カイザーとファム
ファムは控え室で決勝戦が始まるのを待っていた。何だかんだ言ってこれが最後だ。ファムはマロやアリッサの顔を思い浮かべていた。仲間がいると勇気が湧いてくる。この同じ時間に、マロやアリッサも生きているんだと考えると、とても温かい気持ちになるのだ。
一人物思いに更けるファムの背後から、鎧を着た男が二人近付いてきた。
「おい、そこの二人、殺気でバレバレだぞ」
ファムは剣を抜くまでもないと、二人の男の方を向いた。
二人の男は兜を取ると、ファムの前に素顔を晒した。普通、暗殺や襲撃が目的ならば、顔を隠すのが普通だ。それが敢えて兜を取ったということは、自分達が白であることの証明になる。
「我々は、バルド共和国の兵士です。実は王女の知り合いであるファム様にお願いがあって参りました」
「お願い?」
ファムは首を傾げた。バルド共和国、アリッサの住んでいる国だ。兵士達の言う王女とは正に、アリッサのことを指しているのだろう。
「実は、こんな話をいきなりするものではありませんが、近々、戦争が起きると想定されます」
兵士は生真面目な顔をより強張らせて話を始めた。
「我々の住む世界には、様々な国がありますが、その中でも三つの大きな国がありますね。一つは我々のバルド共和国、そしてもう一つが、宗教国家エルムイ。最後が、最近政変によって国王が変わり、急速に力を伸ばしているファン王国。これらを世界三大国と呼んでいます。今まではこの三つの国同士は、互いに過度な干渉をせずに、それぞれが、それぞれの領土を守ることで、平和を維持していました。しかし、政変によって、新たに誕生したバレンタイン王は、元来、争いを好み、三つの国をファン王国に統一すべく、軍事行動を始めました」
ファムは黙って聞いていたが、バレンタインという名前を聞いて、思わず椅子から立ち上がった。
「バレンタインだと?」
「知っているのですか?」
「聞いたことがある。確か、ロストアイランドでクロウという男が話していた。昔の仲間らしい。詳しいことは分からないけれど、あながち、私には無関係の話でもない。関わってしまった以上、協力はする」
「ありがとうございます。そこでこの大会が終了した暁には、是非、バルド共和国にお越しください。我々は外に待機しておりますので、大会が終了次第、用意した馬車に乗っていただくということでよろしいですか?」
「分かった」
ファムは快諾した。そして決勝戦の始まりを告げるアナウンスを聞き、コロッセオに向かった。
「カイザー、この試合は勝たせてもらうぞ」
「こちらのセリフだ」
試合が始まった。ファムとカイザーは同時に走り出すと、互いに剣を抜いてぶつかり合った。剣先と剣先が擦れ合い火花を散らしている。
「おおう、」
「そりゃ」
一方が引けば、一方が攻める。二人の掛け声だけが会場に響き渡っていた。カイザーの剣がファムの髪を掠め、ファムの斬撃がカイザーの頬を僅かに切る。
二人がしばらく無言でぶつかり合っているのを見て、ファムの父はいきなり、試合終了を意味する銅鑼を叩いた。
「ちょっと、何してるんですか?」
審査員の一人が、ファムの父親に駆け寄った。彼の顔は蒼白になっていた。
「済まない、娘を守ろうと無意識にやってしまった。あんな近距離での斬り合いなど見てられん」
「我慢してください」
闘いはコロッセオだけで起きているのではなかった。誰もがこの決勝戦を期待と不安の中、見守っており、嫌が上でも、二人の闘いの熱気を加速させるのだった。




