ポルターガイストの襲撃
アリッサは捕えた二人の男に道案内をさせて、無事に山道を抜けた。そして次にやって来たのが、人口100人にも満たないような小さな山村だった。
「変な場所ね」
アリッサは山村に対する率直な感想を述べた。いくら少ないとはいえ、人っ子一人見当たらないというのは問題だと彼女は思った。そしてその疑問は、周りの兵士達も同じように感じていた。
「王女、見て下さい」
兵士の一人が指した先には、いくつもの骸骨が積まれて山となっていた。頭蓋骨の上に乗っているカラスが、アリッサ達の存在に気付いたようで、翼を広げて何処かに飛んで行ってしまった。同時に、バラバラと音を立てながら、骸骨の山が崩れた。
「うああああ」
アリッサの背後から悲鳴が聞こえた。振り向くと、一人の兵士の足首から血がポタポタと滴っている。枝で足を切ったのだろうか。彼女は負傷した兵士に駆け寄った。
バルドの兵士ともあろうものが、少しの怪我で騒ぐはずがない。この村で何かが起こっている。アリッサの腕に力が込められた。
「大丈夫?」
「ええ、何とか・・・・」
冷や汗を掻いている兵士の頭を別の兵士が殴った。
「馬鹿野郎、王女にまで心配掛けるな」
「ち、違うんだ・・・・」
兵士の顔が真っ青になっている。そのまま彼は震えながら静かに語り始めた。
「何かに足を斬られたんだ。この傷と痛みは、剣で斬られたものだ。間違いない。見たんだよ。紫色の人型の影が剣を持っているのを・・・・」
その時だった。アリッサの脇を人影が抜けた。慌てて眼で追うと、兵士の言った通り、紫色の剣を持った人型の影が何人もいた。
「サラマンダー」
アリッサの言葉と共に、サラマンダーが現れて火の玉を影に向かって吐いた。
炎が弾けて、草木を焼き払ったが、人型の影には何の変化もなかった。
「何よ、あれ・・・・」
戸惑うアリッサの肩を先程のカラスが通過した。
「ああ、もうイライラする」
「落ち着けよアリッサ。この現象、俺は知っている」
「まさか神獣?」
サラマンダーは人影を眼で追いながら言った。
「実態を持たない神獣、ポルターガイストだ。最も神獣と言うよりも、現象と言った方が正しいのかも知れない。死んだ人間どもの魂の集合体が、あたかも神獣のように魔法的な力を持っているんだ」
「どうしたら良いの?」
「ここから出るのが先決だろうな」
アリッサは慌てて、村の外を見た。恐るべきことに、村の外からも同じような人影がどんどんこちらに向かって来ていた。
「これじゃ出れない・・・・」
アリッサは疲れたのか、膝を地面に突けた。その時だった。彼女の頭上をカラスが一羽通過した。
「今、魔力を感じたわ。あのカラスから」
アリッサはサラマンダーに炎を吐かせた。そしてカラスを焼き払った。
「これで良いのかしら?」
アリッサは足元に転がっているカラスの焼死体の影が僅かに動いた。そして体から離れると、紫色のカラスの形をした影となって、空を飛んだ。
「これは・・・・」
「どうやらここで死んだ奴は、皆、ああいう影になるらしいな。つまり影の正体は、この村で亡くなった人間達ということになるぜ」
「どうしたら良いのかしら?」
腕を組んで考えに更けっているアリッサの背後で、人影の一つが剣を振り上げていた。そして今まさに、彼女を背後から斬りつけようとしていた。




