意外な勝利
マロは自分の手足を見た。何も変化はない。隣にいるファムとソルガも困惑した表情で、マロの姿を見ていた。
「マロ、何故戻って来たのだ?」
「マロさん、ウンディーネをどうして引込めてしまったんですか?」
二人は当然の疑問をマロにぶつけた。しかし答えは返って来ない。彼自身、自分の身に何が起こったのか理解できないからだ。
「何かされたみたいだけど、分からないんだ」
マロはウンディーネを再び召喚すると、今度はその場所からダイヤモンドミストを放った。氷柱がメルシー目掛けて発射された。
「タイムリープ」
部屋の空間が再び歪み始めた。メルシーの眼前にまで迫っていた氷柱は、逆方向にゆっくりと飛んで行った。
「何て速さ・・・・。もう少し遅れていたら危なかった」
メルシーの額から汗が一滴落ちた。バレンタインの声が彼女の脳内に語りかけた。
「メルシーよ。早く奴らを始末せよ。貴様に貸しているジャバウォックの契約者は余だ。貴様は時間を戻せても、余のように、逆行している時の中で、相手に干渉することはできない。せいぜい動き回るので精一杯だ。奴らに見抜かれる前に始末するのだ」
「分かっていますバレンタイン様。しかしこの距離では、奴らを始末する前に時間の逆行が終わってしまいます」
「ならば、次は接近しろ。奴が攻撃の動作に移った瞬間に、タイムリープをするのだ。良いか、慎重にだぞ」
「はい・・・・」
タイムリープが解けて、元の空間に戻った。マロは再びウンディーネを召喚すると、何かに気付いたのか表情を険しくした。そして小声で何かをブツブツと言いながら、杖を構えた。
「ダイヤモンドミスト」
「やはり、気付いていないか」
マロがウンディーネを召喚し、魔法を放った瞬間。メルシーは再びタイムリープを発動した。ゆっくりと魔法が解けて行く。
「これで蹴りをつける」
メルシーは懐からナイフを取り出すと、それをマロの腹部に向けて止まった。これで時間の逆行が終了した瞬間に、素早くナイフを叩き込むことができる。
空間が元に戻ると同時に、メルシーはナイフをマロの腹部にグッと突き刺した。彼の腹部から冷たい液が流れ出てきた。最初、メルシーは血液だと思っていたが、それは大きな間違いだった。見ると液体は透明でひんやりとしていた。彼の腹部には氷の塊が入っていた。それが鎧のような役割を果たし、彼をナイフの刃から守ってくれていたのだ。
「あ・・・・」
メルシーは気付いた。マロはただ防御をするためだけに氷の塊を腹に隠したのではない。その氷はナイフで刺されると同時でその場で砕け散った。
「タイムリー・・・・」
言いかけたところで、メルシーの顔や腹、足や手などに砕けた氷の欠片が弾丸のように突き刺さった。あまりの近距離に、魔法の詠唱が間に合わず、彼女は血だらけの状態で宙を舞った。そして床の上に真っ逆さまに倒れた。
「良かった。念のためにウンディーネの氷を、お腹で隠しておいたんだ。そして、そこに何らかの刺激が加わった時に、氷が弾けて相手を攻撃する。彼女の能力は分からなかったけど、これで結果オーライだね」
勝手に納得しているマロをよそに、ファムとソルガは未だに状況を理解していないのか、互いの顔を見合わせたまま呆然としていた。




