追憶の日々
マロとファムは何人かの兵士の先頭に立ち、砂漠の真ん中にあるという、転生の塔を目指して進軍していた。
「マロ、何だか前と変わったな」
「え、どこが?」
マロは髪の毛を触ったり、自分の頬を引っ張ったりしていた。無論、彼の容姿が変わったわけではない。どことなく雰囲気がかつての彼とは違っていた。
「何があったんだ?」
「僕ね。ドラグーンに連れられて、ママのお墓参りに行って来たんだ。それは花畑の真ん中にあって、とても綺麗だった。でも、そこに供えてあったママの手紙を読んで、僕は知っちゃったんだ。僕自身のことを・・・・」
ファムはそれ以上は聞けなかった。マロが口をつぐんでしまったからだ。そして彼女は決意した。たとえ、マロの出生がいかなるものであったとしても、自分は絶対に彼を見捨てたりはしないと。
しばらく山間地帯を進んでいると、木々の合間から、眩しいほどに黄色い光が入り込んでいた。周囲の邪魔な葉を狩って覗いてみると、目の前には黄色一色の砂漠地帯が広がっていた。眩しい光の正体は、まさにこの砂だったのだ。
「見て下さい。ありました。転生の塔が・・・・」
兵士の一人が砂漠の先を指で差した。そこには茶色の煉瓦で造られた、円柱の巨大な塔が建っていた。その階層は全部で50階にも及び、ただ、上るだけでもかなりの労力と時間を有するであろう。
ファムとマロは思わず互いの顔を見合わせて溜息を吐いた。これからこの塔を進むのだと考えると、頭が痛くなる。
塔の頂上から、マロとファムの姿をじっと監視している者がいた。彼は二人の姿をしばらく無言で確認した後、それをバレンタインの元へ伝えに行った。
「王、大変です。塔の正面に敵軍が迫って来ています」
「ふん、慌てるほどのことではないわ。確かに我が軍の兵のほとんどは、バルド進軍のために出払っているが、それがどうしたというのだ。ここには余の精鋭が集まっているぞ」
バレンタインは指をパチンと鳴らした。それに呼応して、一人の男が立ち上がった。
「私にお任せを・・・・」
その男は、頭にターバンを巻き色黒の肌をしていた。その顔つきは険しく。また寡黙であった。
「ジンよ。お前ならば奴らを倒せるだろう。見たところ、奴らは神獣使いと見える。魔力が普通の人間よりも強いのだ。特に女の方は騎士なのか、大したことはないが、ガキの方が危険だ」
「私が始末します・・・・」
そのまま塔を降って行こうとするジンを、バレンタインは止めた。
「待て、いくら貴様でも、神獣使いを相手にするのは厳しい。余の神獣、ジャバウォックの右腕を貸してやろう」
「ありがたき幸せ・・・・」
バレンタインの背後にジャバウォックが現れた。それは緑色の苔のような体色をした人型で、左右の眼は異様に離れていた。そして口はヘの字に裂け、両手首には、大きな一つ目の付いた小手が付いていた。
「お任せを・・・・」
ジンはそのまま螺旋階段を降り、小さな侵入者達を排除するべく動き始めた。
丁度、同じ頃、アリッサの率いる小隊も、エルムイの国境を越えようとしていた。




