新たなる世界
あれからどれほどの時間が経過したのか。アンジェリカは自身の肉体の変化を感じていた。
「どうしました?」
シメネスが心配そうにアンジェリカの肩に触れようとした。その時だった。アンジェリカは呻き声をあげると、そのまま、シメネスの首を手で跳ねたのだ。
シメネスの首が血飛沫とともに、アンジェリカの足元に転がった。
「おい、何してるんだ」
クレトスはアンジェリカの変貌に驚いた。そして、彼女がもう人の言葉を理解できないことを知った。
「このままじゃ、俺まで殺される」
クレトスは指を弾くと、能力を解除した。
ファムとアリッサはそれと同時期に、部屋の中心に穴が現れたのを発見した。それは、クレトスが能力を解いたために、彼女らにも見えるようになったのだ。
「この中に奴等が」
ファムは穴を覗いてみたが、真っ暗で底まで見えなかった。しばらく観察していると、穴の奥から、金色の光が、まるで間欠泉のように、穴を抜けて、部屋全体を明るく照らした。
「気を付けてファム」
穴から、何者かが飛び出して来た。顔から足の先まで血に染まった男、彼はパクパクと金魚のように、何か喋りたがっていた。
「た、助け」
言い切るよりも早く、男の体が穴に吸い込まれた。そして、代わりに黒い影が一つ飛び出して来た。
「アリッサ、外だ」
本能で危険を察知したファムはアリッサとともに小屋を出た。そして、小屋の屋根上に立っている、一つの影を見た。
「あ、あいつはアンジェリカ?」
ファムは影の正体を知っていた。ソレは屋根から飛び降りると、ようやくのさ素顔を見せたのだ。
「うあああ、精神が乱れている。し、しかし、ついに新世界に到達できる」
アンジェリカが両手を広げた。ファムもアリッサもその姿に釘付けになった。すると、二人の間に、もう一人の人間が現れた。
「え?」
突然、隣を通過されたので、ファムは戸惑っていたが、それが誰なのか分かった時、彼女の瞳は涙で輝いていた。それはアリッサも同じだった。二人の前には、一人の少年が立っていた。そして、太陽のような、以前と変わらぬ笑顔で、二人の方を振り返った。
「ただいま」
少年は白い歯を見せて笑っていた。
「マロ」
ファムとアリッサは二人同時に叫んだ。
「二人とも行くよ」
ファムとアリッサは頷くと、三人でアンジェリカに向かって走って行った。
「アブソリュート」
「バルムンク」
「サラマンダー」
三人の渾身の一撃、しかし、それよりも速く、アンジェリカは一言呟いた。
「パーフェクトワールド」
アンジェリカを中心として、眩い光が辺り一体を包んだ。世界の崩壊と新生が始まる。