白銀隊の覚悟
「うおおおおお」
眼を血走らせて、剣を抜き、白銀隊が悪魔の巣を目指して突撃した。
今までと違うところは、そこに小細工が一切無いことだろう。他の連中は左右に別れたり、側面から攻撃をしようとするなど、思考を巡らせていたが、彼らにそれは無い。ただひたすら走り、目的地を目指すのだ。作業が単純化されるとき、人間は真の力を発揮できる。
「ようやく来たわね」
グーラは悪魔の巣から出ると、大地を蹴って、眼にもとまらぬ速さで、白銀隊の群れに向かって駆けて行った。
「来たぞおおおお」
先陣を突っ切っている指揮官の男が、グーラと正面でぶつかった。彼は剣でグーラの首を斬り落そうとしていたが、グーラはそれよりも速く、右手の強靭な爪で、鎧ごと、彼の体を真っ二つに切断した。それを見て、何人かの兵士は怯え、動きを止めたが、大部分の兵士達はそんなことは意に反さず走り続けた。
「てりゃああああ」
グーラは女性らしからぬ野蛮な咆哮とともに、爪で立ち止まっている兵士達の首を掻っ切って回った。皮肉なことに、無我夢中で走っている方が安全だったのである。ここでは、止まることは死を意味していた。
「ああ、待て」
グーラが後ろを振り返ると、既に何人かの兵士達が入り口に近付いていた。シヴァが先程作った氷塊の壁も既に溶けている。
「逃がすか」
グーラが走って巣に戻ろうとするのを、一人の兵士が止めた。何と彼は、この状況を見越して敢えて巣に向かわずにしていたのだった。
「悪いが通さないぜ」
「たかが、人間の分際で、私の邪魔をするなあああああ」
グーラ-の爪が、まるで足払いでもするかのように、兵士の足を右から左へとに薙ぎ払った。それを、ジャンプして避けたが、爪の方が速かったらしく、彼の両足は虚空を舞って、地面の上に転がった。
「がは・・・・」
両足を失くして、地面の上に転がる兵士だったが、素早く剣を地面に突き刺すと、射抜くような眼で、グーラを睨み付けた。
「そんな眼で見られたら、興奮しちゃう・・・・」
「感謝するぞ。足を吹っ飛ばしてくれたことを。これで臆病風に吹かれて逃げられなくなった。死ぬ覚悟ができたぜ・・・・」
兵士は剣をバネのようにして飛び上がると、そのまま剣をグーラに向かって振り下ろした。
「当たるわけないでしょ」
グーラは右に逸れて避けると、兵士が地面に着く前に、彼の頭を片手で掴んで、地面に叩きつけた。
「・・・・」
兵士の頭蓋骨が砕け、そのまま動かなくなった。ふと、巣の方に視線を向けると、既に兵士の何人かの姿は見受けられなかった。彼女の顔が見る見るうちに血の気を失っていく。
「まずい、逃がしてしまった。こ、殺されるわ。ドラド様に殺されてしまう・・・・」
グーラは急に力を失ったように、地面に膝を突いていた。
「畜生おおおおおお」
グーラは突然立ち上がると、拳で地面を思い切り殴り付けた。
赤土の大地に大きな亀裂が走っていた。それでもグーラの怒りは収まらない。彼女は全速力で走り、巣の中に戻って行った。




