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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
ロストアイランド編
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騎士ライディーン

 ロストアイランド、それは神獣使い同士が血で血を洗うサバイバルに身を投じる、世界的なイベントである。ルールは簡単、挑戦者は初めに金貨を一つ持っている。そして他の挑戦者と金貨を賭けて闘う。勝てば金貨がもらえ、負ければ島から追い出される。至ってシンプルだ。金貨は全部で100種類あり、掘られている絵が全て違うものとなっている。挑戦者は、つねに持っている金貨を全て賭けなくてはならない。つまり、少しでも戦闘を避けて、金貨を大量に持っている相手を倒す方が効率的である。優勝者には何でも好きな願いを一つだけ叶えてくれるという。


 マロとファム、そしてアリッサはバルド共和国を離れ、森林地帯を進んでいた。

「ねえ、アリッサ。何故お前まで付いてくるんだ?」

「それは、仲間だからよ」

「なのさ、この際だからはっきり言うけど、お前は私とマロを敵に売ろうとしただろう」

「だから、その償いで力になりたいのよ」

 マロは喧嘩する二人をニコニコと笑顔で見ていたが、しばらくして、突然立ち止まった。

「おっと、マロどうしたんだ?」

「今、思ったんだけど、そのロストアイランドって、神獣がないと参加できないんだよね?」

「ええ、もちろん」

 アリッサが得意げに答える。するとマロの額から嫌な汗が垂れた。


「ファムは神獣と契約してる」

「してない」

 三人の間を一陣の風が吹き通る。誰も笑っていないし、笑えない。神獣は各地の神殿に眠っており、強い魔力と、勇気を兼ね備えた者にのみ力を貸すという。ファムには勇気はあるかもしれないが、魔力はからきしない。彼女は騎士だからだ。

「どうしよう?」

 マロが腕を組んで悶絶していると、アリッサがわざとらしく咳払いを始めた。

「うおっほん」

「どうしたの風邪?」

 マロが心配そうにアリッサを見つめる。

「知ってるのよ。神殿をね。それも魔力がなくても問題なく使役できる奴を」

「本当か?」

 ファムは思わず身を乗り出した。

「ええ、ここから西に進むと、ライディーンのいる神殿があるわ」

 ライディーン、それは騎士の姿をした神獣だ。両手に槍を持ち、体は漆黒の鎧に包まれた屈強なる兵士。武を好み、強い人間のみに力を貸す、孤高の存在だ。


「ちょっと待ってて。ウンディーネに聞いてみる」

 マロはウンディーネを呼び出した。辺りの空気が急激に冷えた。ウンディーネがマロの頭上に降臨した。

「ええ、ライディーンなら知っています。彼は元人間という、神獣界でも珍しい種類です。何でも武を極めた挙句、神に近い存在にまで上り詰めたとか」

「良いな。武ってのが特に良いぞ。何も魔法だけが偉いわけじゃないからな」

 ファムは嬉しそうにしていた。だがウンディーネの顔は決して明るくない。

「しかし、彼は中々手ごわいですよ」

「構わん。マロのためだ」


 三人は早速ライディーンの住む神殿に向かった。

「着いたわ」

 アリッサが指した先に神殿があった。8本の石柱に囲まれ、石英でできた建物がそこにはあった。

「ウンディーネのいた神殿とはずいぶん違うね。あそこは確か水に囲まれていて、綺麗だった」

「ええ、神殿は神獣の属性に合わせたものとなりますからね」

 アリッサとマロは、神殿の前で立ち止まると、ファムの方を見た。

「え、どうしたのだ?」

「ここから先はファム一人で行くんだよ。試練は一人ずつっていう決まりなんだ」

「そ、そうなのか。分かった。任せておけ」

 ファムは鞘から剣を抜くと、駆け足で神殿内に入って行った。


「冷えるな」

 神殿内部は、外と違って低温となっている。非常に温度差が激しい場所だった。中も特に複雑な仕掛けはなく、一本道だ。左右の壁には剣やら槍やら、幾つもの武器が飾られている。そして床には赤いカーペットが敷いてあり、まるで来た者を歓迎するかのようであった。

