マイマイの謎
ファムとアリッサはアンジェリカとシメネスを追いかけていた。
「いくら走っても追い付けないわ」
「アリッサ、少し心は痛むが、ここら一帯の草を焼き払ってくれ」
「分かったわ。サラマンダー」
サラマンダーは口から火球を吐くと、周囲の草を燃やした。果たして、草は焼け、周囲は黒くなった地面と、焦げた草の残骸だけになった。
「これで見通しが良くなったな」
「私のサラマンダーの舌は、数メートルは伸びるわ。試してみましょ」
「サラマンダー、フレイムタン」
「おうよ」
サラマンダーは、炎の形をした舌を、アンジェリカ達目掛けて伸ばした。
蛇のように長い舌が、これ以上ないほどに伸びる。1メートル、2メートル、3メートル。しかしいつまでも経っても、アンジェリカには届かない。
「アリッサ、もう無理だ。舌が切れちまうよ」
「分かったわ。戻して良いわよ」
サラマンダーはアリッサに言われて、ホッとしたように、舌を口の中に引っ込めた。
「あいつら、見た目より遠くにいるみたい」
「いや、私達が全く進んでいないのかもしれない」
ファムは周囲の様子が全く変化しないことを指して言った。先程、炎で草を燃やしたが、全ての草を燃やしたわけではない。だが、いくら歩いても、焼け焦げた草と、黒い地面が続いていた。
「ねえ、陽が落ちたわ。早くしないと真っ暗になっちゃう」
「はあ…」
ファムは急に溜め息を吐くと、地面に座り込んだ。
「どうしたの?」
「今日はここで休もう」
ファムの唐突な提案に、アリッサは首を左右に振った。
「嫌よ。こんな虫が出そうな場所」
「虫がいるから良いんだろ。あ、てんとう虫だ。ラッキー」
ファムはてんとう虫を捕まえると、バクッと口の中に放り込んだ。横目で見ていたアリッサの顔色も気にせずに。
「うげええ、何でそんなの食べれるのよ」
「これだから姫は困る。貴重なたんぱく源だぞ 」
「何で、そんなに冷静なのよ。全く…」
呆れているアリッサを見て、急にファムの顔付きが真剣なものになった。
「アリッサ、動いてもダメな時だってある。悪戯に体力を消費するのは、危険だと、言っているんだ」
「でも…」
「良いから、ほら、バッタ食べて良いから」
ファム達が追って来ないのを見たシメネスは、クスッと小さく笑った。
「マザー、あいつら諦めたみたい」
「いえ、油断は禁物よ。最も、あなたの神獣マイマイがいれば、心配する必要はないけどね」
「私に敵意を向けた者は、決して私に到達できない。この蝸牛もやるわね」
シメネスの肩には、蝸牛が這っていた。あまりに小さく、弱々しい神獣だったが、今の二人には、これほど頼りになる存在はいない。