禁断の神獣ヴェノム
転生の塔最上階。バレンタインの側近ヘルガーは、望遠鏡で夕暮れの空を見ていた。
「後、数時間後にフェニックスが降臨します」
「ああ、死者を蘇らせ、生者には不老不死を与えるという伝説の神獣フェニックス。奴を手中に収めた時、余は永遠の王として、現世に君臨し続けることができるのだ」
バレンタインの赤髪が風に揺られて靡いた。彼は急に真剣な眼差しでヘルガーを見た。
「どうしました?」
「ヘルガーよ。貴様は余の忠臣よな?」
「ええ、もちろん」
「余のためならば、命をも捨てられるか?」
「当然です」
ヘルガーは自信満々に答えた。するとバレンタインの顔が僅かににやけた。
「その言葉、忘れぬぞ。早速、余のために命を捨ててもらおうか」
バレンタインは指を鳴らした。すると二人の兵士が透明な瓶を持ってきた。中には緑色の泥のような、生物と呼ぶのも適切でないような、スライムに似たものが入っていた。
「この神獣、あまりの凶悪な性質ゆえに、余も持て余していたが、ついに役立てる時が来たようだ。こいつを下の部屋に運んで、この魔法を通さない瓶から開放してくれ」
「げっ、ヴェノム・・・・」
ヘルガーはその神獣を知っていた。数年前に神殿の中を這いずっているのを発見し、魔法を通さない特殊な瓶に閉じ込めて掴めたものだった。
「先程の言葉は嘘ではなかろう?」
「し、しかしこいつは危険すぎます。下手をすれば、王のお命も・・・・」
「余の心配は良い。貴様はヴェノムを瓶から出せば良い」
「ああ・・・・そんな・・・・」
ヘルガーは後悔した。何故、あんな言葉を吐いたのだろうと。ヴェノムはこの世で最も危険な生命体であると断言できる。魔力自体は大したことはない。はっきり言って人間以下である。知性も無いに等しい。しかしヴェノムの恐ろしさは食欲にある。
ヴェノムは有機物、無機物区別なしに吸い付いて、何でも消化してしまう。そしてそれは決して尽きることなく、この世に形を持つものがある限り、無限にそれらを捕食するのである。殴れば、殴った腕が消化され、魔法は全く効かなかった。ヴェノムには死という概念が存在しない。そのため封印を解けば、全世界、もしかしたら全宇宙を消化するまで、捕食活動を止めないかも知れない。
「さあ、行くのだ」
「知りませんよ・・・・どうなっても・・・・」
ヘルガーは呪詛のように低い声で呟くと、死を覚悟して、瓶を両手で持ち階段を降りて行った。そしてマロ達が、もうすぐ上ってくるであろう円形の広い部屋で、その瓶を叩き割った。
バリンッという音とともに、緑色の不定形生物が床の上を這った。
「ああ・・・・」
ヘルガーは腰を抜かすほどの勢いでヴェノムから離れた。
「やったぞ。あはは、俺は生きてる」
ヘルガーはそのままゆっくりと、上り階段の方に向かって歩いて行った。しかし突然バランスを崩して転んでしまった。慌てて起き上がろうとするが体が動かない。そこで彼はようやく気付いた。そして自嘲気味に笑った。右半身が無いのに、何が生きているだろう。彼は自暴自棄にゲラゲラと笑い声を上げていた。そこにヴェノムが完全に捕食しようと、彼の残りの右半身に飛び掛かり、一気に消化してしまった。




