それぞれの闘い
アリッサ率いる軍は、エルムイとの国境に当たる緑の山道に来ていた。
緑の山道とは、その名の通り樹木が生い茂り、辺り一面が緑一色になっている、険しく複雑な地形である。不安定な吊り橋に、落ちたらまず助からないであろう崖、常に辺りをほのかに覆っている霧の影響で、先まで見通すことが難しく、行商人が緑の山道を通るときは、出発前に家族の元に立ち寄り、最後の別れを告げるほどに、命がけの、文字通り天然の要塞だった。
「行くわよ」
アリッサは皆の先頭に立つと、まず最初の関門である。斜面の急な坂道を登り始めた。
しばらく無言で上っていると、岩陰のある曲がり道の前で、アリッサは突然立ち止まった。
「サラマンダーあの岩陰怪しくない?」
アリッサは隣にいる、赤い鱗にファイヤーパターンの舌を垂らしているサラマンサーに、そっと耳打ちをした。
「ああ、ちょっと調べてみるかな」
サラマンダーは口を窄めると、フッと軽く息を吐いた。すると彼の口から小さな人魂のような炎が、ユラユラと上下に揺れながら、岩陰に向かってゆっくりと移動を始めた。
「何よあれ?」
「へへ、敢えて名付けるとしたら、遠隔弾かな。あの炎は生き物の体温を感知して、体温の高い者に向かって移動を始める。そしてどうなるかは見てのお楽しみだ」
小さな炎は岩陰の中に入ると、突然、火柱を立てて燃え始めた。中から叫び声と共に、黒焦げの男が二人飛び出して来た。
「獲物に触れた瞬間、凝縮していた魔力が爆発。見ての通り真っ黒こげになる」
二人の男達はエルムイからの刺客だったようだ。その後何とか一命を取り留めたが、結果、エルムイへの道案内をさせられる羽目になってしまった。
マロとファムは塔の内部に侵入した。塔の中は所々空いているので、外からの日差しが侵入して、薄暗いものの、明かりなしでも十分に歩ける程度だった。塔の頂上に行くには、ひたすらに螺旋階段を昇らなければならない。これだと大勢で行く方が寧ろ危険になってしまう。ファムは兵士達にここで待機するように伝えると、早速、石造りの階段に足を掛けて登ろうとした。
「待ってください」
突然、背後から大きな声がしたので、ファムは思わず驚いて転びそうになった。振り返ると、兵士の列の中から、一際、若く見える少年が立っていた。
少年は黒髪を後ろで結んだおさげをしており、瞳は澄んでいた。そしてどこか意思の強さを感じる顔付きをしていた。
「何だ君は・・・・」
「私はソルガと言います。あなたが覚えているかは分かりませんが、あなたがロストアイランドで闘い、そして勝利したギルガの弟です」
「ギルガ・・・・?」
ファムはロストアイランドでの闘いを思い出してみた。ギルガという男は確かに知っている。ボイドの構成員の一人で、ミストという病原菌を操る最凶の神獣を従えていた騎士の男だ。
「君は、まさか私を殺す気?」
顔を青くして怯えているファムを見て、ソルガはニコッと笑った。
「勘違いしないで下さい。私は兄のことを恨んでなんかいません。寧ろ感謝しています。あのままでは兄はどんどん悪行を重ねて行ったと思います。それをあなたが止めてくれた。それを恨むなんてとんでもないです」
「君、歳は?」
「15歳です」
「15か、確かに食べ頃だな」
「食べ頃ですか?」
「あ、いや何でもない。マロよりも歳がいってると思ったら当たったんで喜んでいるだけだ。ところで君はどうして私達を止めたんだ?」
「僕も、一緒に塔を上ります」
「それは無理だ」
ファムは首を横に振った。するとソルガは機嫌を悪くしたのか、突然、青い光を体から放ち、神獣を召喚した」
それは包帯で全身を包んでいるミイラのような風貌の神獣、一度見たら忘れようのない、ギルガの従えていたミストだった。
「パーティーに加えてくれないのなら、ウイルスをここでバラ撒きます」
ソルガはボソッと低い声で言った。
「待て、ちょっと、お前タチ悪すぎだ。パーティーに加えてやるから、早くそれをしまって・・・・」
「ありがとうございます。でも心配しないで下さい。ミストの魔法は封印しているので、早々簡単には使えませんから」
ファムとマロはその言葉を聞いて安心した。しかし安心はできない。何故なら、その姿を階段の上から睨み付けている男がいたからだ。




