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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
ブラスト家当主継承編
20/121

最後の試練

 ファムとマルク、そしてアルアの三人は破魔の洞窟の中を彷徨っていた。しばらく歩いていると、大きな広間に出た。そこはただ正面に出口の扉があるだけで、広い意外に特徴がなかった。

「何だここは・・・・」

「少し進んでみましょう」

 マルクが先頭に立って歩いた。すると、何かを見つけたのか、急に歩みを止めて、ファムの方を振り返った。

「壁があります。しかも透明の・・・・」

「え?」


 何もないと思われた広間は、実は透明な壁に囲まれた迷路だった。少し進めば、すぐに壁にぶつかる。ここの恐ろしさは、迷路自体の複雑さではない。壁が透明で見えない所にあった。

「どうする?」

「こんな迷路で体力を消耗している場合ではありません。早くしないと大会に間に合わない」

 マルクは言いながら、ポケットから鋭利なナイフを取り出した。そして銀色の刃先を自分の肘に当てた。

「少々痛いですが。我慢しましょう」

「何をする気だ?」

「お嬢様は見ていてください」

 マルクはナイフで肘を切った。同時に肘の先から血が噴き出す。肘の先は神経があまり通っていないため痛みは薄い。問題はその行為の動機だった。

「何をしてるんだよ」

 マルクはその問いには答えなかった。彼が肘を振ると、血が透明な壁に付着した。彼の作戦は透明な壁に色を付けることで、それが何処にあるのか見つけることだったのだ。


 その後、迷路を抜けた三人は、その先にある宝箱から、七色に輝く砂のような物を手に入れた。これがどんな物なのかは、三人には分からないが、砂に触れると、手の中で輝いていた。

「さて、帰ろうか」

 破魔の洞窟は絆を試す洞窟だった。騎士として仲間を思いやるのは大切なことなのだろう。ファムはそれを身で学ばせてもらった気がした。


 城に戻ると、既に城内では大会の準備が行われていた。大会の会場は、グレンマウンテンの山頂部にある、グレンコロッセオ。古くから騎士達の決闘場として使われてきた由緒正しき闘いの舞台である。

「おお、ファム。早いな」

 ファムの父親は、王冠に金色のマントなど羽織っている。どうやらこの大会に相当の力を入れているらしい。彼はファムの目の前に突然、手を突き出した。

「何ですか?」

「バルムンクを返してもらう。それは大会の賞品でもあるからな」

「分かりました・・・・」


 ファムは自分の胸の前で手を組んだ。すると彼女の胸の中から、紫色の水晶の欠片のような光り輝く、小さな物体が現れた。

「これで良いですか?」

「ああ・・・・」

 父はそれだけ受け取ると、そのままいそいそと何処かに行ってしまった。

 ファムからすれば、親子の会話というものを、もっとしたかったのだが、父の忙しい姿を見ていると、悪い気がして話しかけられなかった。


 次の日、既に大勢の見物人によって、グレンコロッセオの中は埋め尽くされていた。アルアとマルクももちろん見に来ている。そのうちマルクは、両手にポップコーンとドリンクを抱えて、本当にファムのことを思い遣っているのか、怪しかったが、今の彼女には寧ろ、その軽い態度がありがたかった。

「姉ちゃん、絶対に勝てよ」

 アルアがファムの肩を強く叩いた。

「うん」

 ファムも力強く頷いた。大会が始まるのは正午だ。これから開会式を行うため、ファムや他の選手達はコロッセオの真ん中に集まって行った。実際に、ここが選手達が初めて顔を合わせる機会となる。


「ええ、御来場の皆様。今回はお日柄も良く、絶好の大会日和となっています。まずは注意事項ですが、大会で出たごみに関しては、きちんと家まで持って帰ってくださいね」

 ファムは欠伸をした。この下らない開会式はいつまで続くのか、彼女からしたらこれこそが闘いだった。他の選手達を見ると、それぞれが非常に個性的で、かなりの遠方から来た者もいた。無理もない。ブラスト家は騎士の名門である。その家督を得ることが、騎士達にとっでどんなに名誉であるか、ファム自身分かっている。


「じゃあ、最初に選手の紹介。じゃなかった・・・・。選手を代表してカイザー選手に選手宣誓をしていただきましょう」

 会場が一気に緊張感に包まれた。カイザーという男の名をファムは知っていた。彼の生まれはブラスト家に匹敵する騎士の名門、メディシン家の長男である。既にメディシン家の家督を受け継いでおきながら、この大会にも出場するというのは、流石に図々しいと、自ら家督を蹴ったファムは思った。

 カイザーは申し訳なさそうに前に出た。体は銀色の甲冑で覆われ、顔も兜のせいで見えなかったが、流石に審査員の前では兜を外した。

「ええ、どうも・・・・」

 カイザーは金髪の凛々しい顔立ちをしていた。会場の女性の歓声が喧しいほどに聞こえてきた。彼は客や、主催者であるファムの父、審査員に対して順番に会釈し、深呼吸の後に話し始めた。


「今回はここグレンコロッセオにお集まりいただきありがとうございます。我々も皆さんの期待に応えられるよう、精一杯、正々堂々と良い試合を作り上げて行くつもりですので、今回は最後までお付き合いください」

 カイザーはそれだけ言うと、騎士達の中に戻って行った。

「では、最後に今回の出場者の紹介だ」

「まずはエントリーナンバー1番、騎士の名門、メディシン家の長男、カイザー選手。そして2番、漆黒の鎧に身を包み、その素顔を見た者で生き残った者はいないという、地獄の騎士パンデモニウム選手。3番、盲目の闘士、遥か南のシャントラ王国からやって来たクルト選手。4番、ついこの前まで家政婦をしていたというメイドのミンミン選手。5番~」

 選手達が次々と紹介される中、ファムは自分の番をじっと待っていた。

「7番、衛生の騎士カッポン選手。そして最後に、ブラスト家の長女、家督を蹴っておきながら、やっぱり欲しくて帰ってきた、出戻り騎士ファムの、合計8名でトーナメントを組んで、優勝者には、ブラスト家の家督と、妖剣バルムンクが付いてくる」

 

 怒涛の開会式が終わった。試合前から何故か疲れているファムは、出戻り騎士という異名を付けた、実況者にクレームを付けに、観客席にいた。

「そうだ、忘れるところだった」

 ファムは突然、ライディーンを召喚した。

「何だファム・・・・」

「ああ、済まない。突然だが、私との契約を解除して欲しいのだ」

「何だと・・・・?」

 ライディーンはファムの言葉に耳を疑った。しかしファムのような性格の人間が、冗談で契約破棄を口にするはずがない。彼女は本気だったのだ。

「何故だ・・・・理由を聞かせろ」

「これは私の闘いなんだ。騎士としての誇りを掛けた。もし、私が優勝した暁には、もう旅をすることはないと思う。そうなった時、お前を見ていると、マロやアリッサを思い出してしまうから辛くて・・・・」


 ファムの言葉は切実で力が籠っていた。ライディーンはしばらく無言で話に耳を傾けていたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「正直言って屈辱的だ。人間ごときに見切りを付けられるのはな。しかし忘れるな。私が認めた契約者は、今も、この先もお前だけだ・・・・」

「ありがとう・・・・」

 けじめはつけた。後は力を出し切るだけだ。ファムはライディーンに背を向けて、二度と振り返らなかった。ライディーンからは彼女の背中がいつもより小さく見えた。

 

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