ウンディーネVSガネーシャー
アリッサはロードウォームの体内に呑みこまれた。辺りは沈黙に包まれた。勝負は決したように思われた。だがアリッサは死んではいない。彼女は生きていた。
「ウンディーネ、どうしたの?」
「マロ、アリッサは勝ちますよ。いえ、もう勝っています」
ウンディーネが説明し終わらないうちに、ロードウォームの体が熱を帯び始めた。アイルはその変化にまだ気づいていないようだった。そして勝利を確信したアイルは言った。
「さあ、次の相手は誰かしらん?」
「マロ、出ますよ。アイルとか言う小娘は、もう死んでいますから・・・・」
ウンディーネらしからぬ暴言、しかしその予言は的中する。次の瞬間、ロードウォームが突然苦しみ始めた。全身をブルブルと揺らし、口から炎を吐いた。同時に内部からサラマンダーの上に跨ったアリッサが飛び出してきたのだ。
「外がダメなら、中から破壊するまでよ」
アリッサは会心の笑みを浮かべた。ロードウォームは火を噴きながら後ろに倒れた。
「終わったのね」
アリッサは地面に膝を突くと、ふと、アイルの方向を見た。彼女は黒こげになったまま、最早、顔も性別も分からないほどに潰れている。
「この勝負も我々の勝ちだな」
ファムはアリッサの元へ駆け寄ると、彼女に肩を貸して、近くの岩に座らせた。そしてマロの方を強く見つめた。次の戦いはマロと、あの青髪の女との一騎打ちである。
「アイル負けたのか・・・・」
女は腰まで伸びた青い髪を靡かせながら、倒れているアイルの姿を見た。
「仇は討つ。このシズクが命に代えても」
青い髪の女シズクは、手に持っている白い布を。アイルの顔に被せると、マロの顔を睨み付けた。
「いよいよ、私の勝負する番。絶対負けない」
「僕だって・・・・」
二人の間に緊張が走る。マロが負ければ、次はファムが闘う。冷静に考えて、こちらの方が圧倒的に有利であったが、ファムやマロの表情は強張っていた。
「ウンディーネ」
「ガネーシャー」
二人の傍らに神獣がそれぞれ出現した。シズクの神獣はガネーシャーという。見た目で言うならば、まさに擬人化した象という表現がふさわしい。長い鼻がクルクルと、近くのゴツゴツした岩に巻き付き、それを打ち砕いた。見た目以上にパワーのある神獣だ。
「パオパオパオー」
ガネーシャーがその長い鼻を、ウンディーネに巻き付けようと伸ばした。しかしそれを上手く避けるウンディーネ。そして両手に氷を作ると、それをガネーシャーに向かって飛ばした。
「ダイヤモンドロック」
氷塊がガネーシャーの鼻にぶつかった。しかし砕けたのは氷だけで、ガネーシャーはまるでダメージを受けていなかった。
「マロ、どうしますか?」
「ウンディーネ、ダイヤモンドサーベル」
ウンディーネの右手から氷の刃が一直線に伸びると、ガネーシャーに向かって伸びた。
「ガネーシャー、チャンス」
シズクが言うと、ガネーシャーは氷の刃をジャンプして避けた。ウンディーネ-の必殺の一撃は、地面にぶつかり、折れてしまった。そして宙にいるガネーシャーは、そのまま鼻で、マロとウンディーネを捕まえると、地面に両足を付け、鼻をグルグルと振り回し、空に向かって二人を放り投げた。
「大寒波」
シズクの言葉と共に、ガネーシャーは空を見た。そして空から降ってくる二人に目掛けて、鼻の先から、低温の空気を放出した。
「危ない二人とも」
ファムが叫んだ。しかしそれも空しく、二人の体は低温の空気に晒されると、一瞬にして二人揃って氷漬けになった。それをガネーシャーは鼻を巻き付けてキャッチすると、適当な所に放り投げた。
「ガネーシャー上出来」
シズクはガネーシャーの頭を撫でた。
「さあ、次は誰?」
シズクはガネーシャーと共にファムをじっと見つめた。
「待て、勝負は決してはいない。二人は生きている」
「いや、死んでる」
シズクはあっさり言うと、ゆっくりと口を開いた。
「ガネーシャーは最強の神獣。極寒の前では、いかなる生物も、さっきのウイルスも生育できない。まさに無敵・・・・」
シズクの言葉にファムはニヤリと笑った。そしてマロとウンディーネ-の氷を見た。
「じゃあ、確かめてよ。本当に二人が死んだのかね」
「ガネーシャー」
シズクが命じると、ガネーシャーは180センチほどの大きな体を揺さぶって、マロとウンディーネの氷に鼻を巻き付けた。そして軽く持ち上げた。するとウンディーネの顔に笑みが浮かんだ。それに気が付いたガネーシャーが鳴き声をあげようとした、その時だった。
マロの口がゆっくりと何かを呟いている。それは魔法の詠唱であった。
「ダ・イ・ヤ・モ・ン・ド・サー・べ・ル」
瞬間、ウンディーネの右手の爪先から、氷を貫いて、同じく氷の刃が飛び出し、ガネーシャーの額を真っ直ぐに貫いた。
「パオパオー」
シズクとガネーシャーは額から血を流しながら、その場で蹲った。そしてダラダラと絶え間なく流れる血液を手で必死に拭った。
「くっ、私は・・・・」
シズクが立ち上がろうとした次の瞬間、背後から、黒く長い髪を目元まで垂らした男が彼女の肩を叩いた。それはマロとアリッサの宿敵クロウだった。
「クロウ様・・・・」
「帰りが遅いと思ったら、こんなことになっていたとはな。シズクよ。本気を出せ」
クロウの言葉にシズクの顔付きが変わった。
「そうだ、クロウ様の前で無様な姿、見せられない」
シズクが瞳をクワッと見開いた。同時にガネーシャーの体が赤く変色し始めた。体から白く高温の湯気が出ている。何かが始まろうとしていた。
「私のガネーシャー、怒らすと止まらない」
ガネーシャーは真っ赤になった体を震わせると、マロとウンディーネに向かって走った。




