夜明け
白い光が世界中を覆った。そして、それらは一つの大きな柱となり、星から宇宙へと真っ直ぐに伸びたのだった。
「マロ、アリッサ」
ファムは力の限り叫んだが、白い閃光が邪魔して、二人の姿を見失ってしまった。そして大地が裂け、ファムは地割れの中に呑みこまれると、そのまま意識を失った。
それから何時間が過ぎた。ファムはバルド城の門前で、城壁を背にする形で眠っていた。ふと、目を醒ますと、彼女の顔を、二人の兵士が見下ろしていた。
「ここは・・・・?」
ファムは起き上がると、周囲を見渡した。空は雲一つない青空で、町は賑やかに栄えていた。
「ファムさーん」
遠くの方から、手を振りながらソルガがやって来た。
「お前、死んだはずじゃ?」
「え、僕がですか?」
ソルガはおどけたように笑うと、そのままファムを横切って城の中に入って行った。彼女は思った。何かがおかしいと。そして空を見上げた。
「これは幻覚だ。全て嘘だ」
ファムが空に向かって叫ぶと、青空に小さな亀裂が走った。そして音を立てて崩れてると、まるでガラスのように砕け、いつの間にか黒い空間になっていた。周囲を見渡すと、町も人も消えており、ただの漆黒の闇が何処までも無限に続いている。すぐ近くには、マロとアリッサが横たわっていた。急いで二人の元に駆け寄ろうとしたが、それよりも速く。空にフワフワと浮遊しているアンジェリカを見つけて、足を止めた。
「貴様・・・・」
「今、私は神になった。この世界の神になったのだ。今、お前が見た光景は、新たな神である私によって造られた新世界だ。努力した者が救われ、怠惰な者は淘汰されて行く、真に正しい世界の誕生だ」
アンジェリカは地面に降り立った。そして指先をアリッサに向けた。
「お前達は新世界に到達させない。この闇の空間でお前達を始末する」
「待て、ここは何処なんだ」
「冥土の土産に知りたいのか。良いだろう。先程、私はパーフェクトワールドにより、世界を無に帰した。そして世界は消え、無だけが残った。それがここだ。この後に、私の力によって、新たなる世界が形成される。そして今、世界の創造を中断している。お前達を始末するためだ」
「ここで死んだらどうなる?」
「ここで死んだ者は、文字通り無となるだろう。新世界では、消されたお前達を除いた全ての人間が、正しく生まれ変わる。そして私は神として、永遠に君臨し続けるのだ。努力した人間が報われる世界のために」
「上等だ」
ファムはアンジェリカに向かって走った。
「馬鹿め。私は神になったのだぞ。既に概念となった私を殺すことなどできない。冷静に考えてみろ。台風が来た際に、お前達は台風に斬りかかるのか。台風に闘いを挑むのか。答えはノーだ。台風は過ぎ去るのを待つしかない。やり過ごすしかない。今の私は台風と同じだ」
アンジェリカの指先から金色の光線が放たれて、ファムの胸を貫いた。彼女は血を吐きながら後ろに倒れた。そしてニッと歯を見せて笑った。アンジェリカには、意味の分からない不気味な笑みだった。
「何を笑っているんだ」
ファムの笑った理由。それはアンジェリカの背後にあった。そこには一人の少年が立っていた。唯一、アンジェリカを倒せるであろう神獣を連れた少年が。