破魔の洞窟
ファムとマルクは途方に暮れていた。破魔の洞窟は3人パーティーでしか入ることを許されていない。しかしファムに協力的な人物は、ここにいるマルクを除いていない。仕方なく、二人はブラスト城を出て山の中を歩いた。
「どうすれば・・・・」
「お嬢様、御可哀想に」
「とにかく、洞窟に行ってみましょ」
二人は破魔の洞窟に向かった。
破魔の洞窟は、洞窟と言うよりも人工的な探鉱に近い。ブラスト家の人間達が、このグレンマウンテンの地に来た時に作ったものなので、当然と言えば当然だが、この人工的な洞窟には、瘴気とでも言うべき、不気味な霧が立ち込めていた。
「やはり危険ですな」
「ええ、そうだな」
またも路頭に迷う二人の後ろを一人の少女が通りかかった。その少女は、自分の背丈ほどの大きな斧を持ち、髪を後ろに結んでいた。
「お前は、さっき会った姉ちゃん」
先に反応したのは少女の方だった。彼女は人懐っこくファムの元に駆け寄って来た。彼女は先程、山賊の真似事を働いていたアルアという少女であった。
「ああ、君か。もう悪さはするなよ」
「分かってるよ。それよりあんたら大変そうだな。オラが力貸そうか?」
本当は猫の手でも借りたいファムだったが、流石に年端も行かぬ少女を巻き込むのは憚られる行為だった。
「いや、結構」
アルアの好意を受け取らまいとするファムを見て、マルクが彼女の腕を掴んで、耳元に小声で叱った。
「せっかく彼女が力を貸してくれるのですよ」
「しかしだな、全くの他人、しかも子供を巻き込むなんて・・・・」
「情けは人のためならず。良い例ではありませんか。あなたが助けたから、彼女も助ける。それにどんなに過酷だと言っても、所詮はブラスト家の騎士達で作った洞窟です。命を失うようなことはないでしょう」
アルアそっちのけで話し合う二人。しばらくしてファムがアルアに近付くと、彼女の手を取った。
「実は、困ってる」
「ん?」
結局、アルアをパーティーに加え、何とか最低条件を見たすことに成功したファムは、早速、破魔の洞窟へと進んで行った。
洞窟内は煙で満たされており、松明の明かりが頼りの薄暗い場所だった。三人が長い一本道を越えて、広い空間に出ると、三人の背後の道が突然壁に塞がれた。
「まずい入り口が・・・・」
「二人とも落ち着いてください。恐らく、この洞窟に眠る大会出場の証を手に入れるまで、ここから出さない気でしょう」
マルクは地面に転がっている骸骨を指した。
「私のミスです。この骸骨は、証を手に入れることができずに死亡した騎士の死体かと思われます。どうやら本当に我々を殺す気らしいですね」
ファムはアルアとマルクの前に立つと、松明を頼りに洞窟内を歩き始めた。
「足元、気を付けて・・・・」
洞窟の奥には、見るからに怪しい大きな扉があった。ファムは扉を開けると、三人で中に入った。
扉の先は、一つの狭い部屋のような空間となっていた。四方を岩に囲まれ、天井は普通よりも低い。そして三人が部屋の中央に立つと、突然、天井が下がってきた。
「あれは・・・・、戻りましょう」
マルクは急いで入り口の扉のノブを引くがビクともしない。まるで外からカギを掛けられたようになっていた。
「早くしないと、天井の下敷きになっちまうぞ。ど、どうしよう・・・・」
「アルア落ち着いて。見て」
ファムは天井を指した。壁の最上部に一人分ほどの広さの空洞があった。あそこから脱出できそうだ。
「あんな高い所に行けますか?」
「ええ、行けるわ。ただし一人が限界よ」
ファムはアルアを見た。そしてマルクと目を合わせて静かに頷くと、二人で両手で足場を作った。
「さあアルア、手を踏み台にして跳ぶのよ」
アルアは二人の真意が分かって戦慄した。二人は自らを犠牲に、自分を助けようとしてくれている。この天井の落ちるスピードは決して速くないが。壁を登ることは不可能だ。結局助かるのは一人が限界だ。この極限の状態で、自分を助けようとしてくれるのは嬉しいが、二人をよそに自分だけが助かるのは心苦しい。アルアはそう考えていた。
「早くしなさい」
ファムが目を見開いた。逆にマルクは、優しく諭すようにこう言った。
「大丈夫ですよアルアさん。我々はこれでも騎士道を重んずる者、無関係のあなたを巻き込むのは、我々の流儀に反するのです。それは死よりも辛いこと、さあ、我々を助けると思って、この手を踏み台にしてください」
「うう・・・・」
アルアは涙を手で拭うと、助走を付けて走った。そして二人の手を両足で踏むと、そのまま高く跳躍した。天井が上から迫って来るものの、それよりも早く、彼女は空洞に掴まった。そしてそのまま全身に力を入れて、空洞の中に飛び込んだ。中には石の出っ張りがあり、何かの装置のようだった。
「待ってろよ」
アルアは石の出っ張りを両手で押すと、まるで何かのスイッチのように、石が壁に埋まって行く。同時に天井の動きが止まった。どうやら石の出っ張りは、天井の落下を止めるための物だったらしい。
「おお、天井が止まりました」
「助かったわ・・・・」
二人は腰を抜かしたのか、その場に座り込んでしまった。ファムが推測するに、この仕掛けは仲間同士の信頼を確かめる試験だったのだと考えられる。誰かが自分だけ助かろうと思い、他の人間と協力するのを放棄して、出し抜こうとした時、いつまでも脱出できずに、天井の下敷きになってしまうのだろう。つまり今回のように、皆で互いを信頼し協力することで、天井の動きを止める装置を発見できたのだ。
「さあ、行こうか」
いつの間にか、正面の壁が崩れて道ができていた。三人はその道を真っ直ぐと突き進んだ。果たしてこの先には何が待つのだろう。それはこの洞窟を造った者と神にしか分からないだろう。