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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
ロストアイランド編
7/121

深海からの襲撃

マロ達は、ついにロストアイランドに上陸した。他の参加者も続々と船を降りる。

「さて、まずは寝床を確保しないとな」

「水はウンディーネで作れるし、火は私のサラマンダーで起こせるわ。余裕ね」

三人はひとまず海岸を散策してみることにした。金貨の奪い合いは後回しだ。

「見て、貝殻だ」

マロは砂の上で小さく光る貝の破片を見つけた。そしてそれに手を伸ばした。


「見てみて、ファム、アリッサ」

マロはあ嬉しそうに貝殻の破片を二人に見せた。ファムはそれを微笑ましく観察していたが、突然、マロの背後、つまり海の中から、黒い影が飛び出してきたのを見て、顔をひきつらせた。

「マロ、後ろ危ない」

先に叫んだのはアリッサだった。マロは背後を振り向いた。緑色の鱗に青い背鰭をした、人型の魚らしき生き物が、立っていた。そして隣には、銛を握った上半身裸の男が立っていた。


「余計なこと言うなよ姉ちゃん、もう少しだったのに」

裸の男は頭に付いたワカメを手で振り払いながら、金貨をマロの前に出した。

「さあ、金貨を賭けて闘おうぜ。この大会、

なるべく闘いを避ける、ことが極意のように考えがちだが、実際には、闘いを多く経験した方が強くなる。分かってる奴はすぐ闘うぜ」


「確かに」

ファムは腕を組んで納得した。マロも同じく頷いた。

「良いよ闘おう」

「決まりだな」

「ちょっと待った」

アリッサが手をあげて、二人の間に割り込むように、男をじっと見つめた。

「どこで闘うつもり?」

「それは、この海岸で…」

「はん・・・・」

 アリッサは鼻で笑った。

「マロ、この勝負は受ける必要ないわ。こいつはズルしようとしているもの」

「ズル?」

 ファムとマロは、思わずアリッサの顔を見た。男は悔しそうに歯を食いしばった。


「地形効果っていう言葉があってね。神獣はそれぞれ自分が得意とする地形や気候があるのよ。例えば私のサラマンダーは、火山を得意としている。だから火山で戦うときは、通常の何倍もの力が出せるわ。代わりに苦手な海では、普段の半分の力も出せなくなってしまう。こいつの神獣は明らかに海が得意そうじゃない」

 アリッサの言葉にファムも頷いている。だがマロは顔を静かに、左右に振った。

「ありがとう。だけど僕はここで闘うよ。ウンディーネだって海は得意なはずさ」

 マロは男に近付いた。そして手を差し出した。

「僕はマロ」

 マロの行為に男も乗る。同じく手を出し、マロと熱い握手を交わした。

「俺はハンクだ。正々堂々闘おうぜ」


 二人は互いに反対方向に向かって走った。そして互いの神獣を召喚した。

「ウンディーネ」

「ポセイドン」

 ハンクの神獣、ポセイドンは砂を蹴って跳躍した。その姿は魚人と呼ぶにふさわしい。

「マロ行きますよ」

「うん」

 ウンディーネはマロの前に、彼を護るように立った。そして両手を空中のポセイドンに向けた。

「ダイヤモンドミスト」

 霧と共に無数の氷柱が、ポセイドン目掛けて発射された。

「避ける必要はないぞポセイドン」

 ハンクは不敵に笑った。ポセイドンは彼の指示通り、氷柱を一本も避けようとせず、そのまま真っ直ぐと、マロとウンディーネの元に落下した。


 氷柱がポセイドンの鱗に弾かれて砕け散っていく。そして砂浜まで到達すると、マロとウンディーネを小脇に抱え、押さえつけた。

「大成功だぜ。よしそのまま海の中に引きこんじまえ」

 ハンクが叫ぶと、ポセイドンは二人を抱えたまま、跳躍し、海に飛び込んだ。

「まずい、マロおおおおお」

 ファムが剣を抜いて、海の方に走り出しそうになるのをアリッサが止めた。

「ダメよ。マロが反則になっちゃうわ」

「それどころじゃないだろう。マロが死んでしまうぞ」

 ファムは赤く美しい長髪を振り乱しながら叫んだ。それをアリッサがサラマンダーを出して止めた。

「動いたら焼くわよ」

「やっぱり裏切る気か・・・・」

「何とでも言えば良い。でも反則をしたら、マロが一番悲しむのよ」

 ここで失格になれば、マロはクロウと闘うことはできず、彼から自分の両親のことを聞くことができなくなってしまう。

「くそ・・・・」

 ファムは悔しげに剣を砂浜に突き刺した。


 海中では、マロとウンディーネが、ポセイドンとハンクの攻撃から逃れようとしていた。

「マロ、とにかく今は逃げましょう」

「うん・・・・」

 マロは静かに頷いた。神獣と神獣使いは心が通い合っているので、水中でも言葉を用いずに会話ができる。

「ぐへへへへ」

 ポセイドンが笑った。そして尾鰭をヒラヒラと動かしながら、水中で尻尾を思い切り、右に向かって振った。巨大な渦巻きがそこから発生すると、マロとウンディーネ目掛けて放たれた。

