勢いに押され、グーラの前から姿を消した。彼女とて余裕はない。同じように炎に包まれると、そのまま身を焦がしながら、体を庇うように、両手で自分を抱きしめた。
「何だ?」
ファム達が異変に気付いたのは、それから数秒後のことだった。前からも後ろからも炎の波が押し寄せ、彼女らを焼き尽くそうと迫って来た。
「危な・・・・」
やがて三人も炎に包まれて姿を消した。あれほどまでに強大な存在に見えた悪魔の巣も、一瞬にしてただの燃えカスとなってしまった。それを遠くから見ていたドラグーンは、その炎の中から、赤黒い色をした、自分と似た姿の竜が一体、そこから飛び立って行くのを発見した。
竜の正体はドラドであった。彼は普段は人型の姿であるが、それは過ごしやすいように力を押さえた状態であって、本来はドラグーンと同じ竜族なのである。遥か昔に絶滅したドラゴンが二体並びというのは、中々見れるものではない。傍らのフェンリルも驚いていた。
「いよいよ出番が来たようだ」
ドラグーンはそれだけ告げると、フェンリルの言葉を待たずに、既に黒い翼を傍目かせ、ドラドの元へと向かっていた。
一方、空の上で行われようとしている闘いなど露知らず、ファムは体に乗っている礫を退けて立ち上がった。危うく生き埋めになるところであったので、思わずホッと胸をなでおろしていた。しばらくすると、同じような格好でアリッサとソルガが出てきた。あの時、サラマンダーで、咄嗟に地面を焼いて作った窪みに、三人が隠れなければ炎の直撃をまともに受けていただろう。
「アリッサ、見事な思い付きだったぞ」
「ああ、そうね・・・・」
アリッサは煤だらけになっていた。その滑稽な姿にいつもなら笑うところだが、正面から向かって来る二人の人物のおかげで、談笑しているどころではなくなっていた。
「驚いたぞ」
二人のうち、赤いローブに身を包んでいる男、イフリートが口を開いた。隣にいるシヴァはニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべている。先程の炎は、二人を倒すほどの威力は無かったらしい。対してダメージを負っている様子はなかった。
「来るぞ・・・・」
ファムは構えた。同時にシヴァが瞳孔を開き、彼女の元に真っ直ぐ向かって来た。そしてイフリートはアリッサの元へと走っていた。




