決戦への序曲
大権鐘の音は、古代神獣達の耳にも届いていた。そしてそれは古代神獣の王の耳にも当然届いていた。
「ぬうううう」
土気色の体をした人型の古代神獣王は、ゴロリと木の枝で造ったベッドの上で寝返りを打っていた。
「うるさい鐘の音だ」
そこは巨大な木の枝がいくつも集まってできた円状の巨大な建物と言うよりも、寧ろ巣に近い物だった。彼はその最奥で眠っていたのだが、たった今目を覚ますと、体を起こしてふらりと立ち上がった。
「ドラド様・・・・」
ドラドと呼ばれた神獣王の前に、人型のカマキリのような姿をした神獣が現れた。そして地に膝を突いた。
「ふん、是非にも及ばんわ。奴らは神獣を集めて、我々に全面戦争を仕掛けてくるつもりらしいが、既に私の元にも、神獣達は集まっている。来なかったのもいるが、恐らくそれは人間どもに屈したか、現代の神獣に倒された、いずれも腑抜けであろう。そんな者は、こちらから願い下げだ」
ドラドは巣の中を歩くと、巨大な空洞に出た。そこには左右の壁が大木でできていて、樹液がまるで滝のように流れ出ていた。しかし驚くべきはそこだけではない。何と、その樹液は接着の役目も果たしているようで、衣服を纏っていない全裸の、老若男女が大木に張り付けにされていた。いずれも闘う術を持たない無害の人間達であった。彼ら、彼女らは、泣き叫び、中には呪詛のような言葉を吐く者もいたが、共通していたことは、これから来るであろう死の恐怖に怯えているということだった。
「食糧庫には十分な蓄えがあるな。これならば外に出て、新たな獲物を捕まえる必要はあるまい。神獣王がどう出るかは察しが付く。なので我々は籠城作戦で行こうではないか」
ドラドが笑うと、それに呼応するかのように、彼の背後から強い魔力を持った4体の人型の神獣が姿を見せた。
「来たか・・・・」
「遅くなりました」
4人の神獣は地に膝を突いて、ドラドの前に忠誠を示していた。
「火のイフリート、腐食のグーラ、氷のシヴァ、闇のリッチ。お前達がいれば、私が負ける理由など何処にもあるまい?」
「ええ・・・・必ずや期待に沿えることでしょう」
4人の風貌はそれぞれが大きく異なっていた。イフリートは、全身赤のローブに包まれており、素顔が分からない。そしてグーラは、茶色の布を羽織っただけの簡素な姿をした半裸の女性で、へそから下の部分が腐っていて、枯れ枝のような色をしていた。シヴァは白いローブを羽織った青い髪の少女で、人間で例えるなら、10代にも満たないであろう見た目をしていた。そしてリッチは、骸骨に黒いローブと、一般的に人間がイメージする、死神にそっくりな外見で、顔は肉のない骸骨そのものだった。
「さあ来るがいいドラグーン」
ドラドは不敵な笑みを浮かべていた。