「ダイヤモンドサーベル」

 ウンディーネの指先から細い氷の柱が伸びた。そして近くの岩盤に突き刺さり、その反動を利用して、一気に海面から外に飛び出した。

「ウンディーネ、あそこに小さな岩があるよ」

「ええ、そこに着地しましょう」

 マロとウンディーネは岩の上に立つと、周囲を見回した。辺りは青一色の海で、他に陸地は見当たらない。今二人のいる岩も、立っているのがやっとの大きさだった。


 海面から巨大な間欠泉が噴出した。一番上にはハンクとポセイドンが乗っている。

「行くぞポセイドン」

 ハンクはポセイドンの背に乗った。

「スクリュークロー」

 ポセイドンの太く曲がった爪が、高速で回転を始めた。そしてそのままウンディーネとマロに向かって急降下してきた。

「ダイヤモンドサーベル」

 ウンディーネの指先から再び氷の柱が、ポセイドン目掛けて伸びていった。

「ぐへへへへ」

 ポセイドンのスクリュークローが、氷の柱を削っていく。そして尾鰭を使って、氷の柱を側面から真っ二つに切断した。

「そんな押し負けるなんて」

 ウンディーネはよほどショックだったのか、思わず項垂れてしまった。それを見てハンクは笑った。


「これが地形効果だ。確かにウンディーネも海は得意だろうが、いくら強くなってもせいぜい5%ほどだろう。だが俺のポセイドンは海の中では、同じ5%でも、35%のパワーアップだ」

 ポセイドンは海の中に飛び込むと、水面に顔だけ出して、マロとウンディーネの命綱とも呼べる、岩の周りをグルグルと、円を描くように泳ぎ始めた。

「何をする気なんだ?」

「マロ、気を付けてください」

 ポセイドンは口を膨らませると、水鉄砲を放った。それは正しく弾丸のように激しい勢いで、ウンディーネの横腹を掠めた。

「ぐ・・・・」

 マロの横腹から血が流れた。

「大丈夫ですかマロ?」

「ヘ、平気さ」

 ウンディーネには大したダメージでなくとも、人間のマロには、かなりの深手となった。もしまともに受ければ、即死は免れないだろう。

「もう一発喰らえ」

 ポセイドンの口から再び水鉄砲が放たれる。


「危ない」

 ウンディーネはマロを抱きかかえて空中に跳んだ。彼らの乗っていた岩が、水鉄砲に当たり砕け散った。

「ああ、私達の降りる場所が・・・・」

「ウンディーネ、良いこと思いついた。あそこの海に向かって、思いっきりダイヤモンドミストを放って」

「え?」

 ウンディーネは不思議そうに首を傾げた。

「僕が間違えたことあるかい?」

「ふふ、そうですね。分かりました。では魔法を唱えて下さい」

「分かった。ダイヤモンドミスト」

 ウンディーネは落下しながら海に向かって氷柱を連続で何発も放った。

「何だ、足場でも作る気か?」

 ハンクがポセイドンの背に乗りながら言った。それに対してマロは笑いかける。

「あはは、それだけじゃないよ」


 氷柱が海の上に積まれて行き、いつの間にか足場となっていた。ウンディーネとマロは、氷柱で作った氷の床に着地すると、ポセイドンの方を向いた。

「さあ、来なよ」

「くそ、良いだろう。何が変わったのか見せてみろ。ポセイドン、もう一回スクシュークローをいくぞ」

 ポセイドンは爪を回転させながら、水面から飛び出し、ウンディーネに向かって爪を向けた。

「ダイヤモンドサーベル」

 先程と同じように指先から氷の柱を伸ばした。

「またそれかよ」

 ポセイドンのスクリュークローが、ウンディーネのダイヤモンドサーベルを砕いた。はずだった。

「何ぃ?」

 ダイヤモンドサーベルは、ポセイドンの腕を貫通し、胸に突き刺さり、さらにそのまま串刺した。


「がははああああ」

 ハンクはポセイドンの背中から振り下ろされて、海に落ちた。ポセイドンも刺さった氷の柱に刺さったまま苦しんでいた。そして氷の柱を別の爪で砕き、海に落ちた。

「か、勝てました。何故ですマロ?」

「簡単だよウンディーネ。地形効果さ、君は海も得意だけど、氷山が一番得意な地形なんだ。海では彼の言った通り、5%ほどしか能力は上がらなかったけど、氷山の上なら同じ30%アップで、海と合わせて35%。ポセイドンと同じぐらいのパワーアップだね。元々僕らの方が強かったから、互角なら押し勝てるって信じてたよ」


 その後、マロによって沖まで連れて来られたハンクは、自業自得とはいえ、何とか一命を取り留めた。

「げほ、俺の負けだぜ。ほら金貨だ」

 ハンクはマロに金貨を渡した。金貨にはイルカの絵が掘られていた。

「にしても、あんな卑怯なやり方でも勝てないなんてね」

 アリッサが小馬鹿にしたように笑った。しかしハンクはそれを嫌味とは取らずに、同じように歯を見せて、大笑いした。

「あははは、そうだなあ、こんな正々堂々負けたら清々しいぜ。俺は元々、父のシャーロックみたいになりたくて、参加したんだが、少し荷が重かったようだ」

 ハンクは浜辺で打ち上げられているポセイドンの尻尾を優しく撫でた。ポセイドンが嬉しそうにピクッと動いた。

「ちょっと待て、シャーロックって、あの伝説の海賊のシャーロックか?」

 ファムはハンクの父を知っているのか、額に汗を垂らしていた。

「ああ、そうだけど」

「う、嘘だろう。あの海神リヴァイアを操るという・・・・」

「そうそう」

 あまりの軽い返しに、すっかりファムは肝を冷やしてしまった。何も知らないアリッサとマロは、砂浜でさっきの貝殻の破片を探していた。

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