 しばらく歩くと、一際大きい両開きの扉が眼前に現れた。ファムはそれを何の躊躇いもなく押し開けた。

「頼もう」

 神殿の奥には、黒い鎧を身に纏い、両手にはそれぞれ槍を装備した騎士が立っていた。兜のせいで表情は分からないが、来客を喜んでいるように見えた。

「ほほう、我が前に人間とは懐かしい」

「貴様がライディーンか、済まぬが私と契約してもらおう」


 ライディーンはファムを見ると、鼻で笑った。そして槍を構え、彼女に突き付けた。

「分かっていよう。契約するには我が試練を乗り越える必要があることを」

「もちろん。試練を早く教えてくれ」

「かんたんさ、私を打ち負かすことだ」

 ライディーンは言いながら、槍を構えて、突進してきた。

「望むところ」

 ファムはその場で跳躍すると、体を縦方向に回転させながら、ライディーンに斬りかかった。カキンッという金属の擦れ合う音が、神殿内に木霊する。

「ぬううおおお」

 ライディーンは両方の槍を回転させた。そしてその間からは真空の刃が発生していた。

「鎌鼬」

 見えない真空の刃が、ファムの体を切り刻んでいく。

「ああ・・・・」

 鎧を装備していたから良いものを、もし皮の服一枚だったらと考えると、彼女は恐ろしくなった。こんなに頑丈な装備でも、真空の刃は、彼女の肉を多少削ぎ落とした。


「どうしたのだ?」

「くっ・・・・。中々やる。でも・・・・」

 ファムは立ち上がった。そして再び剣を構える。相手をまっすぐに見つめ、床を強く蹴った。

「うおりゃあああ」

「無駄だ」

 突如、ファムの頬が切れた、そしてバックリと傷口が開いた。

「何?」

「無駄だと言ったのはこれだ。真空の刃はまだ残っているのだ。空気の上に残留していたのだ」

「くそ」

 ファムは背後に跳んで、真空の刃から身を守った。

「近付かねば、私は倒せんぞ」

「近付けば、鎌鼬にやられるか・・・・」

 

 ファムは剣を床に突き刺すと、その場に座り込んだ。そしてゆっくりと眼を閉じて瞑想を始めた。

「何だ?」

 ライディーンも呆然とその姿を見た。試練放棄とみなして良いものか考えていたのだ。

「アレを使うしかなさそうね・・・・」

 ファムの脳内に、故郷の記憶が蘇る。それは今から丁度1年前の出来事だった。


「ファムよ。お前はブラスト家の跡取りとして十分強くなった。今日からはブラスト家の当主を名乗るが良い」

「はっ、ありがたき幸せ」

 ブラスト家とは、騎士の名門の一族である。ファムはその長女であり、剣の才能は一族随一であった。彼女は先天の義と呼ばれる儀式を受けることで、ブラスト家の当主となれる。

「さあ、先天の義を始めるぞ」

「はい」

 先天の義とは、ブラスト家の当主となる人間に対して、ブラスト家の宝である、妖剣バルムンクを渡すことを指す。しかし妖剣バルムンクは、ただの剣ではない。妖剣を名乗るだけあって、その存在は、他の物とは異質であった。


「何処に剣はあるのですか?」

「バルムンクは手渡しできる物ではない。お前の心臓に埋め込む物だ」

「えっ?」

「行くぞ」

 老人は両手でファムの胸を強く握った。即座にファムの平手打ちが老人を捕えた。

「がは・・・・」

 老人は鼻血を出しながら、壁に激突した。

「いきなり何です?」

「今、お主の体に、妖剣バルムンクを埋め込んだ。良いか聞くんだファムよ。この剣は絶大な威力を持つが、使用者の命を縮める危険がある。だからここぞという時にしか抜くな。確率は50%だ。これはバルムンクを使った時の生存率だ」

「バ、バルムンクはどうすれば抜けるのですか?」

「心の中で相手を憎み、殺したいと思うことじゃ」

 老人はそれだけ言うと動かなくなった。

「どうしました師匠?」

「ごほ、さっきの平手打ちが効いたみたいじゃ。ファムよ。わしはもう死ぬが、後は任せるぞ」

「師匠・・・・」


 その後、ファムはバルムンクを体内に宿したまま、今日まで過ごしてきた。その間にバルムンクを使ったことは一度としてない。だが、今こそ使う時なのかもしれない。

「抜くか」

「ん?」

 ライディーンはファムの悲痛な決意の顔を見た。何かをする気だと、長年の勘がライディーンを警戒させた。

「行くぞ」

 ファムの体が突然紫色に発光した。そして血のような色の剣が、彼女の右手に握られた。瞳は獣のように真っ赤になり、彼女は舌なめずりしていた。


「バルムンク」

 ファムの体が一瞬にして消えた。

「なっ・・・・」

 ファムはいつの間にか、ライディーンの正面にいた。そしてバルムンクを振り上げると、ライディーンに向かって振り下ろした。

「くっ・・・・」

 ライディーンは両方の槍でそれを防ぐ、しかし瞬時に槍は木の枝のように折れてしまった。ファムは右足でライディーンの体を蹴り飛ばした。強くなったのは武器だけではない。彼女の身体能力も大幅に向上しているのだ。それは命の炎を燃やすリスクゆえの力である。


「強い・・・・」

 ライディーンは攻撃を避けるので精一杯だった。後ろに逃げれば、もう前に追いついているし、攻撃は全て受け止められてしまう。

「うおおおおお」

 ファムはライディーンの首を掴むと、雄叫びをあげながら、床の上に叩きつけた。そして血の色をしたバルムンクを振り上げた。

「ま、待て、試練は合格だ」

 ライディーンがそう言うと、ファムのバルムンクが消え、いつもの彼女に戻った。

「今のは、恐ろしい力だった。良いだろうお前に力を貸してやる」

「はあ・・・・はあ・・・・私生きてる、50%の確率で生き延びたわ」

 かくして、ファムも念願の神獣を手に入れることができた。いよいよロストアイランドへ向けて、旅立つことができるのだ。

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