ライディーンの意思
カイザーとファムの闘いは、両者一歩たりとも引かない白熱した試合だった。これは長期戦になるだろうと、誰もが心の中で感じていたように、二人の闘いは一進一退の攻防で、とても決着が着くようには思えなかった。
「はあ・・・・はあ・・・・」
「はあ・・・・あ・・・・」
二人の息が切れ始めていた。剣の振りが弱くなっていく。カイザーの剣が、ついにファムの胴を捉えた。
「終わりだ」
カイザーの剣が銀色に輝いた。もうダメだとファムは眼を閉じた。強い騎士だからこそ分かる。相手は決して失態を犯さない。だからこそ、一度の失敗が命取りとなる。ファムは一瞬だけ油断してしまった。実力的には五分五分なのだ。一度生じた隙に付け込まれないわけがない。
しかし、そこで奇跡が起こった。今、斬られようとしていたファムの体を、突然何者かが突き飛ばした。そして彼女の代わりに自らが、胴に剣撃を受けた。
「がは・・・・」
漆黒の鎧に身を包んでいたソレは、血を流しながらフラフラと立っていた。
「無事か・・・・ファムよ」
「お、お前は・・・・」
ファムは漆黒の鎧に駆け寄った。そして両手で冷たい鎧を抱きしめた。
「ライディーン」
ファムの言葉に会場にどよめきが起こった。神獣が人間を庇ったのである。契約者でない人間のために、命を張るなど、本来はありえないし、あってはならない。その姿にカイザーも驚きの声をあげていた。
「馬鹿な、伝説の騎士ライディーンだと・・・・」
「お願い、ライディーン死なないで」
ファムは泣いていた。ライディーンの冷たい鎧に、彼女の熱い涙が伝って行った。
「ふ、人間ごときのために、この誇り高き騎士ライディーンが死ぬことになろうとはな。神獣王ドラグーンが見たら、何というだろうな。きっと信じないだろうな。この私が、人間なぞに・・・・」
「喋るな」
「ファムよ。私の人格は死ぬが、私の力と志は残る。お前が継ぐのだ。今から、お前に私の力を与える」
ライディーンはファムの頬にそっと触れた。彼の漆黒の鎧が光に包まれる。そして彼女の体を抱きしめるように囲んだ。
「何だ・・・・?」
カイザーはその様子を呆然と見ていた。何とファムの体が金色の光に包まれたのだ。そしてそれはやがて形を持つようになる。銀白色の鎧、兜、小手、そして兜の頂点には金色の角が立っていた。彼女は鞘から剣を抜いた。青く輝く刀身は鉄でも鋼でもない。この世には存在しないような、まるで光がそのまま刀身になったように、クリアで澄んだ色をしていた。
「ありがとう・・・・ライディーン」




