巣の中の死闘
グーラが巣の中に戻ると、そこにはシヴァがニヤニヤと笑いながら立っていた。そして彼女を見ると、さらに可笑しくなったのか、今にも吹き出しそうにしていた。
「何が可笑しいのよ」
「えへへ、だって、グーラちゃん。汗だくで汚いんだもん。えんがちょ・・・・」
グーラはもう相手にしなかった。そして八つ当たり気味に、壁の枝を一本を指で折った。
「見張りは代わってもらうわ。あの虫どもが、ドラド様の前に辿り着く前に始末する。でないと、私が始末されてしまう」
「えっへへ、良いよ。門番代わってあげる。まだドルド様は気付いてないみたいだよ。巣に入ったネズミ達に」
「それはひとまず良かったわ」
「でも、私は少し残念だな」
「どうして?」
「だって、えへへ、つまんないんだもん」
シヴァは小さな体でスキップしながら、巣の出口に向かった。グーラは苛立ちを抑えながら、彼女とは反対の方向に向かって歩き出した。
「くそ、あいつら何処まで行ったのよ」
グーラが血眼になって巣の中を探していた頃、何とか巣に侵入できた騎士達は、枝で囲まれた洞窟の中を進んでいた。途中で食糧庫と、木のプレートに書かれた文字を見て、その方向に進むと、彼らを凍り付かせるほどの、酸鼻な光景が広がっていた。
「うああ・・・・」
何とそこは広い空洞になっていて。左右の壁や天井には、男も女も、年齢も関係なく、人間達が全裸で、体には樹液のような蜜を絡ませて、壁にくっ付いていた。恐らく樹液は接着に使用されているのだろう。その姿は例えるなら、蜘蛛の巣に引っかかった蝶だ。身動きできずに、ただ手足を必死に動かしている。
「食糧にしているのか。人間を・・・・」
騎士達はゾッとした。ここまでおぞましく、不愉快なものを見たのは戦場でも無かった。
「そいつらは、オラの村の連中だど」
突然背後から声を掛けられて、騎士達は剣を構えて振り返った。そこには頬をこけさせて、この数時間の間に一気に老け込んだジャックが立っていた。
「君は・・・・?」
「オラは、さっき氷漬けにされて、巣の中に連れ込まれた人間だど。仲間を巣の中で失っちまったが、オラは生きてるど」
ジャックが話をしていると、今度は食糧庫の奥から、黑いローブを纏った骸骨の顔を持った。死神のような神獣が姿を現した。
「いけませんねえ。侵入者とは」
「ここはオラに任せるど」
ジャックは騎士達の前に出ると、ゴーレムを召喚した。そして今のうちに逃げるように促すと、自分は正面にいる神獣、その名もリッチに闘いを挑んだ。
「悪いな少年よ」
騎士達は食糧庫を抜けて走った。ここの異常性を垣間見た瞬間だった。しかし彼らを逃がしてくれるほど、敵の本拠地もそう易いものではない。
「おい、見ろよ」
彼らの眼前には、鎧を纏った騎士らしき男が、端正な顔を歪ませて、地面の上を這いずっていた。
「ゾンビか?」
「こいつは、見たことがあります。確かカイザーとかいう騎士です」
7人の騎士達の前に、先程の門番、グーラがようやく追いついていた。彼女は彼らの背後に立つと、丁度、カイザーと挟み撃ちの形になっていた。
「まずいぞ、後ろだ」
気付いた時には手遅れだった。1人の騎士を除いて、他の騎士達は首を切断され、同じ格好で全員倒れていた。
「見つけたわよ・・・・」
「くそ、万事休すか」
騎士はそう言うと突然、鎧を脱ぎ始めた。その様子をグーラは不思議そうに眺めていた。
「何してるのよ」
「へへ、これを見ろ」
騎士が鎧を脱ぐと、鎖帷子になっていた。騎士の下に着ける装備としてはポピュラーな物だったが、眼を引くのはそれではない。何と、彼の体には黒い水晶のような塊が、いくつも鎖帷子に張り付けられていたのだ。
「何よそれ・・・・」
「知らないだろうな。これは古代、ルミネスという天才が開発した兵器だ。黒炎玉というらしい。魔力が込められたアイテムだ」
騎士は震えていた。何度も覚悟していたこの時が、いざ訪れると、流石に足が竦み、躊躇してしまう。だが、彼は迷っているわけではなかった。それを起動するのに、ちょっとした勇気が要るだけだった。




