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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
三大国戦争編
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時間逆行の対抗策

 ソルガとミストの体が急に遅くなった。同時に吐いた紫の息が、どんどん小さくなり、ミストの口の中に戻って行った。そして反対方向にゆっくりと、正面を向いたまま歩き始めた。

「ウイルスとは厄介だが、時間を巻き戻してしまえば問題はない」

 ジャバウォックは照明のために、壁に掛けられている松明を一本取った。

「時間が戻るのを指を咥えて見ているほど、余は間抜けじゃない。コレを貴様が戻る位置に投げ込めばどうなるか。答えは簡単だ。貴様は自らの足で火炙りになるだけよ」


 松明がソルガの頭部を掠めて、彼の最初に立っていた位置に転がり、そのまま炎上していた。彼は背後に向かって少しずつ歩いて行くと、定位置に戻った。そして同時にタイムリープが解けて、彼の全身には松明の炎が移っていた。

「うぐああああ」

 ソルガは自分の身に何が起こったのか理解するまでに、数秒の時間を要した。気付いた時には、彼の全身は真紅の炎に包まれて、焼け付く痛みを発していた。

「そのまま燃えるが良い・・・・」

 勝利を確信しているバレンタインの右足を、床に伏しているミストが手で掴んでいた。

「な、何・・・・?」

 ミストの腕の傷から紫色の液体が流れ、バレンタインの足に流れ落ちそうになっていた。

「タイムリープ」


 バレンタインは足に液体が垂れるよりも早く、ジャバウォックの力により時間を逆行させた。ミストがゆっくりと元の位置に戻って行く。そして彼にとっては忌々しいことだが、時間を戻しているので、燃えているソルガの体の火も消え、また彼の赤く爛れた火傷の後も綺麗に消えて行った。

「くそ・・・・」

 バレンタインとソルガは最初に対峙していた位置に戻っていた。

「ありがとう時間を戻してくれて」

「貴様は余を怒らせたぞ」

「そうかい。僕は機嫌が良いよ。お前を仕留める方法が分かったからね」

 ミストの腕から紫色の液体が床に垂れた。そしてそれを自身の体に塗りたくったのだ。

「契約者の僕にはウイルスの免疫がある。ウイルスが変化しない限りは、決して感染しない。お前の能力は強力だが、しょせんはリセットするのが限界だ。僕に止めを刺すには、僕に接近しなければならないはずだ」


 ソルガの言葉に、バレンタインの顔は怒りで震えた。たかが20にも満たない子供に、自身の能力を見破られ、誇りまで傷付けられたのだから、王を名乗る彼からすれば当然の反応だった。

「貴様のウイルスは無限に増え続ける。時間をいくら巻き戻しても、一度感染したら終わりか・・・・フフフ・・・・」

 バレンタインは唇を震わせて笑っていた。どうにも堪えきれないといった様子だった。そしてすぐに顔を、元の険しいものに変えると、ジャバウォックで塔の柱を思い切り殴り付けた。

「良い気になるなよ、このクソガキが。たかが一度や二度、命拾いしたからとて、それがどうしたと言うのだ。寿命がほんの数秒伸びて嬉しいのか。この救いようの無いゴミが」


 バレンタインの冷静さを失っている様子を見ながら、ソルガは静かに口元を歪めた。闘いにおいて、冷静さを失った者は真っ先に死ぬ。彼が少年時代に愛読していた、「ルミナス兵法」に記されていた一文である。バレンタインは精神的には脆い。そこを突けば勝てる。彼は確信した。

「撃ってこいクソガキ。貴様が少しでも攻撃の姿勢をとった時、時間を戻して、そのスキにこの闘いを終わらせてやる」

「早速、攻撃をさせてもらおうかな。ただし、これには僕の勇気がいる・・・・」

 ソルガはミストをじっと見た。彼の包帯の隙間から覗くつぶらな瞳が、同じくソルガをじっと見つめていた。

(こいつを信頼しよう)

 兄は自分の能力によって死んだ。だからこのミストを使いこなすことはとても恐ろしく、ソルガはなるべくなら神獣に頼りたくはなかった。しかしここが正念場なのだ。宿命を変えるにはこの一線を越えねばならないのだ。


「ミストの真の能力を使う時がきたんだな」

 ソルガの瞳には怯えの色はなかった。こいつを信頼し、背中を預ける。彼はミストの顔を静かに見つめた。するとミストが手を顔に当てて、自らの包帯を脱ぎ始めた。

 

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