ガロの罪
ガロは若い頃にある過ちを犯した。それは世界のタブーであり、背徳という言葉で説明ができた。簡単な話、彼は神獣と恋をしたのだ。その神獣はルカと言って、金色の神を腰まで垂らし、肌は白く、瞳は水晶のように青く澄んでいた。人にはない美しさと、彼女の献身的な姿に、ガロが夢中にならないはずがなかった。そしてルカ自身も、神獣にはない。彼の人間臭さと、大雑把な優しさに、己が命を課してでも、彼と一生を添い遂げたいと思っていた。
ガロは丁度、バレンタイン、シャーロック、クロウとともにパーティーを組んで、世界中を駆け回っていた。ルカと会えるのは、せいぜい1年に1回あるかないかであった。だが今にして思えば、それが良かったのかも知れない。何故ならば、その後、二人は互いを求め合うあまり交わってしまったのだから。そしてそれが、決して許されない行為であることは、互いに無意識のうちに、生命で知っていたはずだった。
駆け落ちという言葉が合っているのかも知れない。二人は世界から逃げるようにして、姿を晦ませた。当時、ガロと契約していたドラグーンの怒りは、形容し難いほどに凄まじく。彼の抹殺を決断したのだった。やがて二人の行為は、全世界の注目の的となり、二人は日夜、一刻として安息する時間すら与えてもらえず、逃避の日々を宿命付けられることになったのだ。ルカの妊娠が発覚したのは、それから1年後のことだった。
ルカは名もなき小さな宿屋で、子供を一人産むと、そのまま力尽きてしまった。彼女の亡骸は花畑の中心に埋められ、ガロによって簡素な墓標が造られた。そして彼は気付いてしまった。ルカの死は偶然でないことに。どうして神獣と人間との恋愛がタブーとされているのか。その理由は一つだ。人の子を孕んだ神獣は、確実に命を落とすこととなる。それこそがタブーの正体だった。
ガロは自身の命が狙われていることを知っているので、その息子にマロという名前を付けると、そのまま、マロと書かれたネームプレートともに、彼を名も知れぬ小さな山村に置いてそのまま姿を消した。息子を巻き込みたくないという彼の想いの表れだった。
「これで満足かい?」
ガロは話し終えると、不機嫌そうに足元の小石を蹴った。ドラグーンは静かに頷くと、クワッと瞳を見開いた。
「その罪を胸に刻んで闘え。今回の闘い、下手をすれば私は死ぬ。そしてその時にはお前にも死んでもらう」
「どういうことだ?」
「神獣王と名乗っておきながら、契約者にタブーを犯させてしまった私なりのケジメだ」
ドラグーンは力強く言うと、今度はガロの隣にいるフェンリルの顔をじっと見つめた。
「フェンリルよ。大権鐘を鳴らして来い」
ドラグーンの言った大権鐘とは、この神殿の屋根に供えてある、黄金色に光り輝く巨大な鐘のことである。それは全ての神獣の耳に響き渡り、決して人には聞こえないという。この鐘が鳴る時、彼に従う全ての神獣達は、彼の指揮の元に集結する。
「分かりました。神獣王」
フェンリルは神殿の奥まで走って行くと、窓から壁を登り、黄金色の大権鐘に体当たりをした。
大権鐘は大きく左右に揺れた。そして人間には決して聞こえない、超音波のような音を世界中の神獣の耳に響かせた。そして神獣達の瞳の色が変わった。何かを決したように立ち上がると、全員が全員とも、ドラグーンの元へと走り始めた。その中にはゴーレム、サラマンダー、ミストなども含まれていた。




