激突
ガネーシャーは真紅の体を震わせ、ウンディーネの元に走ると、マンモスのような牙を伸ばした。そしてその牙をウンディーネの腹部に突き刺した。
「ぐっ」
ガネーシャーはそのままウンディーネを牙で持ち上げると、上下に牙を揺さぶり、より深く突き刺していくと、そのまま空中に放り投げた。
「パオオオ」
勝利の雄叫びか、ガネーシャーは鼻を鳴らすと、落下してきたウンディーネを牙で串刺しにして、再び空中に投げた。
まるで大人が子供と遊ぶように、あまりに一方的な攻撃だった。
「ああ、マロ」
ファムもアリッサも、その悲惨な光景をただ見守ることしかできない。しかし、ウンディーネの姿とは裏腹に、マロの体には傷一つついていない。肉体の一部を共有しているはずが、彼はまるでダメージを負っていないのだ。
「妙だな」
敵も異変に気付いたのか、クロウは顎に手を乗せ、怪訝そうにマロの様子を伺っていた。
マロはじっとウンディーネを見守ると、何か小声で呟いた。
「マロ今ですね」
ウンディーネの体はガネーシャーによって、空中に放り投げられる。これで5回目ぐらいだろうか、ウンディーネは今まで同様、落下して、真っ直ぐガネーシャーの元に向かっていた。だが、ここで不思議な現象が起こった。
落下しているウンディーネの姿が二重になっているのだ。それも縦に一直線に重なっていた。そして前方にいるウンディーネの胸から、ダイヤモンドサーベルが現れる。
「あっ」
驚いたのはシズクである。さっきまで攻撃していたウンディーネは、彼女が氷で作ったそっくりの人形だったのだ。そしてガネーシャーが牙で刺していたのは、全て氷の人形、本物のウンディーネは、氷の人形の背中にずっとくっついていたのだ。
きちんと付いていたため、ウンディーネが氷の人形から離れるまで、マロ以外は誰も気が付かなかった。
「ブギャャャ」
ガネーシャーは額を先程以上に奥まで刺され、断末魔さ叫びとともに、額から血を放出し倒れた。
「クロウ様…」
ガネーシャーの死はシズクの死でもある。彼女は敬愛する主の名を口にしながら眠った。
「シズクも敗れたか」
クロウは、拳を強く握りしめると、突然、荷物の袋から、大量の金貨を地面にばらまいた。
「どうだ。次は私と更に金貨を賭けて、闘わないか?」
クロウの持つ金貨は、手に入れば、即ロストアイランドクリアとなる量だった。
マロはクロウの顔を真っ直ぐ見ると、ニッコ
リ微笑んだ。
「ごめん、疲れたから今日はおしまい」
マロの言葉に、クロウは笑って返した。そして言った。
「やはりアイツの子だな。少しでも不利になる闘いは避ける。策士だな。それも根っからの」
クロウは袋に金貨を入れると、遠くにある石造りの神殿を指した。
「明日の早朝に、あの神殿に来い。金貨を全て集めた者は、あの神殿の内部へ入り、望みを一つ叶えることができるらしい。最後の金貨を賭けて闘うには、あの神殿の入り口が相応しかろう」
「良いよ」
マロの二つ返事、アリッサもファムも話について行くことができなかった。そしてこれはマロの闘いなのだとも思った。
その日の夜、マロとファム、そしてアリッサの三人はたき火を囲んで、森の中で野宿していた。最も宿泊する施設などない、ロストアイランドでは、野宿するしかないのだが。
「マロよ、いよいよだな」
ファムは棒に刺さったマシュマロを焼きながらマロの姿を見た。
「うん、クロウは僕のパパを知っているんだ。だから絶対に負けない」
マロは強く拳を握りしめた。そして来たるべき決戦の時を迎えるまで、後、数時間となっていた。