巣の内部へ
グーラは血を吐きながら、傷だらけの顔を押さえていた。そして荒い息遣いでジャックを睨み付けていた。
「よくも、やりやがったわね。少しムカついたわ」
グーラは軽く手足をブラブラと動かすと、腰を深く落として、ゴーレムに向かって走った。
「死ねやがれよおおお」
グーラの蹴りがゴーレムに炸裂しようとしていたその時、突然、彼女の足の動きが止まった。同時に、彼女の背後に小さな青い髪をした少女が姿を現した。
「どういうつもりよシヴァ?」
グーラは背後にいる少女の名前を言うと、不機嫌そうに足を引いた。シヴァと呼ばれた青い髪の少女は、人間単位で表すならば、まだ10代にも満たないであろう。その容姿を何かに例えるとすれば、雪ん子という言葉が似合っていた。
「イフリート様が、グーラちゃんを呼び戻して来いって」
「はあ、イフリートね。何であいつが仕切るのよ。ドラド様じゃあるまいし」
「役目を忘れるな。門番が出て行ってどうするって言ってたよ」
「仕方ないわね。とりあえずこの男を連れて帰るわ」
グーラはカイザーを引き擦りながら、悪魔の巣に戻って行った。ジャックもクルトも動けなかった。するとシヴァがクルッと可愛らしく、二人の方を振り返った。
「えへへ、グーラちゃんてば、おっちょこちょいだな。二人のこと忘れちゃってるよ」
シヴァはニコッと微笑むと、白目を剝き、口から吹雪を吐き出した。そして二人の体にそれを吹き付けると、あっという間に、二人の体は氷のオブジェと化した。
「待て」
氷漬けになったクルトとジャックを巣に運ぼうとするシヴァの前に、ファムが立ち塞がった。彼女の隣にはソルガとアリッサもいる。苦戦しているカイザー達の姿を見て、飛び出してきたようだった。しかし間に合わず、既にカイザーは巣の中に、残りの二人も氷漬けにされていた。
「止めといた方が良いよ。死んじゃうよ?」
シヴァは天真爛漫な笑みを浮かべていたが、それが却って恐ろしかった。
「死ぬのは貴様だ」
ファムが剣を引き抜くと、シヴァの両目が白目を剝いた。気付くと、彼女の頭の上に巨大な氷塊ができていた。そして壁を造るように、ファムとシヴァの間にそれが落ちた。
「あう・・・・」
ファムは背後に跳んで、直撃は避けたが、地面に激突した拍子に砕けた氷塊の、一部が肩や脇腹の肉を削った。そして受け身すら取れずに、地面に強く背中を打った。
「バイバーイ」
シヴァはファム達に手を振った。しかし氷塊のバリケードが、彼女とファム達を分断しているので、その姿を見た者はいなかった。ソルガは素早くファムに駆け寄ると、彼女の傷が予想以上に深いことに驚愕していた。
「こんな、何て魔力だ・・・・」
ソルガは敵への警戒を強めるとともに、恐らく今夜中に、悪魔の巣を奇襲する作戦はもう成り立たないだろうと確信した。そしてアリッサとともに、テントへと撤退した。




