アンジェリカ再始動
「ソルガ・・・・」
ファムはソルガの元に駆け寄った。彼は死んでいた。しかしその表情はまるで生きているように安らかだった。彼は彼の役目を果たしたのだ。そして今の自分が生き永らえているのは、全て、彼のおかげだった。ファムは彼という存在を胸に刻むと、空を見上げた。
「何あれ・・・・?」
ファムの目線の先に、金色に輝く一本の線が、雲を突き抜け、自分のいる反対側に向かって進んでいるのが見えた。そしてそのまま、地面に落ちると、強烈な眩い光を放った。
「ファム」
いつの間にか、逃げていたはずのアリッサがマロを背負って戻って来ていた。
「今の光は・・・・」
「きっと、何かが起きようとしているのよ。さっきの緑髪の女が神がどうとか、言っていたけれど、もしかしたらそれかも知れない」
ファムとアリッサは互いの顔を見合わせると、強く頷いて、光の落ちた先に向かって走り出した。
その頃、シメネスは草原の真ん中で、新たなる神の誕生を涙ながらに迎えていた。そこには姿こそ変わらないものの、今までとは違う、新たなるアンジェリカの姿があった。
「マザー、ついに神となられたのですね」
「いえ、まだよ。はあ・・・・はあ・・・・、後、3日立たないと。ああ、精神が不安定でおかしくなりそう。この肉体を捨てて、神になるには、時間が必要なのよ。そして、孤独に耐える勇気もね」
アンジェリカは膝を突いて、そのまま地面に倒れそうになっていた。シメネスは素早く、彼女に駆け寄って、体を支えていた。
「行きましょう」
「ええ・・・・」
大きな志のために動き出そうとする二人の背後から、それを食い止めようとする二人、いや三人がいた。
「待て、そこまでだ」
ファムとアリッサ、そして彼女の背中で眠るマロが、草原に姿を現した。
「まずいです。マザー」
「落ち着くのよシメネス。今こそあなたの神獣を出すの。あなたの神獣は弱いわ。でも今は最も必要なものよ」
「ええ、分かりました」
二人は何を思ったのか。そのままプイッとファム達に背を向けると、そのまま歩き始めたのだった。
「あいつら、正気?」
アリッサとファムは、草を掻き分けながら、アンジェリカとシメネスの元に走って行った。距離で言えば、10メートルも無い。少し走ればすぐに追い付く距離だった。
ファムとアリッサは全速力で、ファムは重い鎧を、アリッサは背中のマロの存在を忘れるほどに、無我夢中で二人を追いかけた。しかし、奇妙なことに、いくら走ろうとも、二人との距離が縮まらない。二人は歩いているというのに、全く、歩いていても、走っていても、二人の元に到達することができないのである。
「どういうことよ。はあ・・・・はあ・・・・」
アリッサは額から汗を流し、思わず両膝を曲げ、その場で立ち尽くしてしまった。同じような草だけの景色が続くからだろうか。これは目の錯覚なのだろうか。いくら、考えを巡らしめても、二人に何故追い付けないのか。その謎だけが解けなかった。
「ねえ、ファム」
「ん、どうしたの?」
「奇妙よね。こんだけ走っているのに、追い付かないどころか、離れるわけでもないのよ。最初と同じ、一定の距離のまま、近付きも離れもしない。ずっと一緒、ずっと同じ距離のままなのよ」
「なぞなぞかしらね。いずれにせよ。この謎が解けない限り、私達、永遠にあの二人の元に到達できないわよ」