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女騎士は美少年を愛してる  作者: よっちゃん
ロストアイランド編
16/121

決戦

マロは早朝、ロストアイランドの最終エリアである、竜王の遺跡の門前にいた。この先がロストアイランドのゴールである。そして今、ファムとアリッサが後ろで見守る中、クロウとの闘いが始まろうとしていた。

「フフフ、逃げずに来たか・・・・」

「今日、このゲームは終わるんだ」

「ああ、終わるとも、お前が死ぬことでな」

 クロウは遺跡の、石造りの床の上をコツコツと静かに歩いた。そしてマロから1メートルの距離で止まった。

「どれ、サービスしてやるか。俺とお前では実力に差がありすぎる。しばらくは神獣の魔法を使わずに闘ってやる。どうだ嬉しかろう・・・・?」

「君が手加減しようと僕は全力で闘うだけだよ」


 マロは叫んだ。クロウも掃除に叫ぶ。二人の背後にそれぞれの神獣の姿が現れた。クロウの神獣は、黑い人型の、背には同じく黒い翼を生やした、真っ赤な血のような色の瞳を光らせた、何とも禍々しい姿をしていた。

「ダイヤモンドミスト」

 マロの詠唱と共に、ウンディーネの周囲に白い霧が立ち込める。そして空気が凍り、無数の氷柱が出現した。

「今だよ」

 氷柱が一斉にクロウの元に放たれた。まるで針地獄のように、抜け目のない氷の刃が彼を襲う。しかし彼は笑っていた。いつの間にか、彼の神獣、その名もディアボロスが彼を護るように前に立つと、両方の拳で氷柱を砕いた。

「フハハハハハ。遅いぞ。眠ったままでも撃ち落とすのは簡単だ」

 氷柱は一本も命中しなかった。クロウはディアボロスと共に、空中に飛んだ。マロとウンディーネもそれに続く。


「ダイヤモンドミスト」

「生ぬるいぞ」

 ディアボロスは氷柱を再び、突きのラッシュで丁寧に砕いていくと、そのうちの一本を掴み、マロに向かって投げ返した。

「ごふ」

 マロは右肩に氷柱を刺され、そのまま地面に向かって急降下した。それをウンディーネが空中で掴み、一緒に、石造りの床に落ちた。バリバリっと石の床にひびが入る。マロとウンディーネは、血の混じった痰を吐き出して、再び立ち上がった。

「はあ・・・・はあ・・・・やばいね・・・・ウンディーネ」

 マロはウンディーネに肩を借りて、後ろに少し下がった。上空からディアボロスとクロウが降りてきた。そして両足を床に付け、ファムとアリッサの方を見て笑った。


「おい、そこでアホ面してないで、掛かって来るが良い。せっかくのお仲間が犬死するのを待っている気か?」

 ファムとアリッサは互いの顔を見合わせた。そして神獣を出すと、クロウに向かって行った。

「ごめん、マロでも見てられないわ」

「ああ、そうだな我々も加勢するぞ」

 ライディーンがディアボロスに斬りかかった。ディアボロスはそれを避けると、ライディーンの鳩尾に向かって、強烈なストレートを放った。

「ぐはあああ」

 ライディーンとファムは背後に吹っ飛ぶと、石造りの柱に背中を打ちつけて倒れた。次にサラマンダーが炎の舌、フレイムタンでディアボロスの体を巻き付けようとしたが、逆に舌を両手で掴まれてしまった。

「おい、この舌を引き抜いたらどうなるんだ?」

「ああ・・・・」

 アリッサの口から血が僅かに流れる。

「ディアボロス、舌を斬れ」

「グオオオオオ」

 ディアボロスは雄たけびを上げると、サラマンダーの舌を思い切り引っ張った。

「あああ・・・・」

 

 アリッサは口を押さえて、床に膝を打った。そこにウンディーネが現れて、ディアボロスの首を思い切り蹴った。

「グオ?」

 ディアボロスの体が仰け反り、サラマンダーの舌を放した。

「サラマンダー平気?」

「ああ、サンキューなウンディーネ・・・・」

 ウンディーネは両手をディアボロスの前で組んだ。

「マロ、あれを今こそやりましょう」

「うん」

 ウンディーネの体に冷気が立ち込める。それは先程のダイヤモンドミスト以上に深い霧のようにも見える。

「ダイヤモンドプリズン」

 マロの詠唱と共に、無数の氷柱がディアボロスとクロウの周囲をグルグルと回転し始めた。そして突然止まると、無数の氷柱が二人を取り囲んでいた。それはまさに逃げ場のない完全なる結界で、氷柱の先が、ディアボロスとクロウを囲み、今にも二人を串刺しにせんと構えている。


「やったぞ。マロ、これであいつを倒せる」

 ファムはようやく立ち上がると小躍りした。それを見てクロウがニヤリと笑った。

「馬鹿め。教えてやるディアボロスの魔法を。サービス期間は終わりだ」

 クロウとディアボロスは床の上に手をそっと乗せた。そして瞳をクワッと開くと、小さな声で魔法を唱えた。

「ホール」

 次の瞬間、クロウとディアボロスを囲む大地全体が激しく揺れ始めた。マロ達は床に吸い込まれるように、全員とも床に倒れ、顔を付けた。体が100キロの重りでも付けられているかのように重く、身動きが取れない。同時に二人を囲んでいた氷の結界が崩れて行く。氷柱が床に引っ張られ、次々と床にぶつかり割れて行ったのである。

