スカーフェイス
ミストは自らの顔の包帯をゆっくりと解き始めた。少しずつ黒い痣だらけの肌が空気に晒された。
「貴様は何をしているのだ・・・・」
「ミストが何故、顔を包帯で隠していたかお前は知らないだろう。この神獣はあまりに能力が強すぎるために、能力をこの包帯で弱めていたんだ。しかし、ここには僕とお前の二人だけだ。気兼ねなく、ミストの真の能力、スカーフェイスを発動できる」
ミストの顔面が露わになった。そしてその顔から黒い光が放出された。バレンタインはとっさにジャバウォックの背後に隠れた。
「タイムリープ」
空間が歪んで行く。そして時間がゆっくりと戻り始めた。
「危ないところだった。しょせん貴様は・・・・」
言いかけたところで、バレンタインは右腕に強烈な痛みを感じ、思わず口をつぐんでしまった。そして恐る恐る自分の右腕を見た。
「う・・・・あ・・・・」
右腕が青紫色に変色し、皮が剥けていた。そしてタイムリープを発動しているにも関わらず、腕の皮が急速に剥け始めた。恐ろしいのはそれだけではない。最初に感じた痛みが、今度は痒みへと変化していた。それも非常に耐えがたく、バレンタインは無意識に右腕を掻き毟っていた。
「何だ・・・・?」
いつの間にか、バレンタインの右腕に赤い肉が露出していた。このまま掻き続ければ、いつか骨になってしまうだろう。
スカーフェイスは正面に映るものを見境なく腐らせる効果がある。それは花畑を一瞬で荒野に変え、純水な池を泥沼に変えてしまうほどの効果を持つ。バレンタインは覚悟を決めた。生き延びるために決断した。
「くそおおおお」
バレンタインは体全体が腐食するより前に、自身の右腕をジャバウォックの手刀により切り落とした。
「ぐぐ、くそ、気が遠くなるほどに痛いぞ。おまけにタイムリープが解けた。これでは次に時間を巻き戻しても、右腕を切断する以前まで、時間を戻すことはできない」
タイムリープの弱点は数秒単位の時間しか戻せない点にある。そしてタイムリープを発動した直後に、連続してもう一度発動することはできない。最低でも3秒は時間を開けなくてはならない。そのうちに、時間を戻せる限界が更新されてしまう。次に時間を戻しても、右腕を切断した直後までが限界であり、それよりも前の時間に戻ることは永遠に不可能なのだ。
「まさか、自分の腕を切断するなんて」
「これが余の覚悟だ。そして貴様のスカーフェイス、一度発動するとしばらく撃てないようだな。これで終わりにする」
ジャバウォックの目が開かれた。そして時間が戻り始めた。バレンタインはジャバウォックを操り、塔の最上階に飾ってある甲冑が握っている槍を取った。
「レプリカかと思ったが、人を貫通させるぐらいの鋭さはあるみたいだな」
ジャバウォックは槍の先をソルガが戻ってくる位置に向けた。
「これでタイムリープが終了した瞬間に、最速で槍を打ち込めるな。にしても、余をここまで追い詰めるとは、見事だったな」
タイムリープが解け、歪んでいた空間が元に戻った。同時にソルガの肩に槍が突き刺さり、鮮血が彼の服を真っ赤に染めた。




