怒涛の試合
ファムは選手控え室にいた。先程見たトーナメント表では、自分はFブロック。つまり闘うのは2試合後だ。大体、一つの試合に30分は掛かり、10分休憩を挟んで、次の試合という流れだったので、とにかく出番までが長い。
「試合でも見に行くか」
ファムは観客席に出た。流石にここからではアルアとマルクがいる場所は分からない。仕方がないので、一番下で立って見ることにした。
「第一回戦は、Aブロック、カイザー選手対Bブロック、シャドウ選手の対決だ」
試合の前に両者が向かい合い握手をする。それがこの大会の決まりだった。カイザーとシャドウが互いに向き合い、熱い握手を交わした。カイザーは銀色の甲冑に身を包んでいる。対するシャドウは全身黒装束で、目元以外顔が分からない。最もカイザーに至っては目元すら見えない。
試合が始まった。まずはカイザーが、両刃の剣を抜いてシャドウに向かって走った。シャドウは黒装束の中から短剣を取り出すと、その場で跳躍した。そして黒装束からさらに大量の短剣を指に挟むと、それをカイザー目掛けて、空中から投げた。
「くっ・・・・」
カイザーは背後に跳んで避ける。そしてすぐさま着地したシャドウに向かって行くと、剣で横に薙ぎ払った。
「ちっ・・・・」
シャドウも後ろに飛んで避ける。そして地面に両足を付け、次の攻撃を仕掛けようとしたその時、彼の体が突然、胸元から斜めに裂けた。
「ぐはあああああ」
思わず裂かれた部位を押さえて蹲るシャドウ。傷口は決して深くはないが、これが初のダメージである。
「馬鹿な、きちんと避けたぞ・・・・」
シャドウの困惑する姿を見て、ファムは心の中で呟いた。
(避けてはいない。あんたが避けようとした時には、既に斬られていたんだ)
シャドウは動揺を隠すように、その場で大きく跳躍すると、オレンジ色の玉を取り出して、カイザーに向かって投げた。
玉はカイザーの足元に炸裂すると、中から紫色のガスを噴出した。会場全体が紫一色になり、試合の様子が分からない客達はブーイングしていた。
「どうだ。何も見えまい・・・・」
シャドウは困惑するカイザーを鼻で笑うと、背後から彼の背中を奇襲した。
「死ね」
カイザーは素早く剣を背後に一振りした。それはあまりに速く。シャドウも気付かなかった。彼はそのままカイザーの背中に、短剣を突き刺そうとするが、既に彼の肉体は限界だったようだ。地面に着地すると同時に、胸から血を流して倒れた。
その後、紫色の煙が晴れると、会場の空気が凍った。何と既にシャドウは倒れていた。
「大丈夫か?」
カイザーはシャドウに手を貸すと、彼を起こして彼の体を支えた。そしてそのまま決闘場を後にした。試合はカイザーの勝利で終わった。
「何故、カイザー選手はシャドウ選手を連れて行ったんですかね?」
ファムの隣で見ていた客が彼女に語りかけてきた。
「シャドウの傷は早く手当しないと危険だったんだ。腹立つわ全く、紳士ぶっちゃって・・・・」
ファムは悔しそうに歯軋りしていた。
第ニ試合、今度はCブロックとDブロックとの闘いである。Cブロックはパンでもニウム選手。彼は黒い甲冑で体も顔も覆い、口からは呼吸音を不気味に響かせていた。そしてDブロックは、衛生騎士カッポンである。
「さあ、握手しよう」
カッポンはパンデモニウムに手を差し出した。彼は言われるがまま手を差し出すと、黒い小手から銀色の金属製の爪を出すと、カッポンの手の平に突き刺した。
「うがああああ」
手から血を流して地面に倒れるカッポン。パンデモニウムは爪をしまうと、審判に分からないように誤魔化した。まさに外道である。騎士とは思えない行為。そうこうしているうちに試合が始まった。
「くそ、よくもやったな。こうなりゃ怒ったぜ」
カッポンは飛び上がると、パンデモニウムの頭部よりも高く跳躍した。そして空中で剣を抜くと、そのまま真っ二つにしようと、彼の頭部目掛けて振って来た。
「うおおお、トイレの詰まりは許さぬぁい、カッポンカッポン」
パンデモニウムは頭だけ動かすと、カッポン目掛けて口からオレンジ色のガスを吐き出した。
「うがあああああ」
カッポンは顔を押さえて地面の上を転げ回った。顔面がドロドロに溶けて原形を失っている。彼が何をしたのか分からないが、そのブレスは硫酸に匹敵する威力だった。
「地獄のブレス味はどうだ?」
パンデモニウムが初めて口を開いた。そして爪をカッポンの顔の前に突き付けた。
「トイレの詰まりは・・・・」
「死ね」
パンデモニウムは爪でカッポンの首を刎ねた。そして返り血を自ら浴びた。漆黒の鎧が真っ赤な血に染まっていく。凄惨な光景だった。試合には相手を殺してはいけないというルールはない。何故なら、そんなことをする輩などいないと思ったからだ。しかし彼はやった。
パンデモニウムはカッポンを見下ろすと、さらに爪で彼の腹を裂き始めた。そして叫んだ。
「見るが良い。この俺に立ち向かう奴はこうなるのだあああああ」
さっきまで明るかった会場の雰囲気が一変した。選手間での馴れ合いすら起きかけていた平和な空気が、一気に険悪なものになっていた。客はパンデモニウムに罵声やゴミを投げた。しかし彼はそれを寧ろ、栄誉としていた。なんて不気味な男、会場の誰もがそう感じたことだろう。ただ一人カイザーを除いては。