 気が付いた時には、地形が変わっていた。大地の一部は不自然に陥没し、全体的に低くなっていた。


「終わったな・・・・」

 クロウは滅茶苦茶に破壊された周囲の地形を見て確信した。あれほどまでに立派に造られていた石の床は割れて、破片が飛び散り、その美しさは何処かに消えてしまっていた。木は折れ曲がり、枝が折れ、地盤も緩くなっていた。

「隙だらけだよ」

 突然、クロウの背後から声が聞こえた。それは彼の大嫌いな快活な少年の声だった。クロウはゆっくりと振り向いた。そこには泥だらけの顔で、ニコッと笑うマロの姿があった。その瞳はキラキラと輝きに満ちている。

「生きていたのか・・・・」

「ウンディーネの魔法にはね、アクエリアンと言うのがあって、水の膜を周りに張ることで、あらゆる衝撃を吸収し、僕らを護ってくれるんだ。もちろん、ファムもアリッサも無事さ」

「やるなクソガキが。流石は奴の息子だけのことはある。しかしお前は俺には勝てないな。何故だと思うね?」

「分からない・・・・」

「簡単だ・・・・」


 クロウはトボトボと歩き始めた。

「お前は、私を奇襲しなかったからだ。今の瞬間、私の背後から攻撃せずに種明かしをするなど、決闘者として失格だぞ」

 ディアボロスは遺跡の石柱を両手で抱きしめると、それを地面から抜いた。そして両手でそれを抱えた。

「ところで、お前の勇気は大したものだ。一つ良いことを教えてやろう。お前の父のことだ」

「え、ほんと?」

 マロの瞳がパッと明るくなった。クロウはマロの方を振り向いた。

「ああ、お前の父の名はガロという。かつて俺と、後、二人の人間とパーティーを組んでいた」

「そ、それで・・・・?」

「ああ、それでな・・・・」

 クロウが言いかけたその時だった。ディアボロスがマロの背後に現れた。そして石柱を横に薙ぎ払うと、マロの首に思い切り叩きつけた。


 マロの小さな体は空に投げ出さると、そのまま地面の上を転がった。首の骨が砕け、横を向いたまま動かなくなった。ファムは丁度、意識を取り戻し、背中の石の破片を取り除くと、眼の前でマロが跳んでいるのを見た。

 ファムの視界が色を失っていく。背中から冷たいものが流れて、全身を支配した。唇が乾燥して、喉の奥からは声を出したくても、ただ口が動くだけで、何も起こらない。ただ目の前に灰色の光景が広がっていた。

「マロ・・・・」

 ファムは走っていた。マロの元へ、一歩進むたびに悪寒が強くなっていく。ようやく彼を抱きかかえると、首がだらんと曲がり、そっぽを向いていた。心臓に耳を澄ませると、何の反応もない。脈もない。彼は眼を開けてくれない。もう笑ってもくれない。話してもくれない。そこにはいるマロは、すでに抜け殻で、魂はもう何処か、遠くへ行ってしまったように感じられた。


「ははっ、マロ。私だファムだ。クロウの奴を騙し討ちする作戦なのは分かるが、少し演技が上手すぎるぞ。私が騙されてしまったではないか」

 ファムはぎこちない笑顔で必死に笑った。視界がぼやけて、マロの顔が良く見えない。彼女は涙を手で拭った。

「そうか、これは氷の人形か。なあアリッサ、マロは何処に隠れているんだ?」

 ファムは、ようやく意識を取り戻して、マロの元へやってきたアリッサに微笑みかけた。しかし彼女の顔は無表情で、まるで割れかけのガラス細工のように、嗚咽を堪えて、涙が流れ落ちないように、必死に唇を噛んで、眼の上に涙を溜めていた。

「アリッサ、マロはガネーシャーの時と同じように、氷の人形で身代わりを残して、隠れてるんだ」


「そうなの。じゃあどうしてウンディーネはいないのよ」

「馬鹿だな。ウンディーネが出て来たら、作戦が失敗じゃないか」

 アリッサは首を左右に振った。そして諭すように言った。

「マロは死んだわ」

 その言葉共にファムはアリッサの胸倉を掴んでいた。

「今、何と言った・・・・?」

「マロはもうこの世にいないのよ」

「違うっっ。マロは生きている」

「死んだわ」

 ファムはアリッサから手を放すと、地面に膝を突いて大声で泣いた。それは駄々っ子のように、クールな彼女からは想像もできないほどに、声を上げ、空にまで届くように泣いた。

「泣いてる場合じゃないわ。私達が仇を討つのよ」

 アリッサは鋭い目でクロウを睨み付けた。ファムも立ち上がる。二人は同時にクロウの元へ走って行った。

 

